CD/DVD/HDDなどのメディアに対応するDJ向けマルチプレーヤー

PIONEERMEP-7000

PIONEERから“マルチエンタテインメント・プレーヤー”と冠されたDJ向けプレーヤーが発売されました。CD-DAのみならず各種DVDディスクにも対応し、USBストレージ・デバイスなどに保存されたオーディオ・ファイルの再生も可能なのが特徴です。PIONEERは現場の意見をダイレクトに反映させたDJフレンドリーな機材を次々と送り出し、国内のみならず海外のクラブ・シーンからも高い評価を受けている屈指のDJ機器メーカー。その新製品ということであれこれ触ってみたのですが、本機は僕の予想と期待を良い意味で裏切る、何とも画期的な機材でした。それではさっそくチェックしていきましょう。

コントロール・ユニットと
ドライブ・ユニットを別々に設置可能


ラック・マウント型でデュアル・トレイのDJ向けプレーヤーは、昔からさまざまな機種が発売されており、特にロング・ミックスを得意とするDJにとってはおなじみのスタイルです。当然ラック・マウント型のDJミキサーとの相性もバッチリ。このMEP-7000はコントロール・ユニット(3U)とドライブ・ユニット(2U)が分かれているので、ドライブ・ユニットだけを離して設置することで、DJブース内のモニター・スピーカーから受ける振動を軽減することもできます。コンパクトなので設置に広いスペースを必要とせず、ラックに入れて持ち運び、手軽にDJプレイができるなどの利点も挙げることができるでしょう。さて、PIONEERは既にCMX-3000というラック・マウント型でデュアル・トレイのDJ向けCDプレーヤーを発売しています。このMEP-7000はその上位機種に位置付けられるのかと思っていたのですが、実際に使ってみたところ全く別物という印象を受けました。どうやら本機はラック・マウント型の利点と、PIONEERがCDJシリーズで培った最新技術とを同時に併せ持った、新しいスタイルのプレーヤーのようです。

4.3インチ・サイズで視認性に優れる
カラー液晶ディスプレイを搭載


まず出力は各チャンネルともアナログ(RCAピン)とS/P DIFデジタル(コアキシャル)を装備。メディアはCD-DA、CD-R/RW、DVD+R/RW、DVD-R/RW、DVD±R二層ディスクの再生が可能でオーディオ・ファイルはAAC/AIFF/MP3/WAVに対応します。さらにドライブ・ユニットのフロントとリアに一つずつUSB端子を装備しており、USBストレージ・デバイスや外付けハード・ディスクに記録されているオーディオ・ファイルを再生することも可能(写真①)。多種多様なメディアに対応している点は大きなトピックと言えるでしょう。20080501-01-002▲写真① USB接続されたメディア内のオーディオ・ファイルが表示されている。USBストレージ・デバイスや外付けハード・ディスク内のファイルはA/B両チャンネルへ自在にアサインすることが可能。ロータリー・セレクターでアサインしたいファイルを選び、その左右に設置されているロード・ボタンでAまたはBのプレーヤーを選択するだけの簡単操作だ では、サウンドを聴いてみることにしましょう。普段、僕が使用しているPIONEER CDJ-1000MK3と同じミキサーに接続して、同じ音源を流してのチェック。フェーダーを左右に振って出音を比べてみたところ、サウンドにはほとんど違いがありませんでした。現場でも十分なクオリティです。また、本機のDA部にはCDJ-1000MK3にも付いているレガート・リンク・コンバージョンという機能が付いています。この機能は、CDフォーマットである44.1kHzをDA時に176.4kHzにアップ・サンプリングして、アナログ・レコードに迫る豊かな音質を再現しているとのこと。出音の良さにはこれが関係しているかもしれません。では機能面のチェックに移ります。コントロール・ユニットを見てみると、まず目に飛び込んでくるのが中央に設置されたセンター・ディスプレイ。これは、最大の特徴と言っていいかもしれません。4.3インチのカラー液晶ディスプレイを採用しているので、視認性は非常に優れています。MEP-7000は前述の通りDVDディスクやUSBストレージ・デバイス、外付けハード・ディスクにも対応しており、これらのメディアは大量の楽曲を記録することが可能。そうなると問題はファイル検索の効率性です。ファイルの数が増えると検索は大変になるのが常。しかし心配は無用、センター・ディスプレイに映し出されるインテリジェントGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)をディスプレイ下にあるロータリー・セレクターで操作すれば、膨大な選曲ラインナップの中からお目当ての楽曲を瞬時に探し出すことができます。さらにUSB端子にキーボードを接続すれば、曲名やフォルダ名をイニシャルで検索することも可能となるのです。また、CD-TEXT対応のCD-DAを再生すると、センター・ディスプレイに、タイトル/アーティスト名/アルバム名/BPMなどのテキスト情報が表示されるのも便利。さらに、本機は映像出力も装備しているので、センター・ディスプレイの映像を外部ディスプレイに接続して、大きい画面で操作することもできます。家で使う分にはこのセンター・ディスプレイで問題ありませんが、DJブースのスペースに余裕がある大きいクラブでは、外部ディスプレイを持ち込むことにより、さらに安定した環境でのDJプレイができるようになるわけです。左右のジョグ・ダイアルの上には、トラック・ナンバーや曲の経過時間、BPMなどを表示するコントローラー・ディスプレイも設置し、表示には有機ELディスプレイを採用。センター・ディスプレイとコントローラー・ディスプレイの輝度は、センター・ディスプレイの上部にあるUTILITYボタンを押すことで、状況に応じて変更可能です。

エフェクトの掛かり具合を
イメージ・アニメーションで視認可能


続いては、コントロール・ユニットの左右に配置されたジョグ・ダイアルを見てみましょう。今やDJ向けCDプレーヤーの代名詞と言っても過言では無いこの装置ですが、MEP-7000のジョグ・ダイアルは一味違います。再生していない状態では頭出し用のダイアルとして、再生中は回っているレコードを実際に手で触って加速/減速させる感覚のPITCH BEND機能の操作子として動作するのですが、ジョグ・モード・スイッチで機能を切り替えると、さらに積極的な音作りが可能です。その機能とは、スクラッチ技をシミュレートしたSCRATCH機能と、フロア向けのエフェクト効果を発揮するJOG BREAK機能の2種類。まず、SCRATCH機能を紹介。ここではセンター・ディスプレイの下部に付いているファンクション・ボタンから、SCRATCH/TRANS/BUBBLEという3パターンのスクラッチ技が選べます。SCRATCHは通常のスクラッチですが、TRANSを選択すると音が断続的にカットされ、BUBBLEを選択すると、音がぶるぶると震えるようなサウンドをジョグ・ダイアルで操作可能になります。ジョグ・ダイアルを回すスピードによってTRANSではカットの間隔が、BUBBLEでは震えの周期が変化します。続くJOG BREAK機能。これは純然たるエフェクトでJET/ROLL/WAHという3パターンが選択でき、これらを使うとピッチ・シフトやフランジング、フィルタリングなどの効果が出せるのです。ジョグ・ダイアルを回す方向やスピードで、ピッチ・シフトの音の高低であったり、フランジングの周期や、フィルタリングにおけるカットオフの帯域などを操作できます。エフェクトの状態を維持するHOLDボタンと組み合わせることで、表情豊かなプレイが楽しめることでしょう。このSCRATCHとJOG BREAKは、DJ向けエフェクターとして大人気のEFXシリーズを世に送り出したPIONEERならではと言える機能。そして、ここでもディスプレイがその威力を発揮します。再生中にSCRATCHかJOG BREAKを用いると、その掛かり具合がイメージ・アニメーションとして表示されるのです(写真②)。エフェクトの掛かり具合を視覚で確認できるのは、大音量下で細かい操作を要求されるDJには心強い味方になると思います。20080501-01-003▲写真② SCRATCHおよびJOG BREAK機能の操作を視覚的に把握できるイメージ・アニメーション画面。各機能3種類ずつの効果が個別にアニメーション化されている。左はSCRATCH機能のBUBBLE効果。球体が回りながらぶるぶる震えている。右はJOG BREAK機能のJETエフェクト。フランジングの状態が2次元グラフで表現されている

外部DJソフトとの連動で
さらに多彩なDJプレイに対応


本機にはPIONEERのDJソフト、DJSが同梱されています。このDJSをインストールしたパソコン(Windows XP/2000/Vistaに対応)とUSB接続することで、本機はDJSのコントローラーにもなってくれます。また専用ドライバーをインストールすることで、他社のDJソフトをコントロール・ディスク無しで操作することも可能なのです。現在対応しているソフトとしては、RANE Serato Scratch Liveがアナウンスされています。ここ最近、海外はもちろん国内DJたちの間でもDJソフトの存在はクローズアップされ、急速に普及しています。DJソフトに対応するというのは、非常に重要なポイントではないでしょうか。このMEP-7000はコンパクトにまとまった外見からは想像が付かない、驚くべきポテンシャルを内に秘めています。プロフェッショナルDJが十分満足するスペックと、一般ユーザーが気軽にDJプレイを楽しむことができる親しみやすさが共存した、マルチエンターテインメント・プレーヤーと呼ぶにふさわしい機材と言えるでしょう。20080501-01-004

▲リア・パネル。左からUSB端子(コンピューター接続用)、USB端子(外部ハード・ディスクやUSBストレージ・デバイス用)、S/P DIFデジタル出力A/B(コアキシャル)、アナログ出力A/B(RCAピン/コントロール端子)、リモート・コントロール

PIONEER
MEP-7000
オープン・プライス(市場予想価格/230,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/4Hz〜20kHz
▪SN比/115dB以上
▪デジタル出力フォーマット/16ビット、44.1kHz
▪対応ディスク/CD-DA、CD-R/RW、CD-TEXT、DVD+R/RW、DVD-R/RW、DVD±R二層ディスク
▪対応ファイル形式/AAC、AIFF、MP3、WAV
▪外形寸法/コントロール・ユニット:482.6(W)×133.3(H)×83.5(D)mm、ドライブ・ユニット:482.6(W)×90.5(H)×324.6(D)mm
▪重量/コントロール・ユニット:1.7kg、ドライブ・ユニット:6.1kg