モバイルに対応するExpressCard仕様のDSPプラグイン・システム

UNIVERSAL AUDIOUAD-Xpander Xtreme

UAD-Xpanderシリーズは、2.5Gbpsの転送速度を誇るExpressCardを採用したWindows/Mac対応のDSPプラグイン・システム。ExpressCardから専用Linkケーブルで接続するボックスに搭載されたDSPを使用することにより、コンピューター本体のCPUだけでは実現できないプロセッシング・パワーを、ラップトップの可搬性を生かしたシチュエーションで発揮できる、非常に可能性を秘めたイクイップメントだ。

付属プラグインにより
3種類がラインナップ


本システムを使用するシチュエーションとしては下記が考えられるだろう。
①コンパクトなラップトップ・コンピューターとオーディオ・インターフェース、そして本機、あとはヘッドフォンか小型スピーカーのみのモバイル・ミックス・システム。
②ラップトップを中心に据えたライブ・システム。もちろんモバイルといっても、今やラップトップでもDual Coreの時代故、普段の作業場のメイン・システムがラップトップという人も増えている(もはや多数派?)。しかし、従来のUADシリーズはPCIやPCI Express仕様であったため、興味はあれども物理的に試せなかったという人たちも、ExpressCard対応のラップトップさえあれば、ためらうことなく試すことが可能になったわけだ。なお、本シリーズは付属プラグイン数により3種類がラインナップ。今回試用したのは20種以上もプラグインが付属した最上位版だ。ほかに5種の付属プラグインと別売プラグインを購入できる1,000ドル分のクーポンが付属したUAD-Xpander Xpert(239,400円)と、5種のプラグインおよび500ドルのクーポンが付属したUAD-Xpander Xpress(176,400円)が用意されている。

実機に迫るひずみ感を再現した
Neve 1073 EQが好印象


では、本機付属およびオプションのプラグインをレビューしていこう。なおチェック環境は、APPLE MacBook Pro 2GHz(1GB RAM、Mac OS X 10.4.11)+APPLE Logic Pro 8だ。■LA-2A
ソースを選ばずに自然なコンプレッションとサチュレーションを得られる名機として知られている同社のアウトボード、LA-2Aを再現。アタック/リリースのパラメーターは無く、非常にシンプルなコンプ/リミッターだ。それでいて本プラグインも実機と同じく非常に使い勝手が良い。特にリリース・タイムが周到に計算されていて粘りつく感じがよく出ている。入力過多にしたときのひずみはデジタル処理とは思えないほど秀逸。■Neve 33609
有名コンプ/リミッターの再現。比較的おとなしめだが、コンプレッションのタイム感や、レシオを切り替えたときの感じはかなり丁寧にシミュレーションされている。トラック全体に薄くかけてなじませる用途や、かなり突っ込んでリダクション過多気味にしても品がある。DSP負荷は66%と重いが、再現性はかなり気合が入っている。■Neve 1073 EQ(画面①)今回使ったEQの中では、これが断トツに気に入った。メンテされていない実機を使うくらいなら確実にこちらの方が良い。Qの感じが若干、癖が強すぎるかとも思ったが、これくらいの方がサウンドに存在感があって好み。ゲイン部をオーバーロード気味にしたときのひずみ加減もかなりオリジナルに迫っていて、手元にあったら登板回数ではナンバーワンになりそう。20080201-02-002▲画面① NEVE 1073を再現したNeve 1073 EQ。ひずませたときの雰囲気はオリジナルに迫るものがある■Pultec EQP-1A
これは名機PULTEC EQP-1Aのシミュレート。他社の同系プラグインよりも、ブーストの効きが強めで分かりやすい印象。徐々に帯域をブーストしていくと、若干のひずみを伴って倍音成分が増幅されていくところが気持ち良い。■Pultec-Pro(画面②)
Pultec EQP-1Aに、Pultec MEQ-5をシリアル接続した状態を再現。両者の中心周波数はほとんど重ならないので、幅広い調整が可能だ。音はPultec EQP-1Aと同傾向。20080201-02-003▶画面② Pultec-Pro。上がPULTEC MEQ-5、下が同社のEQP-1Aをシミュレートしている。両者を合わせて幅広い帯域をイコライジング可能■Neve 88RS(画面③)
ゲート/エキスパンダー、コンプ/リミッター、EQ、フィルターからなるチャンネル・ストリップで、今回紹介する中で唯一の別売製品だ。往年のNEVEサウンドとは違い、AMS NEVE製品の再現となる。実機に比べると比較的EQの効きが上品だが、こういうかかり具合の方が使いやすいことも多いだろう。コンプ部がかなり優秀で、リリース・タイムを比較的適当に設定しても、色気のあるニュアンスを出せ、ロック・ドラムやベース、ブレイクビーツなどに似合いそうだ。ゲートのかかりも特に切れ際が気持ち良い。20080201-02-004◀画面③ AMS NEVEのコンソール88RSのチャンネル・ストリップをシミュレートしたプラグイン。ゲート、リミッター/コンプ、EQ、フィルターなどが用意されている■Neve 88RS(画面③)
ゲート/エキスパンダー、コンプ/リミッター、EQ、フィルターからなるチャンネル・ストリップで、今回紹介する中で唯一の別売製品だ。往年のNEVEサウンドとは違い、AMS NEVE製品の再現となる。実機に比べると比較的EQの効きが上品だが、こういうかかり具合の方が使いやすいことも多いだろう。コンプ部がかなり優秀で、リリース・タイムを比較的適当に設定しても、色気のあるニュアンスを出せ、ロック・ドラムやベース、ブレイクビーツなどに似合いそうだ。ゲートのかかりも特に切れ際が気持ち良い。■Precision Multiband(画面④)
5バンドのマルチバンド・コンプ。第一印象は、メーターの動きが聴いている音と感覚的に非常にフィットしていて、とても見やすいユーザー・インターフェースだということ。グラフ部分をドラッグして各バンドのクロス・ポイントとレベルを操作するのだが、そのグラフ部分がメーターも兼ねており、とても直観的で分かりやすい。指と音が一体化し望んだ音にもっていきやすい。これはかなり重要(特にプラグインの場合)で、実機のEQなどは往々にして指の感触によるフィードバックがあるお陰で、感覚と操作がほぼリンクするのだが、マウスなどの場合はそれが無い分、感覚と操作がどうしてもずれてしまう(ATMの画面のボタンが押しづらいのも同じ理由)。結果として望む音を作りづらいインターフェースが多い。しかし、本プラグインはそこがよく考えられていて好感が持てる。肝心の音は設定の幅が比較的広く、全体のトリートメントからアグレッシブな音作りまで対応できるオールマイティな印象。20080201-02-005▲画面④ マルチバンド・コンプのPrecision Multiband。中央のグラフ部がリダクション・メーターも兼ねており操作感と音の変化が感覚的につかみやすく、直感的な操作が可能だ

“ボタン全押し”も再現された
Roland Dimension D


■Plate 140
プレート・リバーブの名機EMT 140を再現。かなり音色の異なる3種類のプレートの中から一つをセレクトして、リバーブ・タイムを決めるのが音作りの基本となる。各プレートはかなりキャラが違うので、選択に迷わなくてすむのが好印象。プレートの明るく抜けが良い金属感のある音が基本となっているのだが、空気感や奥行感もあるので、使い勝手が良さそうだ。■Roland RE-201
“SPACE ECHO”の名で知られるROLANDのテープ・エコーRE-201をシミュレート。テープ・エコーならではの飽和感や丸み、INTENSITY(フィードバック)を上げていったときのひずみ感などはほぼ記憶通り。ECHO(ディレイというよりはやはりエコーが似合う)のモードも11種類から選べ、REPEAT RATE(ディレイ・タイム)をリアルタイムに変えたときのピッチ変化も忠実に再現している。あともう少し太い音であれば言うことは無かったが、そこを差し引いても高得点なサウンドであることは間違いない。■Boss CE-1(画面⑤)
昔、ギタリストの足元やキーボーディストの鍵盤の横でよく見かけたコーラス、BOSS CE-1の再現。パネルの質感もよくできていて、ビブラートとコーラスの切り替えも可能。この時代のBOSSやROLANDのモジュレーション系は素晴しいの一言だが、本プラグインでは音の丸くなり方や、うねったときのカーブなどもよく再現されている。負荷も低く使いやすい。20080201-02-006◀画面⑤ 往年の名コーラスをプラグインとして見事によみがえらせたBoss CE-1。DSP負荷が低めな点もうれしいところ■Roland Dimension D(画面⑥)
ROLAND SDD-320を再現したプラグイン。最近は実機をスタジオで見かけることもめっきり少なくなった(寂しい限り)多相コーラスだ。パラメーターはOFFも入れてボタンが6個しか無い(それが良い!!)のだが、シンセ・ストリングスやパッドなどには欠かせない。1980年代のシンセの音は、SDD-320とセットだったといっても過言ではないほど存在感のある音で、本プラグインはその効果を完全にシミュレート。単相コーラスでは得られないこの効果は、今でこそマルチエフェクターやDAWにも当り前に装備されているが、この深みはほかでは出せない。実機では“ボタン全押し”という荒技が有名なのだが、それもまんま再現している。欲しいです、ください、これ(笑)。20080201-02-007▲画面⑥ こちらも往年の多相コーラス(いわゆるアンサンブル・エフェクト)をシミュレートしたRoland Dimension D。深みのある効果で、オリジナルと同じく4個のボタンをすべてオンにする全押しの効果もしっかり再現されている■Nigel Plug-In Suite
ギター用エフェクトを一体化したもので、ゲート/コンプ/LFO/EQ/アンプ・シミュレーター/ディレイ/エコー/トレモロを用意。オールマイティでは無いが、どことなくUKの香り漂う音が個人的には好み。ナチュラルにひずませるよりも、クランチ系が得意な印象だ。揺らし系のレートはテンポにシンクするので使いやすい。字数が限られているので、全プラグインは紹介できなかったが、いずれも“音楽的”に各プラグインがデザインされているという印象を受けた。特に有名機のシミュレートではそれが顕著。僕自身は機動性を生かしたいが故に、“ラップトップでこそネイティブ派”なのだが、それを曲げてでも欲しいと思わせられたプラグインが多々あった。CPUパワーが増強するにつれ、ソフトもまたその能力をすべて使い切るような製品が登場するというイタチごっこが繰り返されているが、その点、UADシリーズはアナログ信号処理の忠実なシミュレートをDSPで実現している。これは音楽的にも、作業的な取り回しの面でもとても歓迎できることだと思わされたのが正直なところだ。
UNIVERSAL AUDIO
UAD-Xpander Xtreme
365,400円

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows Vista、VST/RTASをサポートするホスト・アプリケーション(動作環境は各ホスト・アプリケーションに依存、RTASは専用のVST-RTAS Adapterを使用)、ExpressCard/34またはExpressCard/54の空きスロット、CD-ROMドライブおよびインターネット環境(ソフトのインストール/オーソライズに必要)、1,024×768以上のディスプレイ解像度
▪Mac/Mac OS X 10.4以降、VST/RTAS/Audio Unitsをサポートするホスト・アプリケーション(動作環境は各ホスト・アプリケーションに依存、RTASは専用のVST-RTAS Adapterを使用)、ExpressCard/34またはExpressCard/54の空きスロット、CD-ROMドライブおよびインターネット環境(ソフトのインストール/オーソライズに必要)、1,024×768以上のディスプレイ解像度