原音に忠実な再現力で楽器にもボーカルにも使えるデジタル・マイク

NEUMANNTLM103D

今回レビューするのはご存じNEUMANNが新たにリリースするデジタル・マイク、TLM103Dです。同社は2003年のSolution-D D-01の発売以降、積極的にデジタル・マイクの開発を行っており、既に幾つかのモデルを発表しています。本機はデジタル・マイクとしては比較的リーズナブルな価格設定がなされており、デジタル・マイクの普及と新たなユーザー層へのアピールを狙う同社の意気込みが感じられます。

ADコンバーターやマイクプリ不要
TLM103のデジタル・バージョン


本機はコンデンサー・マイク、TLM103のデジタル・バージョン。NEUMANNの数々の名機に使用されたK87カプセルをベースに開発されたK103ラージ・ダイアフラム・カプセルを搭載しています。指向性は単一で、サンプリング周波数は44.1〜192kHzまで対応。出力は24ビットですが、内部処理は28ビットで行われているようです。マイク・カプセル直後のTLM103D本体内のコンバーターでA/Dされ、ゲイン調整やリミッティングなどもデジタル領域で行われます。つまり、本機の中にマイクプリやコンプ、ADコンバーターが内蔵されているので、ある意味リーズナブルと言えるでしょう(なお、ゲインやコンプの設定には後述するソフト、RCSを使用します。マイク本体に操作子は装備されていません)。また、マイク・カプセルをはじめすべてがNEUMANN開発の回路なので、よりピュアな“NEUMANNサウンド”を聴くことができるのではないでしょうか。デジタル・マイクの場合、当然ながら通常のマイクとは接続方法が全く違います。TLM103Dは本体でのA/D後にAES42という規格のデジタル信号を出力します。この規格に対応するレコーディング機器はまだ少数なので、NEUMANNではAES42をAES/EBUに変換するためのデジタル・マイクロフォン・インターフェース、DMI-2(147,000円)を用意しています。通常はTLM103DとDMI-2を接続し、DMI-2のAES/EBU出力をオーディオ・インターフェースなどに接続することになります。またDMI-2にはRCSというコントロール用ソフトも付属します。AES42は音声信号だけでなく、クロックやファンタム電源、それにゲインなどを設定するためのコントロール信号も扱えるのですが、DMI-2とコンピューターをUSB接続することで、RCSからTLM103Dの各種設定が可能になるのです。例えば、ゲイン設定は1dBステップ(!)で可能、そのほかコンプレッサーやリミッター、位相反転、PAD、ローカット・フィルターなどのコントロールも行えます。ほかにもより簡単な接続方法として、NEUMANNはAES42をAES/EBUもしくはS/P DIFに変換するコネクション・キット(28,350円)も発売しています。ただし、この場合はRCSからのコントロールはできません。

圧倒的なS/Nの良さ
ギターやストリングスに最適な解像度


それでは早速試してみましょう。今回はDMI-2を介して、DIGIDESIGN Pro Tools|HDに24ビット/96kHzで録音します。まずはアコースティック・ギターにオンマイクでセットしてみました。音色はクリアの一言に尽きます。ひずみの成分が全くといっていいほど感じられません。解像度が非常に高く、情報量の多いサウンド。高域には滑らかな独特の質感があります。オフマイクでセットしても、音像がぼやけることなく距離感を表現してくれます。弾いてくれたギタリストが、“ストロークでもそれぞれの弦が聴き取れる”と言っていたのが印象的でした。今回は試せませんでしたが、ストリングスに最適なのではと思わせるスムーズな高域のキャラクターを持っています。続いて男性ボーカルでも試してみました。こちらもかつて聴いたことのない質感で、非常にクリア。全く色付けされている部分が感じられません。ひずみが無い分、若干パワフルさに欠ける気もしますが、ここまで色付け無く録音できるのはまれな個性だと思います。ドラムのオフマイクでは、RCSからコンプ/リミッターをかけてみましたが、非常にスムーズな動作で細かい設定もでき、実際に現場で使えるコンプレッサーだと感じました。特筆すべきなのは、コンプ無しでも出力レベルが安定しておりレコーディングしやすい点です。微細なマイク・レベルの信号を引き回すことによる信号のロスや、アナログ回路を複数通ることによる弊害は完全に回避できていると言えるでしょう。また、録音時の設定が完ぺきにリコールできるのも大きなメリットと言えるでしょう。DAW全盛の現在、録音時に音色や質感をアナログ領域で作り込み、それをファイル化する手法が有効だと感じていますが、全く色付けやロスの無い本機でデジタル録音し、プロセッシングはフル・デジタルというレコーディングも新たな世界を見せてくれそうです。20081001-09-002

▲オプションのデジタル・マイクロフォン・インターフェース、DMI-2のフロント・パネル。2本のデジタル・マイクを接続可能


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▲DMI-2のリア・パネル。入出力部は左からch1入出力(XLR)、ch2入出力(XLR)、マスター・クロック入出力(BNC)、ユーザー・ポート、コントロール・バス

NEUMANN
TLM103D
241,500円

SPECIFICATIONS

▪指向性/単一
▪周波数特性/20Hz〜20kHz
▪感度/−39dBFS(@1kHz、94dB SPL)
▪S/N/87dB
▪最大SPL/134dBSPL
▪サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz
▪ダイナミック・レンジ/127dB
▪付属品/マイク・ホルダー
▪外形寸法/60(φ)×132(H)mm
▪重量/460g