高いSN比でクリアな音質を誇るADコンバーター搭載のマイクプリ

GRACE DESIGNM201 ADC Factory

最近のレコーディング現場における、DAWやモニター・コントローラー、スピーカーの解像度アップによって今まで聴こえなかった音や細かい音の表現が判断できるようになってきています。また、宅録現場においてもコンピューターの性能アップやDAWソフトの進化によって、音の非常に繊細な部分まで表現できるようになりました。このような環境で、音の入り口であるマイクやマイクプリ、ADコンバーターなどの製品にも、高性能/高解像度が求められています。今回はそのようなニーズに応え登場した、2chマイクプリにADコンバーターを載せたGRACE DESIGN M201 ADC Factoryを紹介します。

MS録音時の広がりを調整する
M+S WIDTHつまみも搭載


厳重に梱包された箱を開けると2Uサイズの高級感漂うシルバーのボディが現れました。取り出してみるとそれはズッシリと重く7.5kgの重量で、高価な製品にふさわしい印象です。フロント・パネルの左側に2ch分のマイクプリのコントロールがあり、大きいつまみがゲイン・コントロール、小さい方がインプット・モード・スイッチです。入力時は48V/ribbon(+10dB)/HI-Z/130Vの4モードから選択可能で、コンデンサー・マイクは“48V”、リボン・マイクは“ribbon”、ギターなど楽器には“HI-Z”(ch1/2とフロント・パネルにHI-Z対応入力を用意)、DPA製の130Vファンタム電源が必要なマイクには“130V”となります。なお、“130V”の使用には出荷時オプション・ボード搭載のM201 130V Option Factory(オープン・プライス/市場予想価格39,900円前後)、また購入後搭載のM201 130V Option Upgrade(同:50,400円前後)が必要です。ゲイン・コントロールの下にはLED付きスイッチが3つ並び、48Vファンタム電源、フェイズ・リバース、−20dB PADのオン/オフが行えます。その隣はHI-Z入力端子(TRSフォーン)です。本機は、MSデコーディング機能の標準搭載も特徴です。フロント・パネル中央に、Mid/Sideのシグナル・レシオを設定してMS録音時の広がり感を調整するM+S WIDTHつまみを搭載。その右側にはレベル・メーターとADコンバーターのコントロール系スイッチが並んでいます。リア・パネルには、各chのマイク入力(XLR)のほか、出力(XLR)を各chごとにパラで2系統ずつ用意。これらの出力は宅録時なら1つは録音用、もう1つはモニター用に使えるでしょう。またMS録音時のステレオ出力(XLR×2)は別系統で用意。ADコンバーターの端子セクションには、S/P DIF出力(コアキシャル、オプティカル)、AES/EBU出力(XLR×2)、ワード・クロック入出力(BNC)、それにアナログのライン入力2系統(XLR×2)を用意。このADコンバーターも同時に使えば、デジタル出力を録音用、アナログ出力をモニター用に使い分けることもできます。

広い帯域と特徴のある音色で
リアルな感じのボーカル


今回のチェックのタイミングで、ちょうど映画のサウンドトラックのために4ピース・バンドのジャズ風セッションを録音する機会があったのですが、そこでいろいろ試してみました。まず、ピアノをNEUMANN U87で収音してみましたが、いつもの楽器とマイクの距離感とは違う音の印象で、少し広がった感じに聴こえました。マイクは単一指向でしたが、無指向にしたときに近くなった印象。分析したところ、非常に低いローエンドと高いハイエンドが出ていて、中域が少しへこんでいるようです。昔で言うドンシャリの、音のハイとローの両側が広がった感じで、特徴のある音色は今までに聴いたことのない感じです。ボーカルにはNEUMANN U67を使ってみました。声の低いところの吐息と口先から発生する息、言葉がぶつかり合う高域の部分が強調されますが、中域が少しへこんでいるためか、少しマイクから離れたリアルな感じです。また、ドラムにリボン・マイクのRCA 77DXを立て、ribbonモードを試しました。これが今まで聴いたことの無いほどクリアな音でSN比も非常に良く、本機のribbonモードはかなり使える良い印象でした。最後にミックス時にADコンバーターを試してみました。マイクプリに近いサウンド・カラーでSN比が非常に良く、高域部分が少しエンハンスされますので、TV用エディットやマスタリングを想定したミックスの用途に向いていると思います。本機は、ノイズが少なくSN比が非常に良いのが特長です。今まで聴いたマイクプリの中では一番かと思います。また、距離感が非常に出やすいので、クラシックの収録でマイクを多数使用するときや、ドラムのオフマイク用に良いと思います。ボーカルでは特徴のある高域の音色で、SONYのマイク、C-800G好きにはおススメです。ribbonモードも非常に高い音質で、最近のリボン・マイク・ブームにおいてちょうど良いタイミングだと思います。最後に希望として、デジタル・マルチトラック・レコーディング時にはローカットの必要性があるので、マイクプリにぜひローカット付けていただければダイレクト・レコーディングの用途により対応しやすくなるのではと思います。20080401-11-002

▲リアパネル。下段左から電源インレット、MS用出力(XLR)、ch2出力(XLR)×2、ch2マイク入力(XLR)、ch1出力(XLR)×2、ch1マイク入力(XLR)。上段左からワード・クロック入出力(BNC)、S/P DIFデジタル出力(コアキシャル)、S/P DIFデジタル出力(オプティカル)、AES/EBUデジタル出力×2、アナログ・ライン入力(XLR)×2

GRACE DESIGN
M201 ADC Factory
オープン・プライス(市場予想価格/462,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/18Hz〜65kHz@±0.2dB、4.5Hz〜350kHz@3dB
▪サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz
▪ビット・レート/24ビット
▪外形寸法/482(W)×300(D)×89(H)mm
▪重量/7.5kg