英国の名門PMCとの共同開発によるDSP内蔵アクティブ・モニター

DIGIDESIGNRM1/ RM2

近年、自宅からスタジオまで幅広い用途に対応するアクティブ・スピーカーが各メーカーから次々と発表され、導入を前提にチェックしている方もいると思います。そんなチェック・リストに入り込むかもしれないアクティブ・スピーカーがDIGIDESIGNから新たなプロダクトとして発売されました。11月に行われたInter BEE 2007での注目度も考えた絶好のタイミングですが、いち早くチェックしたいと思います。

PMC独自の半密閉構造を採用しながら
バスレフを再現する機能も装備


今回チェックするRM1/RM2は、世界のレコーディングやマスタリングで活躍し、先にスピーカー販売実績のある“THE PROFESSIONAL MONITOR COMPANY”=PMCとの共同開発によって誕生した半密閉型のアクティブ・スピーカーです。RM2の方が一回り大きく、ツィーターはどちらも27mm(1インチ)ファブリック・ドームですが、LFドライバーがRM1が140mm(5.5インチ)に対しRM2が170mm(6.7インチ)と、レコーディング・スタジオ・ユースではRM2がメインとなりそうです。両機の注目すべき特徴は、アナログおよびデジタル入力(最高24ビット/96kHz対応)、PMCのAdvanced Transmission Line(ATL)テクノロジーの採用、さまざまな要素をマネージメントする48ビット固定小数点DSPエンジン、これを利用したBASS PORT EMULATIONモードを搭載していることなどが挙げられます。外見はPMCのパッシブ・モニター、TB1/TB2と似ていますが、パッと見た感じでの違いはTB1/TB2では後方にあったポートが、RM1/RM2では前面に来ていること。ちょうどDIGIDESIGNのロゴが入ったグリルの内側にあるポートがふさがれていて、これによりポートからの風を拡散する作りになっています。このポートに至るまでのキャビネット内部の形状こそがPMC独自のATLと呼ばれる技術で、同じサイズのキャビネットでも1オクターブ広い低域再生を得られるというもの。エンクロジャーの中を通る間に、余分な定在波を吸収したり、板材による共鳴を抑えることによって低周波数のにごりを軽減させ、音像を鮮明に再生するというものです。そのほか前面にはツィーターの左に高級感を感じさせる青色のLEDがついています。オーバー・ロード時は赤色に変わるため、過大入力でのトラブルを事前に回避することできるでしょう。続いて背面部を見てみましょう(写真①)。RM1/RM2で共通していて、アナログ・インプット端子(XLRメス/2番ホット)にだけでなくAES/EBUデジタル入力もあります。これに関連して、デジタル入力の再生チャンネル(L/R)を選択するCHANNEL ASSIGNスイッチと、もう1台のスピーカーへAES/EBU信号をスルー・アウトし、もう片方のスピーカーに信号を送るためのRJ-45端子も用意されています。20080101-04-002▲写真① RM1のリア・パネル。中央のウォール・ブラケット用のアンカーの下に、BASS PORT EMULATIONスイッチ、HF/LF調整、デジタル入力時のCHANNEL ASSIGNスイッチ、GAIN TRIMが並ぶ。その下は左からデジタル入力のスルーとインプット(RJ-45)、デジタル入力(AES/EBU)、アナログ入力(XLR)の各入出力端子。RM2も操作子/端子は共通で、LF調整の周波数ポイントのみ異なる 入力レベルは+4〜+19dBu。つまりGAIN TRIMは0〜−15dBに1dBステップでの設定が可能です。HF調整は−4〜+3dBで0.5dB単位と細かく設定でき、1kHzを起点にハイエンドまで上げ下げできます。LF調整も可変値はHF調整と同様0.5dB単位で、RM1では750Hz、RM2は500Hzを起点にローエンドまで上げ下げが可能になっています。そのほか、BASS PORT EMULATIONモードの切り替えスイッチがついています。これはバスレフ式スピーカーのようなローエンドの色付けをエミュレートできるというもの。わざわざバスレフ・スピーカーを用意しなくてもRMシリーズをバスレフの特性で聴けるので、1台で2台分のコスト・パフォーマンスがあるかもしれませんね。これらEQ設定やGAIN TRIM、BASS PORT EMULATION、さらにLF/HFの各アンプへ信号を振り分ける周波数クロスオーバーなどはDSPで処理されるようになっています。アナログ入力された信号はADコンバーターで96kHzに変換された後、DSPへと送り込まれます。デジタル領域でコントロールされた後、DAコンバーターでアナログに戻され、アンプで増幅。各ユニットへ送られるという流れです。DSPで処理するメリットは、例えばシグナルをHFとLFにディバイドしたときに起こる位相差を解消できたり、フレキシブルかつ左右の整合性に富んだ調整をユーザー側で行える、といったことが考えられますね。また、アンプはクラスD、つまりデジタル・アンプです。バイアンプ仕様になっていて、RM1では80W(LF)+50W(HF)、RM2では100W(LF)+50W(HF)の出力が得られます。

ディテールまで再現する解像度の高さ
クリアで開放感のある音色


説明はこれくらいにして実際の音を聴いてみることにします。今回はコントロール・ルームにある程度の広さを持つウエストサイドAstで、大きさ的にスタジオ向きなRM2を中心に、女性ボーカル、男性ボーカル、テクノ、ヒップホップ、ロック、ジャズ系などを中心にさまざまなジャンルの音源を試聴することにしました。まずはRM2をアナログ接続で、設定はデフォルトのまま聴いてみます。新しいプロダクトなので、聴くまではどこまでいけるかなぁという失礼な気持ちでしたが、DIGIDESIGNさんごめんなさい、聴いてびっくりしました! ものすごく良いです!!心地の良いナチュラルな聴こえ方で、高域から低域までのレンジのつながりがとてもスムーズ。解像度も良く、定位もはっきりしています。シンバルのリリースやリバーブの残響などのディテールまで奇麗に表現してくれます。スタジオで多用されているYAMAHA NS-10Mでは分かりにくいストリングスの定位感も良好。ウッド・ベースではタッチの粗が見えるくらいです。DSPの恩恵を至るところで受けているのではないでしょうか。クリアで開放感があるため、聴いていても疲れず、ボーカルの歯擦音も痛くは聴こえてきませんし、低音のダンピング感もあります。バランスが良く、どこかの帯域だけがくぐもっていることもありません。強いて言うのであればスネアや女性ボーカルといった中域の辺りが一歩下がった聴こえ方なのかもしれません。スペックを見るとクロスオーバーが3kHzなので、そこにディップがあるためではないでしょうか? しかし、これも何度か聴いているうちに慣れてしまう程度で、把握していれば何の問題もなく仕事に使えるでしょう。次にBASS PORT EMULATIONをオンにして試聴。オフのときと比べるとローエンドまで見えやすくなりますが、オフ時でバランスよく聴こえているので、トゥー・マッチな感じがしてしまいます。確かにバスレフ・タイプのスピーカーで聴いた感じに似ていると感じられましたし、ニューヨークのスタジオでしばしば見られるようなニアフィールド・モニターとサブウーファーを組み合わせたセッティングも意識しているのかもしれません。そう言った点から、ヒップホップなどを聴くとパワー感が出てグルーブが増しますし、余分な帯域は余分なものとして聴こえてきて、音作りにも重宝しそうなモードではないでしょうか。続いてデジタル入力でチェック。アナログ入力時とさほど印象は変わりませんが、アナログ入力に比べ平面的で色が薄まった印象が受けました。各音色が同じようなテイストで聴こえ、すべて同じマイクで録ったような質感。逆に言うとそれだけ搭載しているアナログ入力のADコンバーターがかなり優秀ということにもなります。また、同社のIconシステムのモニター・セクションをつかさどるXMonはアナログ出力のみなので、RMシリーズにデジタル入力した場合のモニター・コントロールはどのようにするのか、疑問が残ります。DAW内部にモニター・コントロール・フェーダーを作成し、インターフェースから直接デジタル入力するのが、ロスが無いのかもしれません。

倍音のコントロールやリバーブ感など
細部にこだわった音作りが可能に


さて、RM1でも同じように聴いてみることにしましょう。こちらは自宅での作業向きといった大きさかもしれません。アナログ入力で聴いてみると、RM2と比べてローエンドが物足りなく、その分ハイハットやシンバル、ボーカルの子音がキラッとする感じに聴こえます。しかし、小さい割にはそれなりの音量で聴けますし、背面でLFをバランスよく上げることもできるので、自分の好みに合ったモニター音に近づけることができるでしょう。特に小さい部屋だと壁に近いために低音の回り込みが起きてしまったり、簡易なスピーカー台のために低音が見えづらかったりすることがよくありますが、そう言ったときにもEQ補正やBASS PORT EMULATIONが重宝するように感じました。デジタル入力も、質感的にはRM2のときと同様。アナログ入力に近い印象ではあるのですが、使い分けることもできそうです。最後に、RM2での音作りにもフォーカスを当ててみます。ドラムの音作りをしてみると、バス・ドラムの量感やドラム全体のキット感が作りやすい反面、もう少し大きな音で聴いて作りたいなと思うと、A/D入力段のマージンが僕が思っていたよりも小さいためか、オーバー・ロード・インジケーターが赤に変わってしまい、多少ストレスを感じてしまいました。ただ、作業では普段よりもコンプのアタック・タイムが早くなり、かけ方が自然に強くなる傾向で、音楽全体がコンパクトに仕上がり、結果的にほかのスピーカーで聴いても満足のドラム・サウンドに。女性ボーカルの処理なども解像度が高いため、倍音の出し具合やリバーブ感なども細部にこだわることができ、トータル・バランスでもレンジの区分けがしやすくミックスできました。リスニング・モニター/音を作るモニターの、両方に長けているスピーカーは少ないので、あっと言う間にRMユーザーが増え、あちこちで見かけるようになるのではないでしょうか。 
DIGIDESIGN
RM1/ RM2
RM1:177,450円(1本)
RM2:248,850円(1本)

SPECIFICATIONS

【RM1】
▪周波数特性/50Hz〜25kHz
▪ピークSPL/111dB(1m)
▪LFユニット/140mmドープ・コーン、鋳造合金筐体
▪HFユニット/液体冷却式27mmファブリック・ドーム
▪外形寸法/155(W)×290(H)×300(D)mm
▪重量/6.4kg
【RM2】
▪周波数特性/40Hz〜25kHz
▪ピークSPL/113dB(1m)
▪LFユニット/170mmドープ・コーン、鋳造合金筐体
▪HFユニット/液体冷却式27mmファブリック・ドーム
▪外形寸法/194(W)×400(H)×370(D)mm
▪重量/9.0kg
【共通】
▪アナログ入力インピーダンス/22kΩ
▪最大入力レベル/20.9dBu
▪SN比/入力:110dB(A-weighted)、パワー・アンプ:125dB
▪全高調波歪率+ノイズ/0.05%
▪パワー・アンプ効率/92%以上
▪パワー・アンプ周波数特性/DC〜50kHz