音楽の細やかなニュアンスまで表現する高解像度パワード・モニター

KRKExposé E8B

今回のExposé E8BはKRK製品ラインのフラッグシップとなるパワード・モニター・スピーカーです。120Wディスクリート・クラスA/ABアンプを搭載し、新素材のツィーターなど、音の正確性を追求したスタジオ・リファレンス・モニターとして開発されたとのこと。今回はちょうどよいタイミングで、レコーディング・スタジオでの作業がありましたので、そちらでの試聴となりました。

AlBeMetを採用したツィーターで
広めの周波数特性


まず外観ですが、何と言ってもKRKの特徴ともいえるのが黄色いウーファー・ユニット。200mmのサイズで、このケブラー素材の音には適度な締まりと柔らかさがあります。そして、銀色の25mmツィーターは、AlBeMet(アルミニウムとべリリウムの複合素材)を素材に採用。これらの組み合わせにより周波数特性は40Hz〜30kHzと広め、出力はLF/HF共に120Wとなっています。角の取れたエンクロージャーは共振を防ぐなど機能性から生まれたもので、デザイン的にはスペイシー。また下面にゴム・マットが張ってあり、この重さでは効果も薄いかもしれませんが万全の態勢です。背面を見てみると入力端子に関してはXLRのみ。十分です。そしてLF/HF LEVEL ADJUST、HF SHELFといった補正用つまみ類と、レベル調整用のSYSTEM LEVEL ADJUSTが用意されています。LF LEVEL ADJUSTは同社V8と同じく、どの周波数からロールオフさせるのかを45/50/65Hz(−3dB)から選べます。HFに関してはV8よりさらに細かい設定が可能になっていて、2kHzから上を−2〜+1dBの範囲内で、0.5dBずつ上下できるHF LEVEL ADJUSTと、10kHzから上の帯域を0.5dBステップで−2〜+1dBで調整可能なHF SHELFが用意されています。シンプルですが肝を押さえた作りです。さて電源を入れ、試聴開始です。最新の機材には最新のサウンドで、ということで発売間もないメアリー・J.ブライジをはじめ数枚のCDを聴いてみました。まずはざっくり設置して試聴してみます。第一印象でその解像度の良さに驚きました。ですが、やはり部屋の特性との関係で気になるポイントが出てきました。そこそこの音量で鳴らすとハイに痛いポイントが。これはエイジングの問題も多少感じましたが、早速HF LEVEL ADJUSTをワン・ステップ下げてみました。この時点でほぼ問題解決! “少し地味になりすぎかな、せっかくの解像度にも影響が多いかな”という気もしましたが、そんな場合はHF SHELFで調整です。また、ローの物足りなさも感じたので、LF ADJUSTを65Hzから45Hzに切り替えてみました。これもまたよい感じです。ここまでで感じたのは、補正の変化をつかみやすいということ。0.5dBの変化がはっきり分かるのです。これはつまり、音楽の細やかなニュアンスの表現力も高いということです。当然レコーディングやミックスでもその力は発揮されます。

細かいつまみの変化に
敏感に反応するスピーカー


補正した状態であらためて数曲をじっくり聴いてみました。分離の良さに加え、立ち上がりの早さを感じます。打ち込みものよりも生もののほうがより好印象です。ジャズ寄りなものだけでなく、リミッターくさすぎるロックも、のびのびと鳴っています。エレクトロ系も総じて好印象ですが、アゲめで、しかもミッドロー辺りで引っ張る曲は少し物足りなさも感じました。ここは難しいところ。ミッドロー辺りの物足りなさが全体のすっきりした印象の理由の1つとも考えられるからです。そもそも、そこまで押し出しの強さを全面に出したキャラでもありませんし、長時間の作業でも苦にならない要因もそこにあるかもしれません。次にマルチのデータを開いていじってみることにします。ボーカルにプラグインのコンプをかけてみたところ、これもまた細かいつまみの変化へ敏感に反応します。アタックやリリースなどを普段あまり使わないような設定にしてみたときの感覚も新鮮で、新たな発見でした。普段このサイズのスピーカーで細かい音作りをしていないせいもありますが、小音量での操作でも同じ印象でしたので、この解像度ならではのものでしょう。総合してみると、ハイレンジで非常に特徴的なものを感じました。これはAlBeMetツィーターの音ということでしょう。そのためか若干ローがマスキングされている印象ですが、実際にウーファーのキャラは以前と変わっていないと思います。そのためハイレンジの補正がより追求できる仕様になったのでしょう。指向性の強さからルーム・アコースティックの影響も最小限ですし、セッティングも楽かと思います。サイズ的に自宅使用向きではないですし、リファレンス用に持ち運ぶのも難しいかもしれませんが、そういう意味ではより小型な同社のVXTシリーズへ非常に興味がわきました。ラージの置けないスタジオに本製品があったら大変重宝すると思います。次はこれだけでミックスしてみたい!
KRK
Exposé E8B
829,500円/ペア

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/40Hz〜30kHz
▪ツィーター/25mm
▪ウーファー/200mm
▪アンプ出力/120W(LF)、120W(HF)
▪外形寸法/370(W)×491(D)×355(H)mm
▪重量/30kg