USBオーディオ・インターフェース搭載の14ch仕様小型ミキサー

ALLEN&HEATHZED14

ライブ、DJ、スタジオを問わず、高品質なミキサーの開発に定評のあるALLEN&HEATHに新しいラインナップが加わりました。その名はZEDシリーズ。今回は同シリーズの14chモデル、ZED14をレビューしていきます。the NAMM show 08での発表で既に気になっている方も、そうでない方も、小型ミキサーの購入を検討している方も、そうでない方も一見の価値ありです。では、早速使い倒してみましょう!

100mm長のフェーダーを搭載
入出力端子も豊富に装備


まず外観ですが、ZEDシリーズ最小モデルである本機であってもデカいです。その要因はプロ仕様である100mm長のフェーダーを搭載している故ですが、このフェーダーが作業の効率アップや精密なコントロールを考えた上でも非常に有効なものであることは言うまでもありませんね。もともと"フェーダーはいらない派"(というよりコンピューター内完結派)である筆者も、本機に触れてあらためてミキサー(フェーダー)本来の存在意義というものを痛感した次第であります。ほかに目を引くのは、本機最大の目玉ポイントであるDuoPreプリアンプを採用している点でしょう。ALLEN&HEATHのPAシリーズで既にその実力を実証済みのDuoPreプリアンプは、マイク入力とライン入力の2段仕様に設計されており、各段で入念にコントロールされたゲインが得られるというもの。マイク/ライン入力から簡単に最適なゲインを得られるだけでなく、ノイズの軽減という利点があり、このプリアンプ部単体でも商品になるくらい素晴らしいものでした。これは後でじっくりイジってみます。そして、もう一つの本機の魅力は、整然と配置されたアナログ入出力部の中でひときわ輝くUSB端子。基本的に本機はアナログ・ミキサーではありますが、コンピューターとのUSB接続によって2イン/2アウト仕様のオーディオ・インターフェースとしての役割も果たします。この使用例も後で紹介していきましょう。それでは、まず入出力系統をざっと見ていきましょう。インプットには、マイク入力(XLR)×6、モノ・ライン入力(TRSフォーン)×6、モノ・インサート入出力(TRSフォーン)×6、ステレオ・ライン入力(TRSフォーン)×4、ステレオ・リターン(RCAピン)、2トラック・リターン(RCAピン)を用意。アウトプットには、メイン出力(XLR)、ステレオREC出力(RCAピン)、ステレオALT出力(RCAピン)、ステレオ・インサート入出力(TRSフォーン)、AUX出力(TRSフォーン)×4、モノラル出力(TRSフォーン)、ヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン、ステレオ・ミニ)となっております。これだけ豊富な入出力端子があればまず不自由しないですね。マイク入力が6系統あり、ドラムの録音やバンド編成の一発録り、ライブ・ミックスなど、状況に応じてフレキシブルに対応できそうです。

ワイドなゲイン幅で低ノイズの
DuoPreプリアンプ


それでは、お待ちかねのDuoPreプリアンプを実際に使ってみましょう。まず、ダイナミック・マイクのSHURE SM57でアコギ録音にチャレンジ。XLR端子にマイク・ケーブルをつなぎます。ちなみに各チャンネル共にマイク入力よりライン入力が優先されるので、XLR端子の入力ソースを聴きたい場合は、ライン入力端子に接続されたケーブルを外す必要があるのでご注意を。では、チャンネル最上段にあるゲイン・コントロールを上げていきましょう。XLR端子への信号では+6dB〜−63dBというワイドなゲイン幅があり、そこでまず驚くのが恐るべき低ノイズ! 実際にゲイン・コントロールのツマミを最大まで上げた状態であっても音楽的には気にならないほどの低ノイズで、これだけで完全に本機が欲しくなりました!!と、感動に浸ってばかりもいられないので、早速アコギ録音を開始しましょう。ヘッドフォンでモニターしながらアコギの入力ゲインを調整していきます。さて、実際に録音した音ですが、こちらも素晴らしいの一言に尽きます。EQも何も手を加えていない状態のサウンドはフラットでありながらもしんがあり、心なしか高級オーディオの音質のようなふくよかな印象さえ受けました。恐らくALLEN&HEATHの厳重な品質検査のたまものなのでしょう。では、次にライン入力からシンセも鳴らしてみます。通常のミキサーであればマイク/ライン入力が同じプリアンプを使用するため、ライン入力の信号もマイク入力と同じだけ増幅し、それをライン・レベルへといったん減衰させてから再度増幅させるのでノイズが生じやすくなりますが、本機のライン入力はマイク入力用の1段目のプリアンプではなく、ライン入力専用の2段目に直接接続するため、余分な回路を通ることなくノイズを大きく抑えられるという利点があります。ライン入力部では+10dB〜−26dBのゲイン幅があり、そんな恩恵を受けてライン入力されたアナログ・シンセのサウンドも実にローノイズでしっかりゲインを取ることができました。いつの時代もノイズ対策はレコーディング現場において永遠のテーマですが、こんな簡単に軽減できるのであれば(本機をノイズの根源であるコンピューターの真横にセッティングしているにもかかわらず!)これほど安い買い物はないのではないでしょうか。DuoPreプリアンプ、最高です!さて、せっかくなのでALLEN&HEATHの誇る高性能EQも併用して、再度アコギ録音にチャレンジしてみます。EQは全チャンネルに低/高域用シェルビングEQが用意され、低域は80Hz、高域は12kHzで±15dBの調整が可能です。ch1〜6には中域用パラメトリックEQも搭載されており、周波数は120Hz〜4kHzの間で設定可能、ゲインは±15dB、Q幅は固定です。先程のフラットなアコギ・サウンドは高域が弱い印象があったので、高域用シェルビングEQを思い切って5dB上げてみます。嫌みのないブリリアントなサウンドで、高域独特のひずみもなく良い感じです。次は、中域用パラメトリックEQの周波数設定を変えながら音色の違いをチェックします。、カット/ブーストともに実に音楽的な変化をもたらしました。ここだけでさまざまな音色を作り出せるので、例えばボーカルのおいしい帯域なども容易に探し出せそうですね。最後に低域も調整してみましょう。音色変化はナチュラルな印象。試しに3dBほどカットしてみましたが、低音がスカスカになることはなく、さりげなく低域を抑えられました。MusiQという楽器のために設定されたスロープのおかげで、全帯域共にすごく自然で、いわゆるEQくささのない音楽的なイコライズが行えるので、楽器本来のおいしい帯域を熟知している方には、さらに重宝するEQなのではないでしょうか。

USBインターフェース部は
幅広いルーティングが可能


最後にUSBオーディオを使ったZED14とコンピューターの連携方法について触れていきましょう。ZEDシリーズには、Windows用DAWソフトCAKEWALK Sonar LEが同梱されるので全くの初心者の方でもすぐにDAWレコーディングが行えます。もちろん他社製DAWソフトでもUSBオーディオ機能は使えますのでご安心を。はじめに、コンピューターからのリターン信号はch11-12の上部にあるUSB RTNスイッチをオンにすることでメイン・ミックスでモニターが可能。また、USB RTNスイッチの下にあるルーティング選択スイッチを使ってUSBリターン信号をch11-12へ立ち上げることも可能になります。逆に、ZED14の信号をコンピューターへ送る方法には下記の4つがあります。
①メイン・ミックスを送る
②プリマスター・フェーダーを送る
③AUX1/2(プリフェーダー)から送る
④AUX3/4(ポストフェーダー)から送るこれらはUSB出力選択スイッチで選択可能です。録音にはメイン・ミックス用フェーダーを介さないAUX1/2信号を使うことで、最適な録音信号レベルの設定はもちろん、センド・コントロールを使って必要なチャンネルだけをトラックごとに録音できます。また、AUX3/4は、ZED14からコンピューターへのセンド信号として使用することでライブでも威力を発揮するでしょう。例えば、ボーカルへ任意でリバーブをかけたい場合、AUX3/4から信号が送られるDAWソフトのトラックにリバーブなどのプラグイン・エフェクトを割り当てておき、本機のマイク入力チャンネルのAUX3/4センドのツマミを回すだけでボーカルにリバーブをかけることができるわけです。また、USBリターンのルーティング選択スイッチを"To 11-12"に選択することで、リバーブのウェット量(エフェクト・リターン量)をch11-12のフェーダーから操作可能になります。これは使い方次第でさまざまな用途が考えられますね。試しにやってみたダブ・ミックスも非常に快適で楽しめました。このように多様なルーティングが可能なこともUSBオーディオ機能の大きな魅力ですが、そのほかに、オーディオ・インターフェースとアナログ・ミキサーを組み合わせた際に不要なノイズで悩まされるといった音楽以外の問題を考えなくて済むことも本機を使う大きなメリットでしょう。それでいてしっかり高品質なサウンドが得られるのだから、もう何も言うことありませんね。筆者が同社の製品を使うのは今回が初めてでしたが、ちまたで聞いていた"ALLEN&HEATHは音が良い"といううわさが単なるうわさではないということを身をもって体験した気がします。USBオーディオ・インターフェース機能が2チャンネルしか扱えない点は少々残念ではありましたが、それを補うだけの充実した性能、品質を持った魅力溢れるミキサーです。また、完全アナログともデジタルともとれないZED14は、昨今のニーズにもマッチしているのではないでしょうか。今後、小型ミキサーと簡易オーディオ・インターフェースの購入を考えてる方には、ぜひその両方を備えた本機をお薦めしたいですね。

▲トップ・パネルの入出力端子。左からマイク入力(XLR)×6、ライン入力(TRSフォーン)×6、インサート(TRSフォーン)×6。その右には上段にステレオ・リターン、2トラック・リターン、REC出力、ALT出力(各RCAピン)、下段にステレオ入力1〜4(TRSフォーン)。さらにその右にはAUX出力1〜4(TRSフォーン)、ステレオ・インサート(TRSフォーン)、モノ出力(TRSフォーン)、メイン出力(XLR)とヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン、ステレオ・ミニ)を用意

ALLEN&HEATH
ZED14
73,290円

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜20kHz(マイク入力)、10Hz〜30kHz(ライン入力、ステレオ入力)
▪ゲイン/+6〜−63dBu(マイク入力)、+10〜−26dBu(ライン入力)
▪最大出力レベル/+21dBu
▪量子化ビット数/16ビット
▪サンプリング周波数/32/44.1/48kHz
▪外形寸法/385(W)×98(H)×465(D)mm
▪重量/6.5kg