大容量HDに8trの同時録音が可能なプロ仕様フィールド・レコーダー

FOSTEXPD606

ここ数年、各社から数多くのデジタル・フィールド・レコーダーが発売され、ビギナーからプロまで手軽にフィールド・レコーディングを楽しめる環境が整ってきているのは本当にうれしいことだ。今回はフィールド・レコーダーの老舗、FOSTEXから発売されたPD606のプロ機ならではの実力を検証してみよう

フォーマットの変更などが素早く行える
クイック•セットアップ機能を搭載


本機は最高24ビット/192kHzに対応するフィールド・レコーダー。6chのアナログ入出力とAES/EBUおよびS/P DIFに対応する8chのデジタル入出力を装備しており、6chのアナログ同時入力と、それらの入力音をステレオにまとめる内部バスを合わせて8trの同時録音が可能。サラウンド録音にも十分対応してくれる。もちろんデジタルでは8trの同時録音が可能だ。さて、前モデルのPD-6と比較してみると、PD-6が8cmのDVD-RAMを主たる記録メディアとしていたのに対し、PD606は実領域が約80GBの内蔵ハード・ディスク(以下HDD)と12cmのDVD-RAMを採用している。HDDは一つが4.7GBのパーティション16個に区切られ、各パーティションの最大録音時間は24ビット/192kHzのステレオで64分が確保されている。しかも記録中に一つのパーティションがいっぱいになったときに、自動的に次のパーティションに録音を続ける連続録音モードを使うと、この記録時間はその16倍となり、驚異的な長時間に及ぶ連続録音が可能だ。多チャンネルの同時録音が必要なサラウンド収録にも十分対応できるはず。また、HDDとDVD-RAMに同時記録できるミラーリング機能や、1分ごとに自動でファイル・セーブされる機能も搭載。絶対にミスが許されないプロの現場での使用を十分考慮している。本体には多くの操作子が配置されているが、これらはトップ・パネルにあるパネル・ロック・スイッチにより完全に固定することが可能。知らないうちに設定が変わっているというような事故を未然に防いでくれるのだ。これは実際にフィールド・レコーディングをしているときにはよくあることで、特に真っ暗闇の中で録音するような場合にはとてもありがたい機能なのだ。内部回路に関して言うと、PD-6と比較するとマイクプリは新設計のディスクリート仕様に変更され、ミキサー部はリミッターとハイパス・フィルター以外は完全にデジタル化。またAD/DAコンバーターも高品位のものに変更されているそう。フロント・パネルにあるディスプレイで操作するオペレーション・システムも改善されている。メニュー操作はクリック機能を持つMENUつまみと各種スイッチで行うが、特に気に入ったのは、頻繁に操作するフレーム・レートやビット・レートおよびサンプリング周波数の変更などの設定を、階層の一番上にあるホーム画面上で操作可能なクイック・セットアップ機能。これは素早い操作が要求される録音現場では非常に便利だ。

録音中に待機状態にすることなく
音量を自由に設定可能


では、フィールド・レコーディングを実践。明治神宮で森の鳥たちを録音してみた。マイクは愛用のバイノーラル・マイク、NEUMANN KU-100。ミキサーが搭載されているので、入力音の調整時に録音待機状態にする必要が無いのは便利。モニターして、まず驚いたのは音の透明感。通常マイクプリには何らかのキャラクターがあるものなのだが、その存在をまったく感じさせないほどストレートな信号が送られてくる。マイクから入った信号に色付けすることなく、ピュアに記録するという強い基本コンセプトの元に設計されたマシンであることがよく分かる。24ビット/192kHzに設定し録音を開始。HDDの駆動音はほとんど聞こえない。録った音を再生してみると、遠くからの小鳥のさえずりや、森の気配、空気感までもが生々しく再現されており、豊かで柔らかい低域の伸びは、美しい高域の広がりを支えている。一切の色付けを省いた、ストレートかつフラットな音質が印象的だった。本機は価格から考えても、完全なプロ仕様。手に取ると設計者の情熱と愛情がひしひしと伝わってくる。PD-6を使用したプロユーザーの意見に丁寧に応え、改良を重ねた結果出来上がった、まさに最高峰と呼ぶにふさわしいレコーダーだ。20080301-08-002

▲トップ・パネル。左にある四角い部分がDVDドライブでその右には、上段よりLINE/MIC切り替えスイッチ、マイク給電切り替えスイッチ、HPFコントロール・スイッチ、HPF切り替えスイッチ、パネル・ロック・スイッチ、DVD-RAMの巻き戻し/早送り/再生/停止スイッチが配置されている


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▲右サイド・パネル。上段はアナログ入力(XLR)×6、下段左よりリモート入力端子、拡張用端子、デジタル入出力(D-sub25ピン、AES/EBU、S/P DIF)、ワード・クロック入出力(BNC)、タイムコード入出力(XLR)×2


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▲左サイド・パネル。上段はアナログ出力(XLR)×6、下段左より電源インレット、電源出力端子、アナログ出力(XLR)

FOSTEX
PD606
1,449,000円

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜20kHz(±1dB、44.1/48kHz)、20Hz〜40kHz(±2dB、88.2/96kHz)、20Hz〜70kHz(±3dB、176.4/192kHz)
▪ダイナミック・レンジ/107dB(24ビット/48kHz時)
▪外形寸法/325(W)×116(H)×234(D)mm
▪重量/約3.4kg(バッテリーを除く)