ビンテージ真空管を搭載する分厚いサウンドのチャンネル・ストリップ

UNIVERSAL AUDIOLA-610 Signature Edition

レコーディングの創世記から、シーンの歴史そのものを築いてきたUNIVERSAL AUDIO。この名門ブランドから、現社長であるビル・パットナムJr.によるLA-610のシグネイチャー・モデルが登場。LA-610自体は既に発売されているチャンネル・ストリップで、真空管コンソール610をベースにデザインされたプリアンプ/EQセクション、そしてまさに名機と呼ばれる同社 LA-2Aスタイルのオプティカル・コンプレッサーを搭載した真空管モデルです。

米軍保管のビンテージ真空管と
CINEMAG製のトランスを使用


まずは現行LA-610との違いを説明しましょう。デザインはパネルのカラーリングが変更され、誰もがイメージできる同社1176LNのブラック・フェイスと見間違うほどに似ています。また、現行のLA-610では真空管にプリ管の代名詞といっても過言ではない12AX7Aが使用されていますが、本機では米軍に保管されていた未使用のビンテージ真空管、5751(米国製)が使用されています。そしてトランスに関しても、極めて音質に優れた米CINEMAG製のカスタム入出力トランスを搭載しているそうです。これらの2点以外は現行モデルと同じスペックになっているようです。さて、概要を説明しましょう。入力は3種類用意されており、500Ω/2kΩのインピーダンス切り替えが可能なマイク入力、同じく47kΩ/2.2MΩのインピーダンスの切り替えが可能なHi-Z入力、そしてライン入力が選択できます。マイク入力は最大ゲインが77dBで、ファンタム電源と15dBのPADも用意。また全入力に有効な5dBステップの5段階切り替え式のゲインと、位相切り替えスイッチも付いています。EQはシェルビング・タイプで、高域の4.5/7/10kHz、低域の70/100/200Hzをそれぞれ選択でき、ゲインは±9dBです。そのほか、プリアンプ部の出力レベルを調整する大きなレベル・コントロールつまみがパネルの中心に位置しています。

使いやすいコンプ/リミッターは
LA-2A譲りの上品な効き


本体右側のT4オプティカル・コンプレッサー・セクションに目を移すと、やはり大きな2つのつまみが目を引きます。1つはコンプレッションの量をコントロールするピーク・リダクションのつまみ、そしてもう1つが、最終的な出力レベルをコントロールするゲインのつまみです。そして、その右にコンプレッション・モード切り替えつまみがあり、バイパス/コンプレッサー/リミッターが選択できます。そしてその上に、プリアンプの出力レベル、最終出力レベル、そして、ゲイン・リダクションのレベルを切り替えてモニターできるメーターの切り替えスイッチがあります。このメーターは本機で非常に大事な役割を果たします。本機は測定器的な目盛りやユニティ・ゲインなどの表記が一切無いので、入力ゲイン、プリアンプ部からT4セクションへの出力、最終段の出力など、すべての入出力は聴感上で、決めなければなりません。また本機のサウンド自体が、そのバランスで作り上げられる仕組みになっているので、非常に直感的な使い方が要求されます。プリアンプの出力レベルが高ければ、真空管のサチュレーションが目立つ音になり、また不思議なことに真空管のサチュレーションはゲイン・リダクションにより抑えられてしまうので、サチュレーションとコンプレッションの具合を調整することは非常にシビアで、なおかつ、重要なことになります。それらの目安のすべてを、このメーターで判断することになるわけです。といっても、考えすぎずに耳を信じて音作りをすれば、素晴らしい音が得られることは間違いありません。T4セクションのコンプ/リミッターは、非常に使いやすく、LA-2A譲りの素晴らしいサウンドで楽器や声がこうなったらいいなという思いを分 かりやすく表現してくれるものです。コンプレッションによるドライブ感を求めるというよりは、しっかりと予想以上に上品に働いてくれるコンプレッサーです。総合的な音の印象はナチュラルかつハイファイな音、作り込んだロック的なドライブ感の音、そして上質なトランスが表現しそうな、深みのある、ファットなサウンド、とにかく幅の広いキャラクターを持っています。誰もが素直に素晴らしいと感じられる音だと思います。まさに、真空管ならではの絶品と呼べる音です。よく耳にする12AX7Aの真空管より、ざらつき感が少なく、FAIRCHILDのようなハイファイ感を持ち合わせています。特に好印象だったのが、ベースのHi-Z入力での音です。本誌5月号の「Cross Talk」で、DIについていろいろ語ってしまいましたが、本機は本当にロックな分厚いサウンドが得られます。音が太いと言うよりはベース自体の弦が太くなったようなイメージです。ローエンドが伸びているというような、数値的なことではなく、質感が素晴らしいと感じました。NEVE 1073やAPI、QUAD EIGHT、FOCUSRITEなどとは全く違う個性的な音ということが、褒め過ぎてしまう1つの要因だと思います。懐かしいアメリカのロックやポップスの上質で非常にエネルギッシュで、かつ、シルキーなアナログ・レコードの音、そんな古き良きアナログ・サウンドを現代のハイクオリティ・サウンドに変換させられるタイム・トリップ・マシーンだと思います。20080701-06-002

▲リア・パネル。左からライン出力、ライン入力、マイク入力(すべてXLR)

UNIVERSAL AUDIO
LA-610 Signature Edition
オープン・プライス(市場予想価格/280,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.5dB)
▪最大出力/20dBu
▪最大ゲイン/40dB(ライン)、77dB(マイク)
▪外形寸法/483(W)×89(H)×310(D)mm
▪重量/5.4kg