多彩なオブジェクトが用意されたマルチタッチ方式のコントローラー

JAZZMUTANTLemur

ここ最近、さまざまなMIDIコントローラーが発売されていますね。私もKORG Zero8やMONOME 40Hなどを使用していますが、今回試したコントローラーJAZZMUTANT Lemurは、通常のコントローラーをはるかに飛び越して、さまざまなことを可能にする、恐るべき製品であります。以前、私が本誌に連載していた"魁Reaktor道場"、2006年1月号〜2月号の2カ月にわたって、このLemurに関する記事を執筆しているのでそちらもぜひ。

計15種のオブジェクトを組み合わせて
オリジナル・コントローラーを作成


LemurはフランスのJAZZMUTANTが開発した12インチLCDディスプレイを搭載のタッチ・パネル式コントローラーです。同社が特許を持つ独自の技術、マルチタッチ・テクノロジーにより、従来のタッチ・スクリーンやタブレットでは1つのポイントしかコントロールできないのに対して、本機では複数の指で、複数のポイントを同時にコントロールすることができるのであります。ユーザーは画面上に表示されたフェーダーやノブ、XYインターフェースを、複数の指でコントロールすることで、本機に接続されたコンピューター上のソフトをハンドルします。そして、ユーザーは、付属のソフトJazzEditorで、美しいグラフィックによるさまざまな種類のオブジェクトを組み合わせることにより、ユーザー自身のオリジナルのコントローラーを制作することが可能です。さて、画面①はオブジェクト一覧であります。▲画面① Lemurのオブジェクトの一覧。フェーダーやノブのほか、マルチボール、スイッチなどを用意フェーダーやノブ、パッドのような一般的なものから、ボールのように弾んだりするマルチボール(10個まで作成可能)(写真①)、ADSRの作成に便利なマルチスライダー(こちらは64個まで)、シグナル・スコープ、テキストなどまで計15種類のオブジェクトを組み合わせて、好きなようにデザインできるというわけであります。単純にフェーダーを並べてミキサーとして使ったり、マルチボールでオシレーターの周波数とボリュームをコントロールしたり、使い方は無限大です。そして、なんと!Lemurはスクリプトによるオブジェクトのコントロールも可能なのです。そちらもJazzEditorから書き込んでくださいませ。▲写真① "マルチボール"を利用したインターフェース。写真では同時に2個のボールをコントロール さて、LemurとコンピューターはLANケーブルで接続します。Lemurは、データの転送にMIDIではなくOSC(Open Sound Control)というプロトコルを採用しています。このOSCは、コンピューター・ネットワークを利用して、複数のコンピューターやシンセサイザー、マルチメディア・デバイス間でのコミュニケーションを目的とした、コンピューター音楽のための通信プロトコルです。随分と前に開発されたMIDIは、通信速度やチャンネル数などに制限がありましたが、OSCでは転送速度の高速化や32ビット浮動小数の数値を送受信できたりと、さまざまな点が改善されています。昨今ではこのOSCに対応しているソフトウェアも増えております。例えば、NATIVE INSTRUMENTS Reaktor、CYCLING '74 Max/MSP、さらに映像系ではCYCLING '74 Jitter、MACROMEDIA Flash......といったところです。おっと、もちろんLemurは付属ソフトのJazzDaemonでOSCをMIDIに変換することもできるので安心です。

インストールとセットアップは簡単
バージョン・アップで動作も安定


では、まずLemurを稼働するべく付属のソフトなどをインストールします。インストーラーを起動してインストールが完了すると、Lemurのインターフェースを制作したり、OSCなどをハンドルするためのJazzEditorと、LemurとMIDIポート間のデータの流れをハンドルするためのJazzDaemonがインストールされます。次にLemurとコンピューターを、付属のLANケーブルで直接接続します。もちろんハブを介しても接続できます。その場合はネットワーク内の複数のコンピューターなどに同時にアクセスすることが可能になります。さらに恐ろしいことに、ワイアレスでアクセスすることも可能です(筆者実験済み、2006年1月号"魁Reaktor道場"参照)。次に、コンピューター側のFirewallの設定をオフにしておく必要があります。オンにしておくとLemurとコンピューター間の通信を邪魔します。そして、Lemur側のセッティング画面、TCP/IP SetupでAutomatic using DHCPにチェックを入れるとIP Addressを自動で取得します。Lemur側はこんな感じであります。次に、コンピューター側でJazzEditorを起動して必要なインターフェースを制作するか、ロードします。今回はLemurのインストールCDに付属していたExampleフォルダーの中からMax/MSP用のインターフェースをロードしました。そして、JazzEditorのLemur Connectionボタンを押すと、ロードしたインターフェースがLemurに転送されます。そうすると、今までLemurのイメージ・キャラクターのキツネザルが表示されていた画面がなんと!ロードしたインターフェースに早変わりしてしまいました。さらにLemur Synchroボタンを押せばバッチリ! Lemur側で動かしたコントローラーがJazzEditor側でもシンクロして動きます。昨年、使用したときは何だか接続がスムーズではなかった気がしましたが、非常に簡単にあっけなく接続できました。バージョン・アップして洗練され、動作も安定した感じです。

DPSの基本仕様を受け継ぎ
新たにインピーダンス調整など搭載


セットアップは簡単に完了してしまったので、次に、いろいろとソフトを動かしてみようと思います。その前にOSCの設定が必要ですね。Lemurのセッティング画面、OSC Targetsで8つまでコントロールするソフトやデバイスを設定できます。今回はExampleフォルダーにあるReaktorとMax/MSPのアンサンブル/パッチと、それに対応するLemurのインターフェース(画面②)を立ち上げようと思うので、Targetの0番にReaktor、1番にMax/MSPを設定します。▲画面② ReaktorとMax/MSPのアンサンブル/パッチのインターフェースをJazzEditorで表示ちなみにJazzEditorとJazzDaemonがポートの8,001番と8,002番を使用しているので使用不可とのこと。そこで、Reaktorは10,000番以上のポート・ナンバーを設定する必要があるということです。というわけで、Reaktorのポート・ナンバーを10,000番、Max/MSPを8000番に設定しました。Reaktorを立ち上げて、OSC Setupより OSC Activateにチェックを入れます。そうすると、IPとポート番号自動認識します。これで、Lemurを触ってみると無事コントロールできますね。同時にMax/MSPも立ち上げます。こちらも簡単。Max/MSPのパッチ上でポート・ナンバーを先ほど設定した8,000番に設定すればオーケーであります。なんと!無事に同時に動いていますね(写真③)。▲写真③ JazzEditorで作成したインターフェースをLemurで表示したところ Lemurは右上にある4つのボタンで、現在使用できるインターフェースを一覧表示したり、それを切り替えたりといったことが、非常に素早くできます。今回は1ページ目のインターフェースでMax/MSPを、また2/3ページ目でReaktorをコントロールしてみました。このようにLemurは複数のプラグインをコントロールしたり、同時に幾つかのソフトやコンピューターに接続されたシンセなどを、複数の異なるコントローラーで混乱することなくハンドルできます。恐るべし!!次に、JazzDaemonを介してOSCに対応していないソフト・シンセ、KORG MonoPolyをトリガーしてみました。この際、Mac OS X環境はIAC Busが搭載されているので特に問題ありませんが、Windows XP環境の方はMIDI YorkやLoopBe1といったバーチャルMIDIポートを使用して、変換したデータを送信する必要があります。それさえあれば、Lemurのセッティング画面、MIDI Targetsで簡単に接続可能です。ここで使ったLemurのキーボード風インターフェース(写真④)、コードも弾けるので使えそうでした。▲写真④ ソフト・シンセをコントロールするためのキーボード風インターフェース さらにほかのソフトを試してみましょう。Lemurは、それ自身がインターナル・クロックを有しているので、シーケンサーなども制作することが可能です。写真⑤はLemur自身のインターナル・クロックを利用した簡単なステップ・シーケンサーです。これは、ステップ・シーケンサーからノート情報を出力し、NATIVE INSTRUMENTS Battery 3上のサンプルをトリガーしています。かなりタイトなタイミングなので、ライブなどでも使えそうです。▲写真⑤ Lemurはインターナル・クロックを内蔵しているのでシーケンサーとしても利用可能 昨年もこのLemurを使わせてもらいましたが。今回のバージョンはかなり使いやすく、設定も簡単、JazzEditorもかなり進化していました。相変わらずすごいコントローラーですね。欲しいな〜。 
JAZZMUTANT
Lemur
472,500円

SPECIFICATIONS

▪外形寸法/368(W)×294.6(D)×30(H)mm
▪重量/2.5kg

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows XP/Vista、INTEL Pentium 3 800MHz以上のCPU
▪Mac/Mac OS X 10.4以降、PowerPC G3以上