“かゆいところに手が届く”多彩な改善が施されたWindows用DAW

MAGIXSamplitude 10

筆者がWindowsネイティブ環境のDAWを必死で探していた数年前、“とにかく音が良い”という話を聞き、手にしたのがSamplitude。それからバージョン・アップを重ね、今回Ver.10に。非常に完成度の高いDAWになった印象を受けました。

オートメーション機能を使いやすく強化
Overviewモードなどの新機能も追加


まず、Samplitude 10にはPro/Standard/Masterの3種類が用意されています。Proは最大999トラック、5.1chサラウンド・ミックスに対応し、アナログ・モデリング系のプラグイン・エフェクトも装備したフラッグシップ。またStandardは最大64トラックの基本機能を押さえたモデル、Masterはその名の通りマスタリング向けで2トラック仕様となっています。今回はSamplitude 10 Proを中心にレビューしていきましょう。さて、Samplitude 10を立ち上げてみると、ソフトのアイコンが新しくなって新鮮。Windows用のDAWとして有名な本ソフトですが、今回対応するOSはWindows 2000/XP/Vistaとなっており、現行のWindowsマシンであれば問題なく使用できるでしょう。それでは、早速その性能をみていきます。まずSamplitudeの一番の自慢と言えば、音の良さ。前バージョンから導入されたハイブリッド・エンジンを踏襲し、すべての内部処理を32ビットのフローティング演算で行い、最高384kHzのサンプリング・レートまで対応しています。実際、仕事上では生楽器のデータを扱うことが多いのですが、音の輪郭やニュアンスもしっかり表現してくれます。資料では“最高級のアナログ・コンソールと比較しても、勝るとも劣らない”とありますが、決してハッタリじゃありません。続いて、新しく追加された機能を見ていきましょう。まず特筆すべき点は、オートメーション機能が強化されたこと。トラックとマスター、両方のオートメーション機能が拡張され、トラックごとでAUXセンド、EQ、プラグインなどのコントロールが可能になり、さらに、マスター・セクションでもEQやVSTプラグインのオートメーションが可能になりました。しかも、単にOverwrite/Readだけではなく、ほかのDAWでも見られるようなTouch/Latch/Trimといったモードも用意されています。実際にTouchモードを使用してみると非常にスムーズ。フェーダーにタッチしている間だけオートメーションの書き込みができるので非常に重宝します。従来のバージョンでは、“間奏前の歌の伸ばしの部分に徐々にリバーブを増やしていく”といったオートメーションを書きたい場合、オブジェクト・エディターとクロスフェードを駆使していたので、今回の改善は非常にありがたいです。ちなみに、オブジェクト・エディターとは、Samplitude独特の仕様で、オブジェクト(リージョンなどのこと)をダブル・クリックすると現れる画面。AUXやEQ、エフェクトなどのミキシングに必要な要素をリージョン単位で設定できます。例えば、歌の一節のみを切り抜いて、その部分のみEQやエフェクトをかけることができる優れた機能です。今回からはこのオブジェクト・エディターでもオートメーションを書くことができるようになったので作業の選択肢が広がりました。さらに新しく追加されたOverviewモードとTempo機能も便利。Overviewモードはプロジェクト内のすべてのオブジェクトを、トラックの下に表示して見渡すことができる機能です(画面①)。20080301-03-002▲画面① Overviewモードでは、上の画面のようにプロジェクトの全オブジェクトがトラックの下に表示され、一望できる(左ページの画面も参照)。また、任意のオブジェクトの範囲を選択すると、その部分がアレンジ・トラック上で拡大されるこのモードにはさらなる工夫が施してあり、表示されたオブジェクトの中から作業に必要な部分を選択すると、その部分が拡大されて表示されます。しかも、横長の範囲を選択すればオブジェクトの時間軸に沿った拡大が、縦長の範囲を選択すれば、一定の時間の範囲で、そこに含まれるオブジェクトを拡大することができるのです。この機能によって、時間移動と縦横両方のズーム変換が一瞬にして行えるようになりました。Tempoはオーディオ・クオンタイズ機能を備えており、ビートを検知して切り分ける機能や、切り分けによって生まれたギャップを埋め、自動的に補正する機能などを持っています。さらに、タイム・ストレッチ機能であるResampling/Timestretchingにも、新しくUniversal HQというアルゴリズムが導入され、さまざまなタイプの楽曲におけるタイム・ストレッチの精度が向上しました。特にオーケストラものなどの複雑な曲に効果的です。MAの現場などで、BGMの尺合わせや複雑な音源のループのテンポ合わせに効果的ですね。

ソフト・サンプラーが新たに付属
モデリング系コンプレッサーも追加に


次に注目したいのが、YELLOW TOOLSのソフト・サンプラーのライト版、Independence LEがバンドルされた点(画面②、Master除く)。ライト版とはいえ、4GBのサウンド・ライブラリーが付属しドラム/ベースからエスニックな楽器まで収録されているので、とりあえずSamplitudeだけを買っても楽曲制作を始めることができます。20080301-03-003▲画面② Ver.10よりバンドルされるソフト・サンプラー、YELLOW TOOLS Independence LE。4GBに及ぶライブラリー音源も付属するまた、プラグイン・エフェクトでは、マスタリング作業などに適したアナログ・モデリング系コンプレッサー/リミッターのAm-munition(画面③)も追加されました(Proのみ)。画面を見ると、ごく普通のコンプのパラメーターが並んでいますが、実際に使ってみると音圧を稼いでも、鮮明でつぶれた感じのしない素晴らしいコンプです。いわゆる“音圧稼ぎ”をしても鮮明さを保ってくれます。位相のずれを抑えて原音をミックスするMAGIXお得意のシリアル・コンプレッションとソフト・クリッピングの技術を組み合わせているようです。20080301-03-004▲画面③ Samplitude 10 Pro付属のアナログ・モデリング系コンプ/リミッター、Am-munition。サイド・チェインでの使用も可能だ

マスタリングに最適なエフェクトも強化
MIDI機能の充実にもさらなる拍車が


皆さんの中には、ミックスした音源をマスタリングした後に聴いてみると、音圧だけでなくEQによってバランスが変わっていると感じたり、コンプのリリース・タイムの設定でリバーブが増えたり減ったりしたと感じたことはありませんか? あるいはどうしてもほかの曲よりボーカル・バランスが大き過ぎた曲などがあっても、あきらめてそのままにしてしまったことはありませんか? そんなときのために、マルチバンド・コンプのMultiband Dynamicsが進化しました。Samplitudeには、シングル・バンドのコンプであるAdvanced Dynamicsも用意されているのですが、これは複雑なコンプレッション・カーブを設定可能な非常に高機能なもの。それが今回からMultiband Dynamicsの各バンドでも同様の機能を実現できるようになったのです(画面④)。20080301-03-005▲画面④ 進化したMultiband Dynamics。“Advanced Mode”が追加されたことで、複雑なコンプレッション・カーブの設定が可能になった。バス・ドラムなどに使ってもGood! また、エンハンサーのMultiband Stereo Enhancerにも新機能のMaximizeフェーダーが追加されました(画面⑤)。20080301-03-006▲画面⑤ ステレオ・イメージ・エンハンサーのMultiband Stereo Enhancer。低域だけモノっぽくして高域は広げて、ミックスをすっきりさせたりできる優れもの。新機能のMaximizeフェーダーで、マスタリング作業中にも全帯域のステレオ感を調節できるこれはステレオ感を調節できるもので、通常のステレオよりもさらに広げたり、モノっぽくしたりすることが可能です。ちなみに、筆者がマスタリングを行う場合は、各曲のプロジェクト内で2ミックスを作った後、マスタリング用のプロジェクトを同時に立ち上げてそこにドラッグ&ドロップで2ミックスをコピペします。そして、ミックスが終わった時点でマスタリングに入りますが、その作業中にミックスからやり直したほうがよいと判断したら、その曲のプロジェクトに戻ります。マスタリング中でも簡単にミックスに戻れるというのは素晴らしいと思いませんか?そのほかアナログ・モデリング系リバーブであるVariverb Proのモデリング・タイプが増えたり、全プラグインにおいて、設定の前後を比較できるようになったりと、目立たないながらさまざまなアップデートが随所に施されています。またVer.9においてMIDI機能も充実したSamplitudeですが、今回のバージョン・アップでは、細かい改善が中心のようです。クオンタイズの種類が増えたほか、MIDIループ・レコーディング機能の追加などが行われています。最後になりましたが、Masterには“Cleaning& Restoration Suite”と呼ばれるノイズ除去やマスタリング作業に適したプラグイン群が追加されました。例えば高域成分を補正するためのツール、Brilliance Enhancerは、MP3への圧縮時やアナログ・テープで録音したときに失われてしまうハイ成分を補正する際に重宝しそうです。普段、筆者がスタジオでSamplitudeを使いテイク編集などの作業をサクサクしていると、DAWに興味のある関係者やアーティストから“すごいね。このソフト何?”とよく質問されます。残念ながらまだまだ日本では知名度の低いSamplitudeですが、特にヨーロッパでは業務用のDAWとして長い歴史があり、多くのプロの意見を取り入れてバージョンごとに改良を重ねてきました。今回は、これまでSamplitudeを使用してきた人にとってはかゆいところに手が届く機能が増えたといえるでしょう。音の良さと使いやすさは、胸を張って保障できます。できるだけ多くの人にその良さを知ってもらいたいソフトです。
MAGIX
Samplitude 10
Pro/155,400円
Standard/81,900円
Master/50,400円

REQUIREMENTS

▪Windows 2000/XP/Vista(32ビット)、2.4GHz以上のInter Pentium 4/AMD Athlon以上のCPUを強く推奨、512MB以上のメモリー(XP及び2000)、1GB以上のメモリー(Vista)を推奨、VGAグラフィック・カード(1,024×768、32,000色を推奨)、Windows/ASIO標準のオーディオ・カード、DVD-ROMドライブ、CD-R/DVD-Rドライブ、空きUSBポート、インターネット接続環境