入力/出力トランスの違いで音作りが楽しめるモジュール型マイクプリ

ATLAS PRO AUDIOJuggernaut

ジャガーノート、と読みます。API 500シリーズ互換モジュールですが……ん? マイクプリにしては、ツマミが2つ、ボタンもちょっと多めですね。ツマミやボタンが多いとワクワクしてしまうのは僕だけでしょうか? 何か秘密がありそうです。早速探っていきたいと思います。

インピーダンス変更で音質調整が可能
インテリジェントなミュートも装備


API 500シリーズ互換規格はVPRアライアンスとも呼ばれていますが、着々と参入メーカーも増えていて、それに伴い数多くのモジュールが発売され、勢いのあるシーン(?)でもあります。本機はその規格にのっとったモジュールなので、何らかのAPI 500互換フレームに収めて使用することになります。今回は同社の2スロット・フレームRevolver(オープン・プライス:市場予想価格/59,850円前後)上での試用となりました。本機の最大の特徴は入出力トランスの切り替え/交換、入力インピーダンスの調整ができる機能を搭載していることです。まずインプット用に2種類のトランスが内蔵されていて、ボタンで切り替えが可能。IRONはアイアン(鉄)コア・トランス、NICKELはニッケル・コア・トランスで、マイクを接続したままスイッチングができます。さらに、出力トランスは標準ではアイアン・コアなのですが、オプションでニッケル・コアに乗せ換えることが可能(オープン・プライス:市場予想価格/10,500円前後)。これは自分で簡単に換装できます。そしてMIC LOADツマミで入力インピーダンスが300Ω〜10kΩで連続可変するので、これで音質調整ができます。いやはや、なんとも楽しそうな機材。単体プリアンプとしてはこれでもかというくらい音作りにポジティブです。ちなみに、フロント側のDI入力時は入力トランス切り替えとインピーダンス調整は無効になります。そのほか、GAINツマミは細かいクリックがあり扱いやすく、ハイゲイン・スイッチ(BOOST)もあります。位相反転スイッチや、何かと便利なミュート・スイッチも搭載。ちなみに電源投入時はミュートがオンで立ち上がり、入力トランス切り替え時やファンタム電源オン時なども自動で1秒ほどミュートされます。そのファンタム電源が長押しでオンだったり、クリップ・インジケーター搭載だったりと、とても考えられた親切設計です。また、気になった+THDボタンは10dBのアッテネーション機能。通常はPADと表記されそうなものなのになぜ?と思っていたら、“プリアンプのゲインでの増幅量をさらに上げることができるため、出力トランスからサチュレーションを得ることができる”とあります。音作りに積極的に使え、ということだったんですね。納得しました。

ビンテージ的なひずみから
クリア・サウンドまで自由に調整可能


さて、実際に音を聴いてみます。まずは、マイクをスネアに向けて立ててみました。ファットでいい感じ……と思ったら、設定をちょっと変えると途端にクリスピーなサウンドに。説明書にある基本設定にして自分の声も入力してみましたが、今度は若干サチュレート感があり、パンチある音楽的な音です。これはレビューが難しい(笑)。通常は“このトランスを積んで、こういう構成だから、こういう音”と表現できますが、本機はその構成/設定を変えられるので、かなり音質に幅が出ます。もっとこのフレキシブルな音作り機能を試したく(楽しみたく?)なったので、録音済みの素材を入力してみること数時間……楽しい(笑)。正直、マイクプリ単体機でここまで音質を変えられるとは思いませんでした。まずは入力トランスですが、IRONは損失が大きいので、色づけやひずみが大きくビンテージ的。一方、NICKELはフラットかつひずみが少ないという特性があり、フラットでしっかり抜ける、いわゆるクリアなサウンドです。そこから入力インピーダンスを調整すると、音質がかなり変わります。ローインピーダンス側に回すと低域が、ハイインピーダンス側に回すと中〜高域に特色が出てきます。さらに、オプションの出力トランスの換装も、先に述べたコアの性質が如実に出ます。本機は音作りの選択肢がかなり多いので迷うところもあるのですが、設定を追い込めたときの威力は素晴らしいと思います。個人的には特に、ベースの音に入力/出力トランス共にアイアン・コアで、ローインピーダンスにしたときのブリブリ感は、“あー、これこれ!”と、とても感動しました。この感じは、コンプやEQでは作れない質感です。そもそもプリアンプの役割はマイクや楽器の信号のゲインを調節する、ただそれだけです。しかし本機は、そのシンプルな役割/構造の中で可能な限り音作りを楽しもうとする設計意図がひしひしと感じられ、とても好感が持てました。
ATLAS PRO AUDIO
Juggernaut
オープン・プライス(市場予想価格/139,650円前後)

SPECIFICATIONS

▪マイク入力周波数特性(+1/3dB)/32Hz〜52kHz(アイアン・コア入力:10kΩ)、22Hz〜17kHz(アイアン・コア入力:300Ω)、7Hz〜52kHz(ニッケル・コア入力:10kΩ)、5Hz〜17kHz(ニ.ッケル・コア入力:300Ω)
▪DI入力周波数特性(+1/3dB)/7Hz〜35kHz
▪外形寸法/38(W)×133(H)×170(D)mm
▪重量/692g(本体)