小型ながら中低域の輪郭がはっきりと聴き取れるパワード・モニター

TASCAMVL-A4

小型パワード・モニターにTASCAMから低価格の新製品が発表された。競合製品がひしめく中でどのような個性を発揮してくれるのだろうか? 早速チェックしてみた。

ハイエンドが奇麗に伸びるので
シンバルなどの倍音もよく聴こえる


一番面積の広い側面でさえサンレコより小さいコンパクトなサイズといい、3.6kgという重量といいホーム・レコーディングで使うのにちょうどいい。デザインは落ち着いていて、背面にある入力端子はXLRとTRSフォーンのコンボ・ジャック1系統のみとシンプルだ。LEVEL CONTROLつまみもあるが、これは感度調整のようなもので、絞りきっても音量はゼロにならないので接続/電源投入時には注意したい。早速、自宅で普段使っているほぼ同サイズのモニター・スピーカーと比較しながら幾つかの音源を聴き比べてみた。第一印象はサイズの割に重心が低く、中低域がしっかりしているといった感じ。カタログ・データでは低域は70Hzまでとなっているが、シンセや打ち込みの重低音もしっかりと輪郭が分かる。このサイズのスピーカーでは期待していなかったところなのでうれしい驚きだ。普段よく聴いているアート・リンゼイの『PRIDE』やディアンジェロの『VooDoo』でも低域のアンサンブルで新しい発見があった。ハイエンドもしっかりあって、シンバルなどの金物も倍音がよく聴こえる。ただし中高域の色付けは少なく、フラットなのでパッと聴いたときの派手さはない。中低域の出音が充実していることと26kHzのハイエンドまで奇麗に再生してくれるのが特徴だ。また、再生音量をぎりぎりまで上げたり下げたりしても全体的なバランスがあまり変わらないのも優秀。音量はこのサイズなので爆音というわけにはいかないが、ホーム・スタジオのモニターとしては十分である。なお、バスレフ仕様なので設置スペースには気を付けたい。側面、背面ともに壁から60cmくらいは離して置くこと。“音がぼける”といった症状は、バスレフ型のスピーカーを壁ぴったりに付けたために生じることがよくあるのだ。

長時間の使用でも聴き疲れない
クセの少ないサウンドが特徴


次に、実際に音楽制作に使ってみた。打ち込み主体のリズム・トラックを作ってみると、VL-A4は低域が充実しているので小音量でも気持ちよく作業を進められる。また、音に奥行き感があり、長時間使い続けても疲れないのが利点だ。普段使っているスピーカーに比べ中高域の特性がフラットなので、リバーブの設定が多めになったがこれは慣れの問題である。EQやコンプを掛けてみても音が正確に変化するので、トラックの音作りやほかの楽器とのアンサンブルで決定的な間違いを犯すことはないだろう。小型スピーカーではしばしば500Hz辺りから下が不正確になってしまうことがあり、ヘッドフォンで常にチェックをしないといけなくなるのだが、VL-A4にこの欠点はない。EQ/コンプなどのエフェクトによる変化をSONY MDR-CD900STと比較してみたが、VL-A4の反応は優秀だった。MDR-CD900STほどの分解能はないが、変化の方向性が正確に聴き取れるのである。アコギ、バイオリン、ボーカルなどの生楽器をVL-A4でモニターしつつ録音してみた。注意が必要なのはギター録りで、低域がカッコいいためギターの音にすぐ満足してしまう危険性が高い。逆にバイオリンやボーカルは高域がそのまま聴き取れるので、音色作りに適している。最近のパワード・モニターにありがちな高域のピークも無いので、ボーカルがやたら立って聴こえることもない。また、生楽器を録音してみてあらためてハイエンドが正確に伸びていることが確認できた。以上のような結果を踏まえてVL-A4の用途を考えてみた。まず、音量のさほど出せないホーム・スタジオでメイン・モニターとして使うのにはとても適している。このサイズでしっかりと低域が聴き取れるのが良い。低域のスピード感と分解能という項目ではやや劣るが、そもそもこのサイズのモニターに求める項目ではない。コスト・パフォーマンスは非常に高い。VL-A4自体には音質補正機能は無いが、ミキサーやモニター用のコントローラーとの組み合わせで基本的な音質を自分の好みに持っていくのも楽しいだろう。ぱっと聴いたとき、最近の派手なモニターに比べると、音像がやや引っ込んで聴こえるかもしれないが、コンプやディストーション(チェックにはPSP Vintage Warmerなどを使用)には正確に反応しているので問題ない。逆に長時間使っても聴き疲れのしない音楽的なスピーカーというメリットは大きく、打ち込みから生音の録音まで、オールジャンルで使えるだろう。今回は実際に試してはいないが、サラウンド用に5個そろえるのも良い結果を生むのではないかと予想できる。なんと言ってもペアでこの価格は驚異的だ。あまり予算の無いホーム・スタジオの初心者でもこのクラスの音質からスタートできるのだから、パソコン/DAWソフト/コンデンサー・マイクの低価格化なども含めて音楽制作のハードルは大変低くなっている。
TASCAM
VL-A4
オープン・プライス(市場予想価格/20,000円前後:ペア)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/70Hz〜26kHz
▪ツィーター/20mm
▪ウーファー/101.6mm
▪アンプ出力/21W(LF)、21W(HF)
▪外形寸法/152(W)×245(H)×193(D)mm
▪重量/3.6kg(1本)