膨大な音色と高品位エフェクトをスピーディに操れる音源モジュール

YAMAHAMotif-Rack XS

ちまたではさまざまなソフト・シンセが隆盛を極め、あらゆる音楽制作の現場で欠かせない存在となっています。一方で“やはりハードウェア・ベースのシンセは手放せない”という話も数多く耳にします。今回ご紹介するYAMAHA Motif-Rack XSもそんなハードウェア音源でラック型の新モデルです。かくいう自分も前モデルのMotif-Rack ESを所有しており、いまだに現役バリバリです。では早速スペックから見ていきましょう。

5つのコントロール・ノブで
素早い操作を実現


Motif-Rack XSはMotif XSと同等の355MBのWAVE ROMを実装しており、1,152ボイス+65ドラム・キットを収録。新鮮で力強い音色が目白押しとなっています。早速箱から出して結線を済ませ、まずは前部のレイアウトをチェックしてみます。前モデルのMotif-Rack ESでは独立していた電源スイッチが本機ではボリューム・ノブと兼用になりました。その分空いた右のスペースには5つのコントロール・ノブがついており、定番のカットオフやレゾナンス、ADSRの設定、ポルタメント・コントロールやEQ、各種エフェクトのパラメーターを感覚的に操ることができます。これまでは音色を調整する際、ディスプレイのページを階層深く潜っていく必要があったのですが、これならパラメーターをいじるとき、スピーディにガンガン変えていけるのでとても好印象です。また目的の音色を探すのに必要な“カテゴリーサーチ機能”も、サーチ画面に入ってカテゴリーを選択し、音色を探すという一連の動作をディスプレイ右の“エンコーダーノブ”1つでほぼ完了できるのも、作業効率が非常に良いと言えます。この抜群な操作性は常にタイトな締切を抱える作家、トラック・メイカーの方ほど恩恵を受けられるのではないでしょうか。

さまざまなジャンルの音源で
フレキシブルに使用可能


ざっくりとさまざまな音色をチェックしてみて気付いたのですが、まず内蔵エフェクトのクオリティが高いです。ピアノ系などにデフォルトでかかっているリバーブですら、非常にキメの細かい粒子となって音色に彩りを添えてくれます。エフェクトは、インサートで使用するインサーションエフェクトA/B(53種)、センド/リターンで使うリバーブ(9種)とコーラス(22種)、最終段のマスターエフェクト(9種)/EQの3種類が用意されこれらを同時に使用できます。ただし、最大16パートのマルチモードで同時使用できるインサーションエフェクトは最大8パートまで。またリバーブとコーラスはパートごとではなく、メイン・ミックスでのセンド/リターンとなります。これだけでも相当な音作りが可能ですね。エフェクトの中にはアナログ・サウンドを再現する“VCMエフェクト”も含まれ、一歩踏み込んだ音作りも可能です。まずはプリセットの“Full Concert Grand”を弾いてみると、低域から広域まで非常にリッチな響きで、特に減衰の美しさに引かれました。エレピ系を見てみると定番のRHODES系からYAMAHA DX7、WURLITZERまで、とても充実しています。シルキーな音色からちょっと汚してある音色まで盛りだくさんです。アコギ系もつやっぽい音色がそろっています。“HIP-HOP Steel Guitar”はまさにヒップホップ系楽曲のようなローカット/ハイブースト具合が気持ちがいいです。シンセ系の音色ではビビッドでエッジの効いた音色にヤラレました。サウス系ヒップホップのブリブリした音色など相当使える印象です。ドラム系はトランス、テクノからヒップホップまであらゆるジャンルを冠したキットが並びます。ダンス・ミュージック周辺ではドラム音色のはやり廃りが激しいのですが、昨今の流行を反映したものから、スタンダードな生ドラムまで、フレキシブルに使える印象。先に紹介した強力なエフェクト群と合わせて音色作りを行えば、鬼に金棒でしょう。さらに同社のWebサイトから無料でダウンロードできるソフト、Motif-Rack XS Editorで本体の音色設定をコンピューター(Window/Mac対応)側で制御可能です。付属のUSBケーブルを使って本体とパソコンをつないで、ソフトとドライバーをインストールすればOK。非常に視認性の優れた環境で音色のエディットを行えます。またオプションのMlan16E2(44,940円)で6イン/16アウトのオーディオと16ch分のMIDIデータをFireWireケーブル1本で送受信可能になります。コンピューター上のDAWなどからステレオ3系統のオーディオを本機に入力してエフェクトをかけたり、本機の出力端子からDAWの音をモニターすることができます。もちろんマルチモード時の16パートをコンピューターへパラアウトし、マルチでの録音も可能です。つまり煩わしいオーディオの書き出し時間を大幅に削減し、作業に没頭する時間を増やすことができるのです。今回本機をチェックしてみて、ノブによる操作性の良さはハード・シンセの強みだなとあらためてめて感じました。その上、エディターを使うことでソフト・シンセ的な優れた視認性を取り込み、モチベーションを下げることなく制作をフィニッシュまで追い込むことを可能にする、非常に隙のない音源だと言えるでしょう20080901-07-002

▲リア・パネル。左からUSB接続端子、MIDI入出力、S/P DIFデジタル出力(コアキシャル)、アサイナブルアウトプット×2(TRSフォーン)、アウトプット×2(TRSフォーン)

YAMAHA
Motif-Rack XS
168,000円

SPECIFICATIONS

▪最大同時発音数/128
▪最大パート数/16
▪ボイス/プリセット:1,024ノーマル・ボイス+64ドラム・キット、GM:128ノーマル・ボイス+1ドラム・キット
▪量子化ビット数/24ビット(デジタル出力)
▪サンプリング周波数/44.1kHz(デジタル出力)
▪外形寸法/480(W)×44(H)×379.4(D)mm
▪重量/4.2kg