
DJプレイもデジタル化が進み、DJブースにコンピューターのある風景ももはや珍しいことではなくなってきました。そんな時流の一歩先を読むかのように、ターンテーブルとDJミキサーとDJソフトを合体し、さらに進化させたと言っても過言ではない製品が発売されました。
オーディオ・インタフェース機能と
MIDIコントロール機能を持つVCI-300
本製品はMIDIコントロール機能に加えて、オーディオ・インターフェース機能を搭載するDJ用フィジカル・コントローラーVCI-300と、それをコントローラーとして使用することを前提にデザインされたMac/Windowsで動作可能なDJソフト、SERATO Itch(画面①)がセットとなっています。ItchをインストールしたコンピューターとVCI-300をUSB接続してオーディオ・ファイルを操作する、コントローラー/ソフト/オーディオ・インターフェースが1つになったDJシステムなのです。▲画面① 付属ソフト、Itchの画面。再生/停止、ピッチ操作、ボリューム調節などの操作子が無いシンプルなデザインが特徴。DJプレイに必要な情報がすべてこの画面に凝縮されており、VCI-300と連動して、マウスやキーボードを使わずに操作することができる この手の製品は大抵配線が面倒だったりしますが、本システムにそんなことは無く、コンピューターとVCI-300をUSBケーブルでつないでVCI-300搭載の2系統のステレオ出力(TRSフォーン、RCAピン)からアンプやパワード・スピーカーにつなげばセッティング完了です。USBバスパワー対応(別売りACアダプターも使用可能)なので通常使用であればACアダプターも必要無し!VCI-300は黒と銀のアルミ・ボディでタフそうな作り。サイズは17インチ・サイズのラップトップくらいで、重量は3.2kgで超軽量とまではいきませんが、DJセット一式と比べれば、かなりコンパクトなサイズと言えます。ジョグ・ホイールと縦フェーダー、ピッチ・スライダー、3バンドEQ、再生/停止、ループ、オート・テンポといった操作子が2基ずつとクロスフェーダーが1基搭載されており、ミキサーとターンテーブルの操作性が1台に凝縮されている感じです。そのほか、Itch上でファイル検索をするためのボタンやモニター調整のつまみなどが装備されています。
マウスやキーボードに一切触らずに
プレイしたい楽曲を選択可能
今回使用したマシンはAPPLE MacBook Intel Core 2 Duo 2.0GHz、Itchのインストールはものの数分で完了。立ち上げるとつまみ、ボタン、フェーダーなどが一切無いシンプルなスクリーンが出現。実際の操作はVCI-300上の操作子を使用するコンセプトのようです。ItchはAIFF、WAV、MP3、AAC、Ogg Vorbisといったファイル形式に対応。APPLE iTunesやRANE Serato Scratch Liveのライブラリーもそのまま使用可能です。通常のDJプレイでレコード箱を持っていくのと同様、Itchには仮想レコード箱(CRATES)が用意されています。CRATESフォルダーにあらかじめ自分のかけたい曲をインポートして準備しておくのです。選曲作業はVCI-300の中央付近にあるNAVIGATION/CRATES/FILES/BROWSEのボタンを組み合わせて使うことにより、一切コンピューターに触らないでストレス無く行えます。VCI-300中央付近にある円形のNAVIGATIONボタンは上下左右にクリックしてItchの画面上部、約3分の2を占めるライブラリー画面内でカーソルを移動させることが可能。FILESボタンを押すとホスト・コンピューターのハード・ディスク内にあるインポート可能なファイルが検索できるようになります。インポートしたファイルはライブラリー画面左にあるCRATESセクションに並ぶCRATESフォルダーに収納し分類可能。CRATESボタンを押すとCRATESフォルダー内の楽曲をファイル名で検索可能となり、BROWSEボタンを押すとCRATESフォルダー内のファイルをジャンルやBPM、アルバム名などの情報から検索して選ぶことができるようになります。さて、再生したいファイルにカーソルを合わせNAVIGATIONボタンの下にあるSCROLLボタンとPFL Aボタンを同時に押すと、選択したファイルがItchの左デッキにロードされます。この状態で左のジョグ・ホイールの下にあるPLAYボタンを押すとそのファイルが再生されるのです。同様の手順で右デッキにもファイルをロード可能(SCROLLボタンと同時に押すのはPFL Bボタン)。AまたはBのPFLボタンを押すとモニター・チャンネルが切り替わるので、今ロードした曲がヘッドフォンでモニターできる合理的な設計になっています。左デッキから流れる曲に合せ、ヘッドフォンで右デッキをモニターしつつ、音量やBPMを合わせてミックスしていくのは、通常のDJプレイとなんら変わりがありません。実際ミックスして気付いた点が幾つかあるので紹介します。まずヘッドフォン出力が十分に確保されており大音量下でのモニタリングにも問題がなく、デジタル特有の高域での痛さが無いということ。またEQ処理もモニターに反映される上、2基の縦フェーダーの内側に搭載された12連LEDレベル・メーターで左右デッキの音量が一目りょう然なので、繊細かつ丁寧なミックスができます。
ジョグ・ホイールはタッチ・センスや
トルクを好みに調節することができる
オートBPM機能であらかじめファイルのBPMを検出しておけば、Itchに表示されているBPMもピッチ・スライダーの上下とともに変動するので、テンポ合わせが簡単になります。“もっと簡単にテンポを合わせたい!”という人のためにはとびっきりのオート・テンポ機能が用意されていて、ピッチ・スライダーのすぐ隣にあるAUTO TEMPOボタンを押せばかなりの精度で両トラックのテンポを合わせてくれます。筆者は必要としませんでしたが、両トラックの小節頭を波形で表示してくれるテンポ・マッチング・ディスプレイや、両トラックにおけるビートのピークを視覚的に表すビート・マッチング・ディスプレイ(画面②)、BPMの近いファイル同士であればビートのずれを自動的に合わせてくれるビート・シンク機能などの補助ツールもあるので、DJに自信の無い人でも容易に2曲をつなげられるはずです。

DJプレイを内部ルーティングして
AIFFファイルとして書き出し可能
基本的な性能に触れたところで、現場(=クラブ)での使用を仮定して数十分のDJミックスをしてみましょう。まず最初に、部屋の電気を消します(笑)。ちょっとバカらしい気もしますが、手元がしっかり見えるかどうかは重要なこと。VCI-300にはボタンごとに色分けされたカラーLEDが搭載されているので視認性もバッチリ。また本システムにはオート・ループ機能も搭載されており、オートBPM機能でテンポが割り出されているファイルであれば、あらかじめ設定した小節数でループ再生してくれます。曲の構成をリアルタイムで変更したり、1/8拍といった短いループ設定にすることで、ディレイのような効果を付けたりすることがワンタッチできるので、ループを直感的にプレイに反映させていけます。以上の検証を行なっている間に、実はVCI-300のレコーディング機能を使いDJプレイを録音してみました。マスター出力の直前で分岐された信号が内部ルーティングで16ビット/44.1kHzのAIFFファイルとして、ホスト・コンピューター内のハード・ディスクに保存されます。マイク入力やステレオのライン入力も装備しているので、そこに接続されたサウンドを録音することも可能。録音したサウンドをデッキにアサインし、さらにオーバーダブしていくことも可能なので、ミックスCDを作るのみならず、いろいろな使い方ができそうです。なお、余談ですがキーボードでの操作に慣れているという方はSerato Scratch Liveのショートカットで使えるものもあるので試してみてはいかがでしょうか。ということで、筆者なりの使い方をしつつ検証してみましたが、DJプレイでやりたいことのほとんどをまかなってくれるので、どこでも本格的なDJプレイができます。ここまでくるとデジタルとかアナログとかの問題ではなく、ユーザーのセンス次第です。生かすも殺すもあなた次第!

▲リア・パネル。左からアナログ入力(RCAピン)×2、ゲイン、グラウンド、PC/THRUスイッチ、アナログ出力(TRSフォーン)×2、アナログ出力(RCAピン)×2、タッチ・センサー感度調節つまみ、電源インレット、電源供給切り換えスイッチ、USB端子
SPECIFICATIONS
▪Itchへの録音時に対応するビット数およびサンプリング・レート/16ビット、44.1kHz
▪外形寸法/410(W)×43(H)×275(D)mm
▪重量/3.2kg
REQUIREMENTS
▪Windows/Windows XP(SP2以上)/Vista、INTEL Pentium 4 2.0GHz以上のCPU、1GB以上のRAM
▪Mac/Mac OS X 10.4.11以降、PowerPC G4 1.5GHz以上のCPU、1GB以上のRAM