着実な進化を遂げたLive 7と新開発音源3種を含む統合パッケージ

ABLETONAbleton Suite

最近のDAW関連の価格破壊はすごい。他社製ソフトの良い部分や内蔵のエフェクト/音源をどんどん取り入れ、お値段そのままハイどうぞ!的なサービスが展開されている。こうなってくるとABLETON Live独自の魅力がほかのソフトに吸い取られてしまうのでは?なんて思う人もいるかもしれない。でもそんな心配はご無用。Liveも今回のアップデートによってさらに素晴らしいソフトに進化している。今回はより使いやすくなったLive 7に、3種の新開発ソフト音源や膨大なサンプル・ライブラリーを統合したパッケージAbleton Suiteを紹介していこう。

創作意欲を刺激する
Liveのユーザー・インターフェース


Liveは2001年に“オーディオ・データを自由にテンポを変更できて、しかもライブ用途に耐えうる”という当時としては画期的な、でも比較的シンプルなソフトウェアとして登場した。その後着実にアップデートを重ね、今や列強ひしめくDAWソフト群と比肩する程の統合ソフトとなっている。僕はLive 5のリリース時もレビューを寄稿しているのだが、そこでは“僕がLiveを使う理由”を冒頭で切々と語っていた。今になって読み返してみても面白く、ここで掲載するのも意義があると感じたので、もう一度書いておこう。
●オーディオ・データでもBPMとキーに対し自由になれる
●Mac/Windows両対応
●多くのオーディオ・インターフェース/プラグインに対応している
●創作意欲を刺激されるグラフィック・ユーザー・インターフェースあれから2年が経った今、Liveと同じような機能を持ったソフトが続々登場しているが、それでも僕がLiveを使い続ける理由はなんだろう?と考えてみると、4番目のインターフェースによる部分が大きい感じがする。とにかくLiveは曲作りやアレンジをするときにストレスを感じさせない設計で、使いやすいのだ。と、Live好きなので延々と語ってしまいそうだが中断し、今回のアップグレードでの変更点を紹介していこう。

プラグインのアップデートも含め
音質面の強化も万全


まずオーディオ/MIDIエンジンの改良について。サンレコ読者にとっても特に音質は一番気になる部分であろうから、真っ先に見ておきたい。ちょうどLive 6.0.10で作っていた曲があったので、それを全くいじらずにLive 7.0.1で試しに再生してみた。う〜ん、ちょっと明るめになったかな? でもプラシーボ効果というか、バージョン・アップグレード効果(笑)もあるかもしれない。こうした比較は精神的な要因がからんでくるのでやっかいだ。実を言うと、僕はLive 6までの音も別に悪いとは思っていなかった。例えば普通のDAWと同様に音を録って、同じテンポで再生したものをミックスすればそれなりにいい音だと思っていたし、Warpエンジンを多用している状態でも、ソースに対して適切なWarpモードを選択すれば十分に使えるサウンド。もしそれで不満があるならもう一度録り直そうという気構えで使えば良いと思っていた。こんな風に思えるのはエンジニア/プロデューサーという僕の仕事柄だろうか? DJやMAに使っている人は簡単に録り直しができるわけではないから……と、私感ばかり言ってると読者からブーイングが来そうだから、本気でLive 6と7の違いを検証してみた。それぞれのバージョンで再生したものをデジタルでDIGIDESIGN Pro Toolsに取り込み、これら2テイクのタイミングをサンプル単位で合わせた上でスイッチングして聴き比べてみることにした。DAコンバーターはいつも僕がPro Toolsで使っているAPOGEE Mini-DACだ。こうして聴き比べてみると、非常に微妙だが違いは感じられた。Live 7は、6に比べるとメリハリと言うかアタックのヌケが良い感じ。例えばリムを打っているスネアの“コンッ”とくる感覚がLive 7だと一つ前に出てくる。さらにステレオ感/左右の分離が良くなった。また中域のまとまった感じが薄れ、上と下の帯域がちゃんと出るようになった。無理やりまとめてしまうと、ABLETONのアナウンス通り、Live 7の方がハイファイというかクオリティの高い音になったと言えるだろう。ABLETONのWebサイト(www.ableton.com)では、オーディオおよびMIDIに関する“Fact Sheet”というPDFファイルがダウンロードできるようになっている。この中のオーディオに関する報告を読むと、“Liveはこんな風に使ったときに元音に忠実ではないサウンドになります”という内容だった。ここまで自分たちの設計方針や検証を細かく公表するメーカーは少ないし、今回のアップグレードのような基本設計に対しての真面目な向上心には好感が持てる。ともあれ、オーディオやMIDIを臨機応変に扱えるLiveだからこそ、どう使えば良い(元音に忠実な)音が得られるか興味のある人は、ぜひ上記のPDFを読んでみてほしい。またオーディオ周りの改良点として付属エフェクトの強化(画面①)も挙げられる。Live 7でアップグレードされたCompressor、EQ Eightはサード・パーティ製のコンプ、EQと比べても十分に良いものだと言えるだろう。特にCompressorはビンテージ・コンプのシミュレート機能を付けたことにより、非常に幅のある使い方ができるようになった。またCompressor、Gate、Auto Filterにはサイド・チェイン機能も搭載され、ミックス全体がキックに支配されるような過激なコンプなど、アイディア次第でさまざまな組み合わせを試せるのがうれしい。20080201-01-002▲◀画面① 今回、追加/アップグレードされたプラグインたち。左からCompressor、EQ Eight、Gate、Spectrum、Auto Filter(2段目)。中でもCompressorとEQ Eightは地味に真面目に良くなっている。こうした質実剛健なアップグレードは大歓迎

DAWとしての完成度を高める
数々の改良が施されたLive 7


次に今回のLive 7の新機能の中でも目玉と言われるDrum Rackを見ていこう。まずDrum Rackとは何なのだろうか? Live 6では“デバイスラック”という機能が新たに追加されていたが、これはNATIVE INSTRUMENTS KoreやPROPELLERHEAD ReasonのCombinatorのような“複数のインストゥルメントをまとめて扱いやすくできる環境”である。今回Live 7に追加されたDrum Rackは、それをリズム・プログラミングに特化したと言えるものだ。画面②を見てほしい。画面下のトラックビューに見えるのがDrum Rack本体だ。一番左側にマス目のパッド部分があり、そこに好きなサンプルやソフトウェア・インストゥルメントをドラッグ&ドロップすれば簡単にリズム・キットが組める。素晴らしいのは、画面からも分かるようにミキサー部でパッドごとにフェーダーが展開でき、それを独立した別トラック(もちろんMIDIクリップも別)に分離できてしまうのだ。20080201-01-003▶画面② Drum Rack全景。ミキサー部に各パッド(またはチェイン)を展開させてパラメーターを設定できる方式はとても使いやすい。1月号のDAW Avenueでも山中剛さんの連載でDrum Rackの詳しい解説が掲載されている。興味を持った方は要チェック またREXファイルを画面③のように読み込むと、自動的にDrum Rackの各パッドに割り当てた状態で読み込んでくれるのも非常にありがたい。20080201-01-004▲画面③ ブラウザでREXファイルを右クリック(Macの場合はControl+クリック)すると、このようなメニューが現れる。ここで“新規MIDIトラックへスライス”を選択するとREXファイルのヒットごとにパッドを分けたDrum Rackが自動的に作成される こんな感じでDrum Rackは自分でいちからドラム・キットを組んだり、REXループなどを組み換えてリズムを構築するなど、曲を作る際にその曲専用のリズム・キットを組むような人にとって、特にメリットが大きいと思う。音色の作り込みは各パッドのサンプラーやソフト・シンセでじっくりと行い、その後に単独でエフェクトをかけたり個々のパーツをEQ/コンプ処理したり……これらの作業において、このDrum Rackはベストと言える環境を提示してくれるだろう。またExternal Instrument/Audio Effect(画面④)も注目すべき新機能だ。これはハードウェアのシンセサイザーやサンプラー、エフェクトなどをプラグイン的に使えるようにしようというコンセプト。ほかのDAWソフトでもポピュラーになりつつある便利機能だ。Live 7ではフリーズにまで対応しているのが素晴らしい。僕もハードウェア・シンセを“ここぞ!”というときに使うことが多いので早速愛用している。この機能に関しては今月号のP146〜147、DAW Avenueの山中剛さんの連載で詳細が伝えられているので、ぜひチェックしてみてほしい。20080201-01-005▲画面④ External Instrument/Audio Effectのプラグイン画面。ここに目的のハードウェアのIn/Outを指定すれば、ソフトウェアのエフェクトやシンセと同様にフリーズまでできてしまう。これは本当に便利! 画面ではPROPELLERHEAD Reasonを外部音源のように扱っている。こうすればReasonからのReWireの信号を個別にレンダリング可能だ。素晴らしい! そのほかの主立った新機能は以下の通りだ。
●拍子記号の変更が可能に(画面⑤)20080201-01-006▲画面⑤ ようやく搭載された拍子記号の変更オプション。“Live 7までなぜ無かった?”という感じだが、これはニーズがなかったからなのか、それともLiveで作っている人はプログレが嫌いなのだろうか?(笑) ●オートメーションが1つのトラックに対して複数表示できるようになった(画面⑥)20080201-01-007◀画面⑥ ほかのDAWでは標準となりつつある、オートメーションがトラック下に複数表示できるようになる機能。Liveはオートメーションが簡単に行えるだけに、この機能の搭載を待ち望んでいた人も多いはずだ
●テンポのナッジが可能に(画面⑦)20080201-01-008▲画面⑦ 待望のテンポナッジ機能。左右のボタンを押すとその分だけLiveの再生テンポが速くなったり遅くなったりする。DJが2枚のレコードのピッチを合わせるときのように、曲をちょっと進めたり遅らせたりするにはマストな機能

新たに開発された
ソフトウェア音源3種を紹介


Ableton SuiteはLive 7のベーシックな部分の改善だけでなく、これまで別売だった専用ソフト・シンセOperator、ソフト・サンプラーのSamplerに加え、A|A|S(APPLIED ACOUSTICS SYSTEMS)とのコラボレーションによって新たに開発された3つのLive専用インストゥルメントがパッケージされ、さらに膨大なサンプル・ライブラリーも付属している。これらについても紹介していこう。Analog(画面⑧)アナログ・シンセサイザーのモデリング音源。A|A|S Ultra Analogがベースとなっているそうだ。画面からも分かるように2オシレーター、2フィルター、2アンプ、そして各モジュールに専用のエンベロープ(計6基)、LFO×2、ノイズ×1という構成になっている。2つのフィルターはシリアル/パラレル両接続に対応しており、フォルマントなどを含めた10種類のフィルター・タイプを選択可能だ。2つのオシレーターには“Sub”“Sync”というオプションが付いており、Subは1オクターブ下の音を加算し、Syncはオシレーター・シンクのようなサウンドを作り出すことができる。この部分のSubを上げることで、倍音をたっぷりと含んだ、いわゆる“太い”音を作ることができた。20080201-01-009▲画面⑧ Analogのインターフェース。Operatorと同様、各モジュールをクリックすると中央にエンベロープなどの設定が表示される。モジュレーション・ソースが少なめに感じるかもしれないが、Liveのオートメーションがすべてモジュレーションであると考えれば、すごく有機的なサウンドが作成可能ということに気付くはずだTension(画面⑨)弦楽器の物理モデリング音源。画面を見ると以下の7つのセクションで構成されていることが分かる。
STRING:弦の材質
EXCITATOR:弦のはじき方
TERMINATION:フレットと指の関係性
DAMPER:ダンパーや指による音の減衰
BODY:ボディの共振
PICKUP:ピックアップによる音の変化
VIBRATO:ビブラート20080201-01-010▲画面⑨ Tension。見慣れないパラメーターばかりで最初はよく分からないかもしれないが、プリセットを見ていくとだんだん使い勝手が分かってくると思う従来のシンセとは違うパラメーターが並んでおり、慣れないと少し戸惑うかもしれない。でもそれだけに普通の減算方式のシンセでは得られないような、非常にユニークな音色を出すことができる。また実際の弦楽器をシミュレートするという性格のため、ベロシティやキーによる音色変化が付けやすいパラメーターが多いが、Liveの手軽なオートメーションでいろいろといじって変態的な音を出すのも面白そうだ。Electric(画面⑩)RHODESやWURLITZERなどのエレクトリック・ピアノのモデリング音源。A|A|S Lounge Lizardがベースとなっている。これもTensionと同様にサンプルを一切使わず、エレクトリック・ピアノの発音方式そのものをモデリングしている。具体的には以下のようなパラメーターで音色を変えることが可能だ。
MALLET:マレット硬度など
FORK:フォークの音色
DAMPER:ダンパー(消音機)に関する部分
PICKUP:ピックアップによる音の変化20080201-01-011◀画面⑩ Electric。ただのエレピ音源というよりも金属棒シミュレート音源と考えると、いろいろ面白いかもしれない。“キラキラ〜”みたいな音色も簡単に作れてしまう画面を見るとピックアップ部に“R”“W”というボタンがある。これらは文字通りRHODESとWURLITZERのピックアップ・モデリングで、基本的のこれらの2種類のエレピの音が作れるようになっているが、MALLETやFORKをいじることで、さらに奇抜なサウンドも作成可能だ。

さらに高品質/大容量の
サンプル・ライブラリーが付属


次に、Ableton Suiteボックス・バージョンに付属するサンプル・ライブラリーを紹介しよう。Essential Instrument Collection 2
SONIVOX/CHOCOLATE AUDIOとの提携により作成されたライブラリー。Essential(必要な、基本的な)の名前通り一般的によく使われる楽器の音が網羅されており、フルインストールで15GB程度の容量になる。最近はこうした大容量サンプル・ライブラリーが多く発売されているので、品ぞろえの豊富さという点に関しての目新しさはないが、いろいろとロードしてみると非常に使いやすい音色が多いのに好感が持てた。またLive 7ではこのようなサンプルを多数使ってもCPUに負担をかけないよう、“SmartPriming”というサンプル再生技術を採用している。Session Drums
これもCHOCOLATE AUDIOとのコラボレーションによって開発されたアコースティック・ドラム系のサンプル・ライブラリーだ。Drum Rack用のファイルとして提供され、すぐに生っぽいドラムを打ち込んでみたい!という用途には最適。フルインストール後の総サイズは28GBほどになる。もちろん、自分が必要だと思う音色だけをインストールすることも可能だ。内容は“Stereo Kits”“Multimic Kits”に分類されている。Stereo Kitsはエフェクト処理の後ステレオ化され使いやすい状態で提供されているドラム・キット。一方のMultimic Kitsはオーバーヘッドやアンビエンスなども同時収録された、まさに“今マイクから入ってきました”という感じの何も手を加えられていないリアルなドラム音だ。個人的な好みでいうと、Stereo Kitsが素晴らしかった。スタジオで生ドラムを録る際に“こんな感じで録れたら良いなあ”という程よい作り込み感で各キットが収録されており、これなら“さあ、ドラム打ち込もう!”という際もノリノリでできるし、その後でいろいろな加工をしたいときも、サンプル自体のエフェクト処理が邪魔にならずに済むと思う。上記以外にもDrum Machineという往年のリズム・マシンのサウンドを収録したライブラリーが付属。さらに今後オーケストラ系のライブラリーが追加発売される予定とのことだ。というわけで4ページにわたってLive 7の新機能および付属インストゥルメントを紹介してきた。冒頭でも書いたが最近のDAW関連は価格破壊がすごい。その中でAbleton Suiteは比較的割高と言えるかもしれない(Live 7単体:オープン・プライス/市場予想価格64,800円前後)。しかし、これで僕が困ることと言えば、“友人に買わせにくくなるなあ”という程度(笑)。それよりもLive 7の使いやすさ、充実したソフト音源/ライブラリーを考えれば、十分に納得できる値段と言えるだろう。まあ価値観は人それぞれだから異論も多々あるだろう。でもLiveユーザーの多くは、僕の“使いやすい方が好き”という意見に賛成してくれると思う。そんなモンですかね?と感じた人は、ぜひwww.ableton.comからデモ版をダウンロードして試してみてほしい。Liveの良さは、とにかく体験してみないと分からないんだから。
ABLETON
Ableton Suite
オープン・プライス(市場予想価格/99,800円前後)

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows XPまたはWindows Vista(32ビット・バージョンを強く推奨)、1.5GHz以上のプロセッサー、512MB以上の実装RAM(1GB以上を強く推奨)、Windows互換のサウンド・カード(ASIOドライバー対応機種を強く推奨)、APPLE QuickTime 6.5以降、DVD-ROMドライブ、インターネット接続環境
▪Mac/Mac OS X 10.3.9以降(10.4以降を推奨)、G4以上のプロセッサー(INTEL製プロセッサーを推奨)、512MB以上の実装RAM(1GB以上を強く推奨)、APPLE QuickTime 6.5以降、DVD-ROMドライブ、インターネット接続環境