
ROLANDからハードウェア・シンセの新製品Fantom Gシリーズが発表されました。Fantom Xシリーズの後継機種で同社のフラッグシップ機になります。本シリーズには88鍵仕様のFantom G8(オープン・プライス/市場予想価格350,000円前後)、76鍵仕様のFantom G7(同/市場予想価格290,000円前後)、そして今回チェックを行う61鍵仕様のFantom G6がラインナップされています。
8.5インチ・ワイドVGA液晶ディスプレイ
生楽器に負けない音色の存在感
まずは外観から見ていきましょう。基本的なデザインや色はFantom Xシリーズの流れをくんでいますが、パッと見た瞬間に分かる特徴が8.5インチの大画面カラー・ワイド液晶ディスプレイです(写真①)。とても奇麗な画質でもうシンセとは思えません。画面のレイアウトもとても分かりやすく随分とやる気が出てきます(笑)。ディスプレイ左側には8本のスライダーと4つのノブ、すっかり同社定番となったD BEAMなどのコントローラーがあります。一方、右側にはサンプリング・ボタンやこれまたインパクト大のダイナミック・パッド・バンクが16個鎮座しております。本体を眺めただけで“いろんなことができるぜ!”と迫ってくるデザインで好感が持てました。▲写真① 8.5インチのカラー液晶ディスプレイ。1画面で膨大な情報を表示できるためプリセット選択も楽に行える さて気になる機能の方ですが、Fantom Xシリーズの2倍のウェーブ容量を搭載し、使用頻度の高いピアノ音色はさらなる向上が計られ、新エクスパンション・ボードARXシリーズにも対応と音源部分だけをとっても完全に生まれ変わったと言ってもいいくらいパワー・アップされています。さらにシーンに特化したモード設定“LIVE MODE”“STUDIO MODE”が設けられており、大画面を駆使したUSBマウスによる操作も可能、オーディオとMIDIを統合した152トラックの新シーケンサー、過去にさかのぼって録音できるスキップ・バック・サンプリング、テンポにオート・シンクするサンプラーなどなど、ワークステーションとしての機能がさらに高められています。では、早速音を聴いてみましょう。まずは本機を1つの音色で演奏するためのSINGLE MODEで、新しいピアノ音色の“G-Grand”を弾いてみます。さすが88鍵マルチサンプリングというだけあって、きめ細かい表現力です。強く弾くと硬めの音が出てきますのでポップスでの使用にはもってこいでしょう。同社のRDシリーズが好きな方にも納得できる音に仕上がっていると思います。ほかの音色も見てみましょう。プリセットはカテゴリー別に分かれていて、大画面なので求めている音色をすぐに見つけることができます。キーボード系は定番のオルガンもプリセットによってロータリー・スピーカーの雰囲気が違っていたり、クラビも離鍵時の音がリアルに再現されています。エレピもとても充実しておりますし、そのほかの生楽器系もとてもリアルに再現されており、“これでもか!”というほどたくさん入っています。そしてシンセである以上、やはりいわゆる“シンセ音色”にも触れなければなりません。リード、ブラス、パッド、テクノ系などだけでもたくさんのカテゴリーに分かれており、とても1日で聴ける量ではありません。しかし、プリセット名は同社往年のシンセ名が付けられたものも多く“JUNO〜”“D-50〜”“JP〜”など、その名前だけで音色が分かるものも多いです。せっかく、たくさん良い音が入っているので、僕が今かかわっている進行中のプロジェクトで使ってみました。シンセ・ブラスの音色を何曲かで使い分けなければいけなかったのですが、カテゴリーを見てみると“80s Brass”という音色だけで8つも入っています。聴けばどれもブラスですが、しっかりと風景の違う音色になっています。僕が気に入ったのは“Val Brass”で、オケの中に入っても埋もれないでよく聴こえてきました。シンセにとってこれはとても大事なことで、特に生楽器と一緒に混ざる場合は存在が負けてしまいがちですが、本機は一時期のデジタル・シンセのように全く存在感が違うということもなく、きちんと主張があり技術の進歩を確認いたしました。そのほか“80s Strings 1”や“D-50 Bell”など、当時の機材ではかけることのできなかったエフェクト効果も相まって曲の中でとても良い効果を生んでくれました。正直こんなにしっかりと聴こえてくると思っていなかったので感動すら覚えました。筆者も世間の波に乗り、最近はほとんどソフト音源を使っていますが、あらためてハードウェアのレスポンスの早さ、音色の多様さを再確認することになりました。もちろんハードウェアだから良いということだけではありません。あらためて本機の音色を見てみると昔のJVシリーズから入っている同じ名前の音色も多く見受けられます。これはどういうことかと言うと、ROLANDという会社が長年培ってきた音色が常に新しい技術でより良い音で引き継がれているということになります。それが本機1台の中に集約されているのです。使える音がたくさん入っていて、すぐに探せる、弾けるということにあらためて感謝しなければなりません。
16パートすべての音色に
マルチエフェクトをインサート可能
さて、良い音がたくさん入っているのならば、たくさん使いたいのが人情です。そこで、次は16マルチティンバーの“STUDIO MODE”を使ってみましょう(写真②)。


パッチ切り替え時に音切れしない
新導入のLIVE MODE
続いては、今回新しく導入された“LIVE MODE”を見てみます(写真④)。これは8マルチティンバーになっていて、その中でレイヤーやスプリットなどでパッチを組める仕様になっています。では何が“ライブ”なのかというとこれがスゴイのです! パッチを切り替えたときに、今鳴っている音が途切れません。例えば、曲の最後にストリングスの音をサステイン・ペダルで伸ばしている間に、次のパッチに切り替えておいて、ストリングスの音を残しつつピアノの音を弾くといったことが可能になります。これでライブの曲間にあたふたしたり、もう1台キーボードを増やす必要がなくなるのですから素晴らしい機能だと思います。


▲リア・パネルの接続端子類。左からUSB端子×3(USBメモリー/マウス/コンピューター)、S/P DIFデジタル入出力(コアキシャル)、MIDI THRU/OUT/IN、フット・ペダル×3(コントロール×2/ホールド)、Hi-Z/ファンタム電源スイッチ、マイク/ギター入力レベル、マイク/ギター入力(XLR/フォーン・コンボ)、ライン入力L/R(フォーン×2)、ライン入力レベル、出力B L/R(フォーン×2)、出力A L/R(TRSフォーン)
SPECIFICATIONS
▪鍵盤/61鍵(ベロシティ対応、チャンネル・アフタータッチ付き)
▪最大同時発音数/128
▪パート数/16(インターナル)+16(エクスターナル)+2パート(ARX)+24パート(オーディオ・トラック)
▪ウェーブフォーム数/2,153
▪サンプリング方式/16ビット・リニア
▪サンプリング周波数/44.1kHz
▪メモリー/32MB(最大拡張時544MB)
▪シーケンサー・トラック数/MIDIトラック:最大128、オーディオ・トラック最大:24、テンポ・トラック:1、ビート・トラック:1
▪シーケンサー分解能/480ティック=四分音符
▪外形寸法/1,066(W)×142(H)×411(D)mm
▪重量/14.5kg