シンプルな操作で録音からCD制作まで完結のハード・ディスクMTR

TASCAMDP-02

世界初のカセットMTRを発売したという歴史と実績をもつ老舗音響機器ブランドTASCAM。その技術は同社のDigital Portastudioシリーズとして受け継がれ、現在もその歩みを止めることなく進化を続けています。今回レビューさせていただくTASCAM DP-02は、そのシリーズの最新機種にあたり、スピーディな操作性と高音質を実現したオールインワン・タイプのハード・ディスクMTRです。意外にも原点回帰とも取れるようなとことんシンプルさにこだわった仕様が特徴です。一見するとそれこそカセットMTRと見間違えそうな風ぼう。それはどこか懐かしい感じもあり、かえって新鮮でもあります。では早速DP-02の持つ魅力をレポートしていきましょう。

小柄でスタイリッシュなデザイン
“マニュアル要らず”と思わせるレイアウト


ミキサー一体型のハード・ディスク・レコーダーと言えば、個人的に重く少々かさばるイメージがあるのですが、このDP-02はフラットなボディの薄さも手伝ってか、予想をはるかに上回るコンパクトさ。アナログとデジタルそれぞれが持つメリットを上手に組み合わせ、洗練された必要最小限のパーツによって作り上げた、といった印象です。無駄な飾り気もなく、“シンプルかつ気軽にレコーディング”との開発コンセプトもなるほどうなずけます。重量も4.5kgと可搬性に優れており、スタジオやライブ・ハウスなどへの持ち運びも積極的に行えるでしょう。また、目を引くフェーダー、EQなどのツマミが持つ存在感はハードウェアならではの魅力ですね。ダークな色調ですっきりまとめられ、スタイリッシュと同時にクラシックな印象すら受けるトップ・パネルは、マニュアル要らずと思えるほど実に分かりやすいレイアウトが施されています。このイージー・オペレーションに徹底した仕様は、多重録音初心者だけではなく、レコーディングの現場にフィーリングを求めるユーザーにとっても、非常にありがたいことです。

24ビット/44.1kHzの高音質録音
音楽製作に必要なすべてを1台に集約


では、本機の主な特徴を見ていきましょう。まずレコーダーのビット数は24、サンプリング周波数は44.1kHzで、2トラックの同時録音と8トラックの同時再生に対応します。記録メディアとして内蔵されたハード・ディスクは40GBとこのサイズのレコーダーでは十分過ぎる容量。出音の要となるAD/DAコンバーターには、ハイエンド・オーディオなどでも高い評価を得るAKM製を採用し、内部処理を32ビットで行うことでプロ機器にも迫る高音質録音を実現しているとのこと。リア・パネルにはラインからマイクまで対応する2系統のアナログ入力INPUT A/B(フォーン、XLR)を装備。XLR端子はコンデンサー・マイクに+48Vファンタム電源も供給できます。またINPUT Aのフォーン端子はスイッチで切り替えることによりギター/ベースの直接接続にも対応。そのほかステレオのライン出力(フォーン)、センド(フォーン)、リターン×2(フォーン)、ステレオ・ミックス入力などのアナログ入出力に加え、デジタル出力端子(S/P DIFオプティカル)、外部MIDIシーケンサーやリズム・マシンなどと同期するためのMIDI OUTなども用意。外部機器との連携も考えられた仕様です。トップ・パネル上には8チャンネル分のフェーダー/パン/エフェクト・センド/EQのツマミがそれぞれ独立して装備されているため(写真①)アナログ・ミキサーのようなハードウェアならではの直感的な操作が可能です。DAWソフトでのマウス操作時では味わえないこれらの操作感に引かれるユーザーも多いのではないでしょうか。また、トラック編集機能も充実しています。録音素材のコピーやカットなどの機能は言うまでもなく、トラック複製、指定した区間で自動的に録音を行なうオート・パンチ・イン/アウトなど、音楽制作過程で求められるスタンダードな項目は完備と言えるでしょう。これらの編集作業は非破壊で行われるため、アンドゥによって簡単にやり直せます。さらに、レコーディング時にはインサート・エフェクトとして使えるマルチエフェクトを備えるほか、ミックス・ダウン用のリバーブ・エフェクトをも搭載しています。20080201-03-002◀写真① ミキサー部。上からEQ HIGH、EQ LOW、EFFECT SEND、PAN、RECボタン、フェーダーを独立装備そのほかスロットイン・タイプのCD-RWドライブを標準搭載し、レコーディングからCDの作成に必要な作業は本機一台で完結することが可能です。リア・パネルにはDAWソフトなどとの連携作業にも対応すべく、高速なファイル転送が可能なUSB 2.0端子も装備されています。パソコンと接続して個々のトラック・データの送受信を行えるので、ファイルの共有や、インポート/エクスポートも当然可能となっています。

マイクの特性を素直に再現するサウンド
用途に合わせて使えるエフェクトも魅力


それでは、本機の持つ実力を知るべく実践といきましょう。まず、スタジオにてダイナミック・マイク、SHURE SM58を接続してのボーカル・チェックです。XLR端子にケーブルを挿してトラック1にアサインするだけで録音準備は完了。この上ないシンプルさです。録音されたサウンドはとても自然、かつ広いレンジで曇りなく再生されており、かなりの好感を持ちました。SM58の持つ特性がそのまま押し出される印象です。次にエレキギターを試してみました。これはINPUT Aのフォーン端子にケーブルを挿して、リア・パネルのスイッチを“GUITAR”にし、あとは好きなトラックにアサインするだけです。チューナーが内蔵されているのも便利。あとは出音を確認しつつ内蔵のマルチエフェクトをランダムに呼び出すだけでも、DP-02が持つ潜在能力を実感できると思います。その内蔵マルチエフェクトを詳しく見ていきましょう。録音する楽器のタイプに合わせたさまざまなエフェクトがあらかじめ豊富にプリセットされています。DATAダイアルを回すことにより、ディスプレイ上にプリセットが“エレキギター→アコースティック・ギター→ベース→ボーカル→ドラムス”の順でスクロールされるので、目的のエフェクトを効率的に見つけることが可能。プリセットされたエフェクトのパラメーターは、各エフェクトにつき設定は1つのみと制約があるものの、いずれも即戦力となりうる印象を持ちました。実際にリズム・マシン音源でエフェクトのかけ録りを試したところ、プリセットをスクロールするごとにフレーズの表情はがらりと変わり、その面白さに時がたつのを忘れて作業に没頭してしまいました。さらに、ミックス・ダウン用として“Hall”“Room”“Live”“Studio”と、さまざまな空間の響きをシミュレートした4タイプのリバーブを内蔵しています(センド/リターン端子を介し、外部エフェクトの接続も可能)。残響時間は0.1〜5.0sの範囲で設定でき、楽曲に自然な奥行きと広がりを演出することが可能です。音色もきめ細やかでつややか、これはなかなか侮れません。こうした配慮の行き届いた設計は、レコーダー/MTRを知り尽くしたTASCAMならではといったところでしょうか。そのほかミックス・ダウンでは本機に搭載されたEQで、イメージに合わせた音色を作り込むこともできます。トップ・パネル上のEQツマミはHIGHとLOWのみなのですが、CURSORキーとDATAダイアルにより周波数を変更することができるため(HIGH1.7〜18kHz、LOW32Hz〜1.6kHzが変更範囲)、さらなるきめ細やかな調整が可能です。EQの効き具合はとても良く、音楽的な印象を受けました。これらの工程は非常に直感的に行えるため、初心者でもデモ制作時のミックス・ダウンなど迷うことなく作業が進むと思います。こうした機能を駆使して仕上げられた楽曲は標準装備のCD-RWドライブにより、本機内でステレオ・マスター・トラックを制作し、CDとして完成できるのです。また、CD-RWドライブはソング・データのバックアップ/リストア、WAVファイルのインポートなどが可能となっています。DP-02の特徴の一つでもある最大2トラックの同時録音/8トラックの同時再生というのはスペック上もの足りないようにも思えますが、ここが本機のポイント。この仕様こそが徹底的なまでに使いやすさを追求した結果であり、楽曲制作に専念できる環境をユーザーに提供する、といった結果につながっているわけです。事実、僕の経験上、プリプロの段階で録音された素材がそのまま本番テイクとして生かされ、DAWにインポートされることは少なくありません。総評としてDP-02は、“使えるレコーダー”として十分に評価できるものです。“もっとシンプルに、もっと気軽にレコーディング”とのコンセプトを裏切らない音質と操作性。現在のDAW全盛期においても、単体のハード・ディスクMTRが持つ人気は衰えることはなく、単体での使用以外にもパソコンとの連携などによりDAWとの共存をも成功させています。プロフェッショナルなスタジオとホーム・レコーディングのボーダレス化が著しい昨今、機材を選ぶことにも明確な目的が必要でしょう。“手軽でプロ・レベルのレコーディング”を求めるのであれば、プロ/アマを問わずお薦めできる一台です。20080201-03-003

▲リア・パネル。左からUSB 2.0端子、DC IN、デジタル出力(S/P DIFオプティカル)、MIDI OUT、ライン出力×2(RCAピン)、ステレオ・ミックス入力(ステレオ・ミニ)、センド(フォーン)、リターンかける×2(フォーン)、INPUT A(XLR、フォーン)、GUITAR切り替えスイッチ、INPUT B(XLR、フォーン)

TASCAM
DP-02
オープン・プライス(市場予想価格/60,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪同時録音トラック数/2
▪同時再生トラック数/8
▪周波数特性/20Hz〜20kHz
▪録音ビット&サンプリング周波数/24ビット&44.1kHz
▪内部処理/32ビット
▪内蔵ハード・ディスク/40GB
▪外形寸法/419(W)×65(H)×300(D)mm
▪重量/4.5kg