モニターの設置状況や部屋鳴りなども再現するヘッドフォン・アンプ

SPLPhonitor

エンジニアも自宅作業が多くなった今日このごろ、やはり問題は深夜の音量。そうなってくると、どうしてもヘッドフォンを使わざるを得ない状況になってくるのですが、音質、音像、距離感がなかなかつかみにくい。そんな中、モニター・スピーカー・システムの代用として使用できるヘッドフォン・アンプという触れ込みでSPL Phonitorが登場。早速試してみましょう。

ステレオ1系統の入力を
ダイレクト・スルーで出力できる


全体のデザインは高級感があり、各操作子の配置も分かりやすく、初めてでもすぐに使用できると思います。独特なのは通常のヘッドフォン・アンプとしての機能に加えて、モニター・スピーカーの設置状況による、音質変化をシミュレーションする機能が装備されている点。こちらについての詳細は、後述します。まず、中央に配置された大きめのボリュームつまみ。回し心地には適度な重さがあり安心感があります。リア・パネルにはステレオ1系統の入力(XLR)とスルー出力(XLR)を装備。スルー出力はフロントの操作子の影響を受けないので、ダイレクト音をアンプやスピーカーへ出力することが可能です。もし、これにON/OFF付きの別ボリュームが付いていたら、モニター・セレクターとしても使用できたと思います。また、よく考えられているなと思ったのはリア・パネルの文字表示。裏に回り込めない設置状況では、ケーブルの付け替えなどは上からのぞき込まざるをえません。その場合、通常の文字表示ではケーブルが邪魔をして見えにくかったり、読む方向が逆になってしまい、分かりにくいことがあります。しかし、本機には通常表示に加え、のぞき込んだときに読みやすい位置に上下逆向きの文字がプリントされているので、一目りょう然なのです。これは、何でもないことなのですが、よくデザインされているな、と感じました。

音質は豊かでつややか
楽器ごとの奥行きも判別可能


では、実際に使用してみましょう。ヘッドフォンはSONY MDR-CD900を使用しました。音量は必要にして十分。私が音源を聴く場合、本機のボリューム位置で9時あたりがちょうど良い程度です。S/Nもかなりよく、通常のキュー・ボックスの使用時に気になるようなヒス・ノイズはほとんど感じられません。全体の音質は、非常に豊かでつややか。楽器の奥行きも判別可能で、さまざまな音源で試聴した結果、オールラウンドな印象です。ヘッドフォンでモニターすると、音のエッジやアタックが気になることが多い中で、こういう感じに聴こえる製品は初めてかも知れません。さらに、本機にはモニターの設置状況をシミュレートする3つの独特な機能があります。私は自宅では、机の向こう側に立てたスタンド上にモニターを設置しており、モニターまでの距離は1.5m程度、左右のモニターの距離はそれより少し狭い程度なのですが、これに近い設定を作ってみましょう。まず、CROSSFEED。これは、設置環境における、アンビエンスをシミュレーションする機能。6段階調整が可能で、最小値ではデッドな部屋、値を大きくするにつれライブな部屋となっていきます。変化の仕方は、デッドな部屋だと、LRがはっきり分離して聴こえますが、ライブな部屋では反射音が混ざるため、LRが混ざって聴こえる感じになります。個人的には、最小値での使用が音の判別をしやすかったです。次にSPEAKER ANGLE。これは、リスナーに対する左右のスピーカーの角度をシミュレートしたもの。ステレオ・イメージの広がりを調節する機能で、つまみは15°〜75°の間の6段階で調整可能となっています。普段のスピーカー・セッティングに近い感じだったのは55°でした。角度が小さくなるほどモノに近い印象となり、センターが出てきます。逆に角度を大きくすると、ステレオ感が広がる分、センターは下がった感じになるのです。そうなると、センターの量を調整したくなります。そのときに登場するのがCENTER LEVELで、これはセンター・レベルを6段階の調整幅で持ち上げる機能。SPEAKER ANGLEとの組み合わせで、自分の普段のスピーカー・セッティングに似ていると思ったのは、最大から一つ下の−0.6dBでした。上記の3機能にはON/OFFスイッチが付いています。上手に組み合わせれば、どんなヘッドフォンを使っても、かなりのモニター環境を作ることができるでしょう。さらに、LRどちらかのみを聴けるようにする、SOLOスイッチ、LRで個別に位相反転できるフェイズ・スイッチも装備。フェイズ・スイッチは、各音源の位相を見たいときに便利です。モノラルにしたときの聴こえ方をシミュレートするMONOスイッチやDIMも搭載されています。VU/PPMメーターは、左右の入力に対して1つずつ装備。入力信号の有無をLED表示するSIGライトと、オーバーロード時に点灯するOVLライトも搭載。視認性も良いです。さらに、METER CAL.は、メーター表示を6dB下げるスイッチ。DAWでのミックスは、メーターが0dB調整だと、どうしても振り切れてしまうので便利です。疲れない音楽的な音だし、いいセッティグを見つけ出せれば、スタジオと自宅とのモニタリング環境の誤差をかなり減らせると思います。

▲リア・パネル。左よりグラウンド・リフト・スイッチ、アナログ出力×2、アナログ入力×2(すべてXLR)

SPL
Phonitor
366,250円

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/10Hz〜200kHz(−3dB)
▪クロストーク/−67dB(1kHz)
▪ダイナミック・レンジ/129.5dB
▪入力インピーダンス/10kΩ(アンバランス)、20kΩ(バランス)
▪出力インピーダンス/75Ω
▪外形寸法/216(W)×106(H)×393(D)mm
▪重量/4.05kg