操作性の向上が著しい音響/映像系プログラミング・ソフトの最新版

CYCLING'74Max/MSP 5

私見ではあるが、CYCLING '74 Maxは、最も応用範囲が広く、最も使いやすいプログラミング環境だ。MSPやJitterといったソフトと組み合わせることによって、ダイナミックな音楽や映像を制作することが可能なのだ。そのMaxが、本年4月にバージョン5のMax/MSP 5として完全に生まれ変わった。キャッチ・フレーズは"Max for the next 20 years"、オリジナルのMaxが約20年前に誕生したことに呼応している。

カラフルかつ分かりやすくなった
ユーザー・インターフェース


Maxはプログラミングの基盤であり、オブジェクトと呼ばれる機能モジュールをコードで接続したパッチとして動作する。1990年代には、MIDI楽器やセンサーを制御して、先進的な音楽作品がこのソフトによって生み出されている。そのMaxにMSPというソフトが追加されると、パソコンだけで音響処理が可能になり、2000年前後のエレクトロニカやラップトップ・ミュージックではMax/MSPは非常に汎用した。その後、さらにデジタル・ビデオ処理を可能にするソフトJitterも登場し、オーディオ・ビジュアル・パフォーマンスの最右翼として、Max/MSP/Jitterが活躍し続けている。このような歴史を持つMaxだが、実は誕生以来その基本構造を変更していない。これは美徳とも言えるが、さすがに今日の基準からすれば少々無理が生じていた。そこで、屋台骨を一新し、最新の技術を取り入れてパワーアップしたのが今回のMax/MSP 5だ。しかも、従来のパッチやオブジェクトの大半がそのまま動作する見事な変身ぶりなのだ。Max/MSP 5で最初に目に留まるのが、パッチを含めてユーザー・インターフェースがパステル調のカラフルな装いになったことだろう。視認性が高まったことに加えて、ズームやグリッド、無制限アンドゥなどの基本機能が整備されている。さらに、実際の開発となれば、キーボード・ショートカットやオート・コンプリートといったパッチ作成支援の新機能が山盛り控えており、わずかなマウス操作やキー操作だけで、次々とパッチを組み上げることができるのには驚嘆する。オブジェクトの属性はインスペクターで設定可能になったので、プログラミング自体も大幅に少なくて済む。また、Max/MSP 5に統合されたファイル・ブラウザーはファイル管理を大幅に容易にしてくれるし、各種ドキュメントによって、必要な情報にすぐアクセスできるのもうれしい。パッチが正常に動作しなければ、デバッガーが援護してくれる。マウス・ポインターを近づければデータの値が表示されるプローブ機能だけでも、とてもありがたい。このようにしてパッチが完成すれば、プレゼンテーション・モードの出番となる。操作するオブジェクトだけを集めてレイアウトしておけば、演奏などの操作に集中できるというわけだ。

高精度なタイミング管理が可能な
新オブジェクト"transport"


先に述べた動作基盤とユーザー・インターフェースの刷新がMax/MSP 5の真骨頂だが、ほかにも新たに追加された重要なオブジェクトが"transport"だ。これは一種のマスター・クロックで、時間を制御するオブジェクトを統合することができる。精度の高いタイミンング管理の元、複雑な時間構造をスマートに扱えるようになる。さらに見逃せない点は、Unicodeがサポートされ、日本語を含めて世界中の言語を同等に扱えるようになったことだ。入力や表示はもちろんのこと、テキスト処理も可能なので、真に汎用的な開発環境にようやく到達したと言えるだろう。以上のことから、今後は思いがけない用途にもMaxが活躍するだろうと期待してしまう。繰り返しになるが、Maxはプログラミング環境であり、その必要性はユーザー次第だ。時間に固定した音楽を作りたいなら、DAWソフトを用いるほうがはるかに良い。一方、新しい音楽の在り方を模索したい場合や、また、ライブでのダイナミック性を追求したい場合には、Maxを使用してみることをお勧めしたい。なぜなら、お仕着せではない新しいアイディアを実現するには、自ら作り出すしかないからだ。紹介すべき機能はほかにもたくさんあるが、全体の印象として初心者が取り組みやすくなったと同時に、熟練者がより素早く作業ができるように配慮されているといった様子。手になじみ、使用する人へ、まさにあうんの呼吸で応えてくれるメタ道具として、Maxの完成度が高まったという印象を持った。なお、日本国内の発売元であるイーフロンティアでは、これまで無かった日本語版のMax/MSP5を鋭意制作中とのこと。メニューや各種ウィンドウの表記が日本語化されるだけでも、難解と思われがちなMaxの敷居がずいぶんと下がるはずだ。ヘルプやドキュメントなどの日本語化を含めて、それらが早い時期に登場することを期待したい。
CYCLING'74
Max/MSP 5
58,800円

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows XP/Vista(各日本語版)、INTEL Pentium 4相当のCPU、1GB以上のRAM、350MB以上の空き容量、インターネット接続環境(オーソライズ時必要)
※Jlitter使用時/QuickTime7.1以降をインストール済みのコンピューター、OpenGL互換グラフィックス・カードとOpenGL1.4以降が必要
▪Mac/Mac OS X 10.4以降、G5またはIntel CPU、1GB以上のRAM、350MB以上の空き容量、インターネット接続環境(オーソライズ時必要)
※Jlitter使用時/QuickTime7.1以降をインストール済みのコンピューター、OpenGL互換グラフィックス・カードとOpenGL1.4以降が必要