充実のオートメーションなど進化を果たしたハイエンドDAWソフト

STEINBERGNuendo 4

僕はSTEINBERG NuendoをVer. 1.0のころから使い続けています。その理由を単刀直入に言えば、第一に慣れです。それまでも同社のソフトをずっと使ってきましたし、そもそもサウンド・エンジニアであるカール・スタインバーグ氏が開発していたので、知らない使い方を覚えたときには氏の手法を教えてもらうような気分になったものです。これを使いやすいと言い換えられますが、ずっと右ハンドルで運転していればそれが使いやすいのと同様に、僕がそう言っても説得力は無いかもしれません。ただ、編集作業をほかのDAWでやる優れたアシスタント・エンジニアを見ていて“Nuendoを使えばもっと速くできるな”と思うことも多々あります。今回のアップデートではユーザーからの要望が大量に取り入れられ、覚えれば効率が上がる機能がたくさんあるので、紹介していきたいと思います。

オートメーションの作業効率を上げる
新たなウィンドウを採用


もともとNuendoのオートメーションには特に不満はありませんでしたが、今回のバージョン・アップではEUPHONIXの大型コンソールで使われているオートメーションを参考に大幅な機能拡充が行われました。まず、初期設定やGUIのいろいろなところに散らばっていたオートメーション関連スイッチや設定をまとめた“フローティングオートメーションパネル”が新設されました。同ウィンドウ上には新機能も多数盛り込まれています。中でも特徴的なのはスナップショット。ミックス時に、ある瞬間からガラっと違うバランスに切り替えたいといったことがあります。各フェーダーやEQをオートメーションで大量に書いていくのは大変なので、とりあえずステレオ化して編集したり、そこだけ専用トラックを作ったり、と実現は容易ではありませんでした。Nuendo 4ではミキサーのある状態をスナップショットとして記録し、任意の場所で呼び出せます(画面①)。20080301-02-002▲画面① 新しく用意された“フローティングオートメーションパネル”(画面上)を使い、スナップショットを書き込んだところ。いったんPreviewモードでバランスをとり、Punchを押して必要な場所にインサートする。その他、オートメーション関係の全コマンドを同ウィンドウに集約している 既にミックスをしているときには、いったんオートメーションをオフにできるPreviewモードでフェーダーやプラグインの設定など、ミキサーの状態を記録し、それを好きな位置にインサートするのです。その設定に何を含めるかは任意で決められるので、ドラムのフェーダー十数本分のレベルだけをまとめるなど、いろいろな使い方ができます。ほかにも特にリアルタイムにフェーダーやその他のオートメーションを書くときに便利な機能が増えています。例えば“To Punch”。これはフェーダーを書いているときに押すと、フェーダーを書き始めたところまでさかのぼってレベルを変える、というもの。あとは似た機能で“To Start”があります。これはやはりフェーダーを書いているときに“やっぱり頭からずっとこのくらいでいいかも”と思ったときに押すと、曲の頭からそのレベルにしてくれるものです。その他の従来からあるスイッチ類もオートメーションパネルではすべてにショートカットが割り当てられ、Write/ReadやTrim/Autolatchなどがマウスに触らずに切り替えられるので、より直感的にフェーダー・ワークができます。ほとんどマウスでオートメーションの編集を行う方はピンと来ないかもしれませんが、質のいいコントロール・サーフェスと一緒に使うとラージ・コンソールのオートメーションであまり視覚情報に頼らずミックスをしていた感覚が戻ります。もちろん細かい部分はマウスで編集しますが、その際もポイント移動時には見やすい横線が出たり、細かな機能が増加えました。また、これと合わせてクイックコントロールというMIDIコントローラーにプラグインやミキサーのノブを、今までよりもはるかに簡単にアサインできる機能が増え、ミックス時、特にリアルタイムでオートメーションを書く場合にかなり便利になりました。

新たに搭載されたVST3プラグイン
良質なチャンネルEQも追加


Ver. 4になってVST3規格が採用され、渋いGUIデザインのプラグインが38種類増えました。モジュレーション系やサチュレーター、ダイナミクス系など、使ってみるとなかなか良い出来のものが多くあります(画面②)。20080301-02-003▲画面② 新しいVST3プラグインでは特にダイナミクス系、モジュレーション系が充実した。オレンジ色のボタンはサイド•チェインのOn/Offで、他チャンネルのセンドや出力からキーを送る。ここでもプラグイン同士のレイテンシーは自動補正される。また、VST3プラグインはすべてサラウンドに対応している もちろん今までのVST2のプラグインもインストールされるので、ほかに何もなくても使用に耐えるものが一通りそろいました。VST3規格の恩恵で38種類のプラグインはすべてサラウンド用途でも機能します。同じくVST3の規格でサイド•チェインがサポートされたことで付属するVST3のダイナミクス系プラグインには他チャンネルからキーを送れるようになりました。VST2.4まではプラグインごとの対応で数も少なかったのですが、VST3規格の開発キットも配布が始まったので、今後は他社プラグインもサイド•チェインに対応するでしょう。これは、DIGIDESIGN Pro Toolsでうらやましく思っていたところなので個人的にはうれしいです。やや実験的ではありますが、INTEL MacではPPC版、64ビット版Windowsでは32ビット版のプラグインをそれぞれ使える“Plugin Bridge”機能もあり、新環境で使ってみたい、という方に朗報でしょう。それから、チャンネルEQが完全に書き直されました。ノンリニアではないため、良質かつレイテンシーも発生しません。カーブも数種類あり、他社のノンリニアEQと比べて何の遜色も無い素直なEQです。新設のノッチフィルターやハーモニック・フィルターは純粋な補正に便利です。

エフェクト&レコーディング関連機能と
メディアベイを含むデータベース環境


続いてはエフェクトのドラッグ&ドロップとフリールーティング、サミング・オブジェクトからの録音です。これらはユーザーなら何かすぐ分かるでしょう。まず、インサートされたプラグインをドラッグ&ドロップで順番を変えたり、任意のチャンネルにコピー可能になりました。一見単純そうなことですが、よく考えればオートメーションと深くかかわっているためなかなか実現しなかった部分です。同様に、グループからグループへ送ったり、FXチャンネルをグループへまとめるときにあった制約も無制限になり、自由にルーティング可能になりました。さらに、任意のグループ・チャンネルやFXチャンネル、アウトプット・バスから、直接オーディオ・トラックへ録音可能になりました。VSTiのアウトを録音したり、ピッチ修正プラグインをかけたトラックを別トラックにパンチイン/アウトしたり、アレンジ・ミックス後の一本化用など用途は多彩です。これらは今まで弱点で、いろいろ回避するための習慣が身に付いていましたが、Ver. 4で簡単な方に慣れてしまうと何かの都合でVer. 3に戻ったときにがく然とします。あと、新機能のメディアベイ(画面③)でハード・ディスク内のオーディオ/ムービーなどNuendoで扱えるファイルのデータベースを作っておくと、それらのファイルを手軽に検索したり聴いたりしてみて、必要に応じてプロジェクト・ウィンドウに直接置くことができます。20080301-02-004▲画面③ 新たに追加された“メディアベイ”を使えばハード・ディスク・ドライブを自動的に検索してNuendoで扱えるファイルを探し、分かりやすいレイアウトのファイル・ブラウザー内で直接アクセスできるまた、付属のSE集のようにファイルにタグが付いていれば内容でも検索できます。例えば、手っ取り早くドアの音が入れたい、と思ったら検索してハード・ディスク内のドアの音をすべて並べて聴き、目的の音をドラッグ&ドロップでプロジェクトにすぐはれるのです。複数のプラグイン設定を同時に管理するトラック・プリセットやVSTiのプリセットを扱うサウンド・フレームも同様で、ファイル名を真面目に付けていれば、かなり便利に使えるでしょう。今回のバージョン・アップには上記のように派手なもの以外にも、細部でかなりユーザーからのリクエストを取り入れているようです。ポストプロダクションの現場で要望の多かった編集機能(音楽用途にも使用可能)など、Nuendoユーザーなら“これは便利!”という機能がきっと見つかると思います。さらに、新しいProject Logical Editor(画面④)と大量に増えたキーコマンドやマクロを組み合わせると、こういう機能があったらな、というコマンドは自分で追加できます。20080301-02-005▲画面④ 複雑なMIDIの編集をする場合に強力な道具となるロジカルエディタが新たにオーディオ・イベントやトラック、オートメーション・ポイントなどにも使えるようになり、“Project Logical Editor”として新設された。既存のコマンド、キーボード・ショート・カット・マクロなどと組み合わせ、ユーザーが思い描く機能を実現することができる例を挙げれば、ミュートされているイベントをすべて選ぶ/消す、オートメーションのオフライン・トリム、小節線に乗っていないイベントの選択、パートをクオンタイズなどです。また、Ver. 4で前バージョンのプロジェクトも読めますし、Ver. 3をインストール済みのコンピューターにVer. 4をインストールしても問題ありません。先出の同社Cubase 4での実績もあり、発売後のメインテナンス・リリース済みなので既に安定したリリースとなっています。また、今回からスコア機能やVST3対応VSTiなど、MIDI関連の一部機能は拡張オプション“NEK”として用意されています(オープン・プライス/市場予想価格40,000円前後)。そうした機能が不要なエンジニアなどの方はコストを抑えられるというメリットもあります。以上、細かな機能改善をすべては書ききれませんが、今までのNuendoユーザーはアップデートを強くお薦めします。また、新規導入を検討している方も機能拡充でほかのDAWでできてNuendoでできないことが随分減ったので、乗り換えの手間も軽減されたと思います。
STEINBERG
Nuendo 4
オープン・プライス(市場予想価格/248,000円前後)

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows VistaまたはWindows XP Professional SP2/XP Home Edition SP2、Pentium 4/Athron 2GHz以上のCPU、1GB以上のRAM、Direct XまたはASIO対応デバイス(ASIO対応デバイスを強く推奨)、DVD-ROMドライブ、USB端子、インターネット接続環境
▪Mac/Mac OS X 10.4以降、G4 1GHzまたはCore Solo 1.5GHz以上のCPU、1GB以上のRAM、Core Audio対応デバイス、DVD-ROMドライブ、USB端子、インターネット接続環境