多彩な音作りが可能な真空管搭載オーディオI/O付き8chマイクプリ

ARTTubeFire 8

今日、多数のブランドからマイクプリが発売されており、ビンテージの復刻的なモデルからシミュレート物までさまざまな特徴を持つ製品が続々と登場しています。今回レビューするのはTube MPなど、真空管マイクプリで定評のあるARTの8chマイクプリであり、8イン/8アウトのFireWireオーディオ・インターフェースとしても使用できるTubeFire 8。“Tube”とあるだけに“タマ物”なので興味のある方も多いのでは?

複数台のデイジーチェインで
入出力数を拡張可能


本体は重厚感のある黒がベース。1Uサイズですが重さは6kgあり、箱から出してみて最初の感想は、“重い”でした(笑)。シャーシ後部にもラックに取り付けるための穴があるのでラック・マウント時には前後で支えるのがベストでしょう。では早速フロント・パネル部を見ていきます。まず、左側にはコンデンサー・マイクなどに使用するファンタム電源スイッチが用意されています。これはch1〜4とch5〜8の4chごとにオン/オフする仕様です。また、8個並んだ各チャンネルには入力ゲインを調節するGAINつまみ、出力レベル調整用のOUTPUTつまみ、PADスイッチ、PHASEスイッチ、ローカット、LEDメーターがそれぞれに装備されています。ここで基本的な操作がすべて可能です。スイッチ類はLEDが付いているので現在の設定がすぐに確認できるのがとても好印象。さらにch1&2には、ギターなどに対応したHi-Z入力端子も付いています。また右端に用意された4つのボタン(CHAN1-2/3-4/5-6/7-8)は、出力するソースをステレオ・ペアで切り替えるためのもの。通常はコンピューターからの信号、押すとマイクプリへ入力した信号がリア・パネルの出力端子およびヘッドフォン端子から出力されます。右にはヘッドフォン端子とその出力をコントロールするMIX LEVELつまみがあります。このつまみはセンターがゼロになっていて右に回すとステレオ、左ではモノになり、ステレオでは奇数チャンネルが左に、偶数チャンネルが右に割り当てられます。またこの端子はライン・アウトとしても使用可能です。リア・パネルには8イン/8アウトの入出力端子があります。入力はバランスのXLRとTRSフォーンのコンボ端子になっており、両端子のGAINツマミは共通ですが、入力インピーダンスがXLRとTRSフォーンでは異なっているのでマイクはXLR、シンセなどのライン入力はTRSフォーンに接続して使うのが良いでしょう。一方、出力端子はバランスのTRSフォーンです。+4dBと−10dBの切り替えスイッチも付いているのでお使いの機材の仕様に合わせて柔軟に対応できます。さらに本機にはワード・クロック入出力(BNC)も搭載。FireWire端子は2系統用意されていて、片方をコンピューターと接続し、もう片方を複数のTubeFire 8とデイジーチェイン接続して、入出力数を拡張することが可能です。拡張できる台数はサンプリング・レートによって異なり、最大4台まで使用可能。なおオーディオ・インターフェースとして使用する場合、WindowsはASIO/WDM、MacはCore Audioに対応し、サンプリング・レートは最大96kHzです。

入出力のレベル設定次第で
真空管独特の多彩な色付けが可能に


では実際に使ってみましょう。コンデンサー・マイクのNEUMANN U87とダイナミック・マイクのSHURE SM57を使用してボーカルを通して聴いてみると、一般的な真空管マイクプリとは少し違った音の厚みを感じました。ブロック・ダイアグラムなどによると、本機の真空管は出力部に搭載されているとのこと。すなわち“真空管で出音に色付けをする”といったイメージです。次に、入出力のレベル設定ををいろいろと変えてみるとこれが面白い。例えば、GAINつまみとOUTPUTつまみをセンターに設定し、PADスイッチを入れた状態にすると、ゲインは約20dBになります。そこから徐々にGAINつまみを持ち上げ気味にしてOUTPUTつまみを絞り気味にすると真空管の独特の色付けが増します。飽和気味にしてリミッティングさせるなど、コントロールする人のさじ加減で多彩な音色を狙えるのです。またch1&2のフロント入力端子を使用する際、マイクプリは自動的にバイパスされ、Hi-Z専用のプリアンプに切り替わる作り。この場合、GAINつまみはHi-Z専用のプリアンプのゲインを設定でき、PADスイッチは無効になります。使用してみると、GAINつまみとOUTPUTつまみの設定でキャラクターを付けられ、ギター/ベース共にちゃんと周波数がとらえられているので、アンプ・シミュレーターなどと併用する場合も想定して作られているといった感じで好印象でした。“オーディオ・インターフェースもさまざまな製品が出てきたなぁ”とつくづく思いました。その中でも、エンジニアリングの基本とも言えるマイクプリでの音色作りが可能な本機、その点に重きを置いてあるのはさすがART。価格もリーズナブルなので、音の入り口での一味違った音作りを目指すDAWユーザーにぴったりな製品です。20080701-02-002

▲リア・パネル。左からACイン、OUTPUT LEVELスイッチ(+4dBm/−10dBV)、BALANCED OUTPUT端子×8(TRSフォーン)、FireWireポート×2、WORD CLOCKイン/アウト、BALANCED INPUT端子×8(XLR/TRSフォーン・コンボ)

ART
TubeFire 8
オープン・プライス(市場予想価格/70,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪AD/DA/24ビット
▪周波数特性/アナログIN to アナログOUT/12HZ〜60kHz、アナログIN toデジタルOUT/12Hz〜20kHz@44.1kHz、16Hz〜42kHz@96kHz
▪サンプリング・レート/44.1/48/88.2/96kHz ▪外形寸法/483(W)×44(H)×366(D)mm
▪重量/6kg
▪付属品/Cubase LE

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows XP/IEEE1394ポート搭載コンピューター、Pentium 4 1GHz、RAM 256M以上、ASIO/WDM対応アプリケーション
▪Mac/FierWireポート搭載、G4以上、RAM 256MB以上、Core Audio対応アプリケーション