NEVE 1073の内部回路を再現した3バンドEQ付き1chマイクプリ

CHAMELEON LABS7602

今回レビューするのは、3バンドEQ付きの1chマイクプリ、CHAMELEON LABS 7602です。シアトルにあるハードウェア・ブランドの製品で、生産工場を中国に置くことによる効果的なコスト管理のもと“リーズナブルな値段でハイクオリティな製品を提供する”というコンセプトで、名機NEVE 1073の内部回路を再現しているとのこと。幾つかのブランドから、NEVEのシミュレーション・モデルというEQやマイクプリが発売されていますが、それらのモデルと比較しても、価格では群を抜いている印象です。私自身もユーザーである1073との比較を含めて、さてさて実力はどんなものか!

High EQの周波数を選択可能など
1073には無い機能も搭載


まずは見た目。素材はアルミ、シルバー・カラーのシャープなデザインです。付属の専用電源、CPS-1は7602を2台まで電源供給でき、こちらも同様のカラーリングとなっています。そもそも1073は、コンソールにビルトインされていたモジュールなので、当然縦型です。しかし、この7602は最初からラック用に設計されているので、各操作子が1Uの中に機能的に配置されています。操作子は、左からDI入力(フォーン)、4つのスイッチ(DI/ファンタム電源/EQバイパス/位相反転)、ローカット・フィルター、3バンドEQ(各バンドには周波数つまみとゲインつまみを搭載)、マイク/ラインの入力レベルつまみ、出力レベルつまみが並んでいます。1073と違う点としては、High EQの周波数ポイントが5ポジションから選択可能となっている点、ちなみに1073は12kHz固定です。また、各EQのゲインは±20dBとなっており、これも±16dBだった1073とは違い、さらにDI入力と出力レベルつまみも1073には無かった機能です。

S/Nもよく小音量にも十分対応
粘り気のあるサウンドが魅力


では、実際にマイクをつないで音を聴いてみましょう。まずはダイナミック・マイク、SHURE SM57で声をチェック。ゲインも全く問題無く、少し粘り気があるサウンドです。小さめの声でもS/Nは良い印象でした。続いて、コンデンサー・マイク、NEUMANN U87でアコギをチェック。アルペジオやカッティングでは、特に高域の抜けの良さが感じられました。中低域もしっかりとしていて、好印象です。次に、1073との聴き比べ。両機を同設定にして、同じマイクをセッティング。比べてみると予想通り、2つのマイクプリはとても似たキャラクターとなっており、若干7602の方が、高域に伸びのある印象です。突っ込み気味の入力時には、もう少し両者の違いが出てきます。1073では中域にざらつき感が出てくるところで、7602ではもう少し高めの中高域でざらつき始めました。入力レベルをどんどん上げていくと、このざらつき感の出てくる帯域からひずみ始めて、その周囲の帯域にひずみがにじんでいく感じになり、サウンドにも明確なキャラの違いが表れます。そして、完全にひずんだ状況では、その違いはより強くなる感じです。ただし、このひずみ具合も安価なマイクプリで発生する中低域での細いひずみとは違い、太めのサウンドなのが特徴。入力レベルのセッティング次第では、幅広い使い方に対応できそうです。また7602の方が、少しだけひずみ出すポイントが遅い(これはマイクプリが頑張っている証拠)ので、ストレートなサウンドが欲しいときには、こちらが有利でしょう。EQやフィルターも1073の質感にすごく似ています。ゲイン幅が±20dBなので7602の方がより効く感じですが、ブースト時にはひずみが激しくなってしまうので、入力レベル/EQブースト/出力レベルのコントロールには、十分注意が必要となるでしょう。

入出力段に搭載された
トランスがサウンドの決め手


1073の魅力の1つに、少し大きめな入力に対してひずみ出す直前の、コンプ的でもリミッター的でもない、粘り気のある独特な太めのサウンドがあります。入出力段に個別に設置されたMARINEAIRトランスが、サウンドの決め手になっているのですが、本機も同様で入出力段に個別のトランスを設置しているようです。これがサウンドの傾向(におい)を、かなり近くしている要因と思われます。EQのゲイン幅がよりワイド・レンジに設計されていたり、High EQに1073には無い周波数ポイントが追加されているのは最近のデジタル環境を考慮してのことなのでしょうか。中低域のEQでも周波数ポイントが増えていたら、より使い勝手が良くなるかな〜! とも思いました。また、出力レベルつまみですが、これはとても便利です。入力レベルつまみが5dBステップ(これは結構大きな差が出る)なので、これにより、その中間をトリミングできるのです。オーバー気味な入力や、EQでブーストした場合でも、ベストなレベル設定が可能となります。1073は世界中で人気があり、入手困難な製品です。個体差もあり、取引されている金額も高額で、おいそれと購入できるものではありません。ベストな録音レベルの設定も簡単ではなく、ビンテージ機器特有の接触不良なども多く、コンディション維持のためのメインテナンスは、プロでも経験が必要です。今回チェックした7602は1073を良いコンディションで、しかも現在のデジタル環境に対応した形でシミュレーションしたモデルだと思います。コスト・パフォーマンスを考えたら、これは……、舌を巻かざるを得ない!

▲専用電源ユニット、CPS-1(上)とリア・パネル(下)。リア・パネルの入出力端子は左からアナログ・マイク入力(XLR)、アナログ・ライン入力(XLR)、アナログ出力(XLR)

CHAMELEON LABS
7602
オープン・プライス(市場予想価格/117,600円前後)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性声/11Hz〜77.65kHz(−3dB)
▪入力インピーダンス/1.2kΩ(マイク)、10kΩ(ライン)、100kΩ(DI)
▪最大出力/+26dB(600Ω)、+20dB(150Ω)
▪外形寸法/480(W)×45(H)×305(D)mm(本体のみ)
▪重量/5.5kg(本体のみ)
▪付属品/専用電源ユニット、CPS-1