PA卓で培われたヘッド・アンプとリバーブ搭載のアナログ・ミキサー

SOUNDCRAFTMFX Series

最近ではアーティスト自身が宅録環境で本チャンを仕上げることも多くなっている中、イギリスのSOUNDCRAFTより小型ながら、本格的な音作りが1台で行えるアナログ・ミキサーという位置付けで登場した“MFX”シリーズ。DAW中心の制作環境の中で本機がどのような付加価値を発揮できるか? 今回チェックするのはモノラル入力12ch/ステレオ入力2系統、LEXICON製デジタル・エフェクトを1系統搭載したMFX12/2というモデルですが、ほかにも入力数の異なるMFX8/2とMFX20/2、さらにエフェクトを搭載しないMPM12/2(94,500円)とMPM20/2(131,250円)も用意されています。

ミキサーの標準機能を網羅
モノアウトの装備も魅力


まず外観ですが、モノラル・インプットが12ch用意されている割には意外と横幅も広くなく、前方から後方にかけての傾斜も緩やかな構造。入出力関係はすべて上部パネルに配置されており、後ろ側には電源端子と電源スイッチがあるだけでスッキリとしています。ただし、ちょっと触ってみたところフェーダー&ツマミとも程よい重さで問題なかったのですが、各ツマミのサイズが若干大きく間隔が狭いので指の掛けどころに多少の慣れが必要かな?という感じはありました。各モノラル・チャンネルはマイク入力、ライン入力、インサート端子、ヘッド・アンプのゲイン・ツマミを備え、ゲイン・ツマミの上にピークLED、その下に100Hzのハイパス・フィルター・スイッチがそれぞれ配置されています。EQセクションはHF/LFがそれぞれ12kHz/80Hz固定のシェルビング・タイプ、MFが150Hz〜3.5kHzのピーキング・タイプの3バンド構成で各±15dBのゲイン幅。センド系はAUX1/AUX2/FXの3系統で、FXセンドは内蔵のデジタル・エフェクトに直接ルーティングされています。フェーダー・ストロークはこのサイズのミキサーでは大体標準的な長さなのですが、ユニティ(0dB)が半分よりも少し上辺りに設定されているのが特徴的です。そのほかミュート、プリフェーダー・リッスン(PFL)、出力バス選択スイッチ(メイン/サブバス)などミキサーとして標準的な機能は一通り網羅されたチャンネル構成になっています。なお、2系統のステレオ・チャンネルはマイク入力とハイパス・フィルター、インサート端子が付いていない点、MFが720Hz固定という点以外はモノラル・チャンネルとほぼ一緒です。出力関係も充実していてマスター・セクションの右上に集中して配置されており、メインのL/Rアウト、サブバスのL/Rアウト、モニターのL/Rアウト、ヘッドフォン・アウトが各1系統ずつ、さらにこのクラスでは珍しいメイン・アウトをモノサミングしたモノアウトが用意されています。このほか、マスター・セクションではファンタム電源のON/OFFやデジタル・エフェクトの各パラメーター設定、AUXセンドのプリ/ポスト選択、モニター・ソースの切り替え、2TRACK INのレベル調整などが行えるようになっています。2TRACK INのレベル調整ができるのは、CDなどのリファレンス・ソースとミキサーのメイン出力のレベルを合わせて比較視聴する際に便利で、個人的に良いポイントだと思いました。

密度感のあるヘッド・アンプ
EQの効きも力強い印象


では音のチェックに入りたいと思います。まずヘッド・アンプの音質ですが、モノラル入力には同社のPAコンソールから流用した高精度のものが使用されているそうです。試しにSHURE SM57でアコースティック・ギターを録音してみたのですが、思った以上にしっかりとした音質で、高域が奇麗に伸びるというよりは中域から下がガシッとする印象。アコースティック・ギターのストロークのシャリシャリした部分よりも全体の鳴りが前に張り付くような力強い音質でした。極端に言えばちょうどコンプでつぶしたときに中域に密度が集まるような印象で、予想以上に素晴らしくプロユースにも耐え得ると思います。モノラル・チャンネル分だけヘッド・アンプが搭載されているので、インサート端子からヘッド・アンプ直後の信号を抜き取ってライブ録音にも使うこともできると思います。次に本機をDAWと組み合わせてステム・ミックス・ツールとして使用してみます。DAWからドラム・ミックス、ベース、ボーカル(女声)、ギター・ミックス、その他のミックスという計8chを立ち上げて検証していきたいと思います。まずEQですが、ヘッド・アンプと同様、奇麗というよりは力強く効く印象です。ボーカルのチャンネルでHFをブーストしてみたのですが倍音に程よくザラつきが加わる感じ。プラグインで同程度ブーストするとチャリチャリした部分が目立ってきてしまうのですが、アナログならではの優位性を感じます。LFに関しても輪郭を損なうことなく好印象でした。MFに関してはスイープ幅が150Hz〜3.5kHzと若干狭く設定されているのですが、これは高域は高域、中域は中域とはっきり区切るという同社なりのブリティッシュ・サウンドの追求によるものらしく、その範囲の中で細かく調整できる仕様になっています。個人的には全帯域をできるだけコントロールしたい方なのですが、輸入代理店に問い合わせたところこのような回答が得られ、なるほどとイギリスならではのメーカーのこだわりを感じました。

LEXICON伝統のリバーブを搭載し
リターン・フェーダーも用意


そして次は本機のウリであるLEXICON製のデジタル・エフェクトですが、合計32種類のプログラムが用意されています(図①)。20080401-02-002▲図① エフェクト・プログラム一覧。16種類×2バンクの計32種類のプログラムがスタンバイしており、リバーブを中心にディレイやフェイザーなども装備。この部分はデジタル・エフェクトで定評のあるLEXICON製だBANK Aがリバーブ系、BANK Bがディレイ/モジュレーション系となっていて、プログラム・セレクトは16ポイントのノッチ式ツマミ。一回転させるとBANK A/Bが切り替えられる仕様です。特筆すべきなのはミキサー内蔵のものにかかわらずパラメーターが細かく設定できるところで、全部で3つのツマミを使用します。1番目のツマミはリバーブ系ではプリディレイ、ディレイ/モジュレーション系ではタイム/スピード、2番目は前者がディケイ、後者がフィードバック/デプスなどに割り当てられています。3番目のツマミはVARIと名付けられているのですが、リバーブ系では大体のプログラムでLIVELINESS(残響音に含まれる高域成分の量)が割り当てられていて、ディレイ/モジュレーション系では各プログラムに特化したさまざまなパラメーターが割り振られています。さらにこのエフェクト・セクションには専用のリターン・フェーダー(写真①)まで設けられており、ミュートはもちろん、タップ・テンポ入力や設定のストア(各プログラムごとに可能)まで用意。リバーブの音質に関しては、スタジオの高級機と比べると見劣りはするものの、ミキサー内蔵としては十分なクオリティです。20080401-02-003▶写真① 内蔵エフェクトのリターンをフェーダーで調整できるエフェクト・チャンネル(左1本)も装備。リターンのミュートはもちろん、ディレイなどに対応するタップ・テンポ・ボタンもあるのがユニーク。なお右側のマスター・セクションにはメインのほかサブアウトL/Rのフェーダーも用意され、各チャンネルからいずれのバスに送るかを切り替え可能だ DAW内のミックスで個人的に特に感じるのが、ボーカルのリバーブの距離感で、後ろに広がるというよりも平面的に広がってしまい全体的にぼやけてしまうというところなのですが、そういうときはひと手間をかけて対処しています。しかし、本機のようなアナログ卓でミックスするときはその必要は感じません。DAW内でリバーブに違和感を感じることがあればこのようなプラグイン以外でのアプローチで対処するのも1つの方法だと思います。最後にステムを混ぜるミックス・バッファーとしての印象ですが、今回は環境的に8chしか立ち上げられなかったにもかかわらず結果は非常に良いものでした。DAW内で完結したミックスをマスターのエフェクト抜きでバウンスしたものと、先ほどのアサインで本機に立ち上げてミックスしたものを聴き比べたのですが、普段感じているDAW内でのミックスとアナログ卓でのミックスの音像の差と似たようなものをやはり感じました。DAWミックスで陥りがちな、すべての音が節操なく前にいる感じが緩和され、程よい奥行きと立体感が加味された感じです。チャンネル数が増えればより有機的なミックスも可能でしょう。本機は小型ミキサーの中では価格的にワンランク上の部類に入りますが、ヘッド・アンプやEQの音質、高品位なエフェクトなど他の機種と一線を画すキャラクターを有しています。DAWミックスには多くのメリットがあると思いますが、本機のようなアナログ機材を取り入れることによって得られるサウンドは、プラグインを増やすのと同じように自分なりの音の幅を広げる選択肢の1つになり得るのではないでしょうか。20080401-02-004

▲リア・パネルには電源端子とスイッチのみを備え、入出力端子はすべてトップ・パネルに集約されている

SOUNDCRAFT
MFX Series
MFX8/2:105,000円
MFX12/2:120,750円(写真)
MFX20/2:157,500円

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜20kHz(±1.5dB)
▪マイク等価入力ノイズ/-127dBu(150Ωソース)
▪THD/0.02%以下(1kHz)
▪インピーダンス/マイク入力:2kΩ、ライン入力:10kΩ、ステレオ入力:65kΩ(ステレオ)/35kΩ(モノラル)
▪最大入力レベル/マイク入力:+15dBu、ライン入力:+30dB、ステレオ入力:+30dBu
▪外形寸法/482(W)×94(H)×405(D)mm(MFX12/2)
▪重量/6.7kg(MFX12/2)