4GBの大容量メモリーを内蔵した96kHz対応モバイル・レコーダー

SONYPCM-D50

私は普段、スタジオでのナレーション収録やダビングをメインに行っていますが、外部の撮影スタジオなどへ収録に行くこともあります。現在は、肩に提げるタイプのモバイル・レコーダーとマイク、卓上スタンド、ケーブルなどを少し大きめのジュラルミン・ケースに入れて現場に赴いているのですが、これだと重量もありますし、セッティングや撤収にはある程度の時間がかかる、ロケ現場であればバッテリーの心配もしなくてはいけないなど、ちょっと気が重くなることも。そこで、最近流行している5万円以下のコンパクト・レコーダーも気になってはいたのですが、低価格ゆえプロ機独特の威圧感や迫力が感じられないものが多く、いざ購入しようというところまではいきませんでした。そこへ、プロ機と低価格機の間を埋めるPCM-D50が登場! 早速チェックしていきたいと思います。

24ビット/96kHz非圧縮WAVでも
2時間弱の連続録音が可能


まず手に取って各部を見てみることに。大きさは、携帯ゲーム機を一回り大きくした感じで、それほど重くはありません。これなら持ち運ぶのも苦にはならないし、常に携帯していても問題なさそうです。オプションのキャリング・ケース(写真①)はベルトに装着することができるので、散歩しながらフィールド・レコーディングを手軽に楽しめる、ということで大きさと重さは合格。20080101-03-002▲写真① オプションのケースCKL-PCMD50(オープン・プライス/市場予想価格6,000円前後)は、ケースというよりもカバーのように側面が開いた構造。写真のようにスタンドとしても使用可能だ さて次は外観です。まず目につくのはレコーディングの要、マイク。このステレオ・マイクは可動式で、内向き(90度)、平行(0度)、外向き(120度)の3つのポジションが選べるのです。さらにその中間も設定可能で、収録する音源や使用目的で使い分けができるでしょう。次に目についたのは両脇にあるヘッドフォン・ボリュームとRECレベルのつまみ。個人的にはRECレベルはL/R独立が良かったと思いますが、レベルを合わせるという機能そのものには問題ありません。ほかにもライン・イン/外部マイク端子やUSB端子、PADや電源スイッチなどが配置されています。また、裏側にはデジタル・リミッターとローカット(75/150Hz)のスイッチがあります。録音フォーマットは“リニアPCMレコーダー”とうたわれている通り、非圧縮のWAVのみ。最高24ビット/96kHzに対応しています。16ビット時にはSONY独自のSuper Bit Mappingという、20ビット相当の情報を入れ込むディザも使用可能です。また、再生に関してはMP3もサポートしていて、−75〜+100%の変速再生も行えます。記録メディアは内蔵4GBフラッシュ・メモリーで、24ビット/96kHzで約1時間55分、16ビット/44.1kHzで約6時間25分まで録音可能。別売りのメモリースティックPro-HG Duoも使用できますが、内蔵メモリーとの連続録音はサポートされていません。電源は単三電池4本または付属のACアダプター。ニッケル水素電池使用時には、モニターしながらでも13〜15時間、モニター無しなら20〜25時間の録音が可能と、長時間の使用もバッチリです。単三電池ならもしものときにはコンビニなどですぐ購入できるので、専用バッテリーでなくてよかったと思います。ただし、電池はいったんホルダーに収めてから本体へ入れる構造なので、できれば予備のホルダーを持ちたいですね。

視認性が良く情報量の多い画面
シンプルでアクセスしやすいボタン群


では電源を投入してみましょう。SONYロゴが出てから、内部メモリーへアクセス、そして起動終了。ここまで10秒かからないくらいです。焦っているときは長く感じるかもしれませんが、まあ気にならないくらいの時間でしょう。“電源オンで即録音”が理想なのでもう少し早いとうれしいのですが、もっと起動に時間がかかるモデルもあるので実際には問題ないと思います。液晶画面は大きめでとても見やすく、現在マシンがどのような状態(サンプリング・レート、ビット・レート、リミッターやローカットのオン/オフなど)であるかがすぐに分かります。これまた合格。操作パネルは必要最小限のボタン類が、すっきりとした配置で並び、アクセスしやすいと思います。ということで、まずは自分の声でナレーションを録音をしてみました。まずは、メニュー・ボタンを長押しして設定画面へ。スクロールで14種類のメニューが表示されます。最初にある“REC MODE”で、使い慣れた16ビット/48kHzに設定します。うれしいことに、収録画面に戻っても次にメニューを開くと必ず“REC MODE”がすぐ選択できる状態になっています。状況に合わせてサンプリング・レートを簡単に変えられるので、使い道もかなり広がるような気がしますね。さあ、いざ録音。マイク2つを正面へ向け、30cmくらい離れてチェックします。マイクの感度は想像以上に良かったのですが、吹きが多くなります。マイクから離れると吹きは無くなりますが、どうしてもオフっぽくなってしまうので、ウィンド・スクリーン(写真②)を装着。吹きは若干軽減されますが、奥行き感がやや薄らぐ印象は否めません。もしコメント録りなどで現場に持っていくとしたら、マイクとプリアンプは別に持っていくことになるでしょう。今回は試用できなかったのですが、上位機PCM-D1と共通のオプションとして、48Vファンタム電源供給が行えるマイクロフォン・アダプターXLR-1というものもあり、これを使えばXLRバランス入力端子を増設できるそうです。20080101-03-003▲写真② ウィンド・スクリーンAD-PCM1(オープン・プライス/市場予想価格5,000円前後)を装着した状態。長さ15mmの繊維素材で低域の風切り音を約20dB低減できる

広がりと奥行きをマイクの角度で調整
96kHzでは生音と変わらない印象


続いて、フィールド・レコーディングにも挑戦してみました。オプションの三脚(写真③)、ウィンド・スクリーン、リモコン(写真④)を持って近所の公園へ。子供たちのガヤや公園のノイズを収録してみました。24ビット/96kHzでマイクの角度の違いを聴き比べてみると、90度ではステレオ感は狭いけれども奥行き感が感じられます。単純に素材としてSEを聴かせたいときに向いているように感じました。一方、120度では奥行き感は損なわれる代わりにより広いステレオ感が得られます。これは、例えばセンター定位のナレーションに重ねるSEとして使うのに向いているように思います。どちらのマイク・ポジションでも、子供の走り去る音や小鳥のさえずりなど、私の想像を超え非常に良い印象でした。この感じであればSE素材の収録用にも使えるかな、と思います。20080101-03-004▲写真③ アルミ製三脚VCT-PCM1(オープン・プライス/市場予想価格7,000円前後)は脚を閉じると円柱状になり、ハンド・グリップとして使うことも可能。全長は脚を閉じた状態で約20cm20080101-03-005▼写真④ 専用のワイアード・リモコンRM-PCM1(オープン・プライス/市場予想価格5,000円前後)。ケーブル長は2m せっかくなのでサンプリング・レートを変えて同じ状況での収録も試みてみました。ヘッドフォンでのモニターでも、サンプリング・レートの変化ははっきりと感じられます(ということはモニター信号はAD/DA後の音です)。極端に言えば、44.1/48kHzでは遠い音が少し近づいて感じられ、何となくゴチャッとした印象がありました。それに対して、96kHzではモニターしている音とヘッドフォンを外した生音とで大きく印象は変わらないのです。これは後にスタジオのモニターでチェックしたときも同じ印象。このリアルさは、このまま仕事に使えるクオリティだと感じました。また、最初の印象通り操作性は非常に良いです。ただし“プリレコーディング機能”がオンになっているときには注意が必要だと思いました。この機能は、REC待機した状態で常に5秒間分をメモリーしておき、RECスタートしたタイミングよりも5秒前から録音を始める機能です。便利ではあるのですが、当然RECボタンを押す音も収録されてしまいます。本体とマイクが同じ筐体にあるので仕方が無いのですが……。ただ、オプションのリモコンがあれば、こうした操作音が入り込むのを回避できます(標準装備だったらなおいいのに……)。さて収録したものを持ち帰り、普段作業をしているDAWへ取り込みます。本機側面のUSB(2.0対応)でMacとつなぎ、ファイル・コピー。DATなどとは違い、取り込みに収録の実時間分かからないのがうれしいです。そして、ファイルをインポートします。このとき、読み込む前に本体でファイル・ネームが変えられたらいいなと感じましたが、あのボタン数では難しいでしょうからそこはあきらめます。また、私はMac環境なのでテストできませんでしたが、Windows用の編集/CD作成ソフト、SonicStage Mastering Studio Recorder Editionも付属しています。レコーダーとして音質/性能/使い勝手は問題なし。唯一、マイクが吹かれに弱いのが気になる程度というのが印象です。普段から持ち歩いて気になった音を収録しライブラリーに加えていって、作業の幅を増やしていくというのは面白いと思います。また、音楽制作でも同様にSEを加えたり、楽器の一発録りに使ってみるなどしてもいいでしょう。仕事とは別に個人的にも購入を考えたいですが、メモリー内蔵とはいえ少し高価なので即決はできないかな……。さらに、本機2台がシンクロできて、サラウンド収録……なんてこともできたら、もっと幅が広がるように感じました。20080101-03-006

▲右サイド・パネル。左からストラップ取り付け金具、電源スイッチ、RECレベルつまみを挟んでライン入力(ステレオ・ミニ)/S/P DIFオプティカル入力(ミニ)兼用端子、マイク入力(ステレオ・ミニ/プラグイン・パワー対応)とその下にメモリースティック・スロット


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▲左サイド・パネル。左からライン(ステレオ・ミニ)/S/P DIFオプティカル出力(ミニ)兼用端子、ヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)とその下にライン/マイク切り替え、−20dB PADスイッチとUSB端子、AC入力。その上のボリュームつまみの右はHOLDスイッチ、デジタル・ピッチ・コントロール・スイッチ(MP3再生時に有効)、リモコン接続端子


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▲リア・パネル。右上にリミッター、ローカット・フィルターのスイッチが並ぶ。中央には三脚用ねじ穴(カメラ用三脚に対応)も用意

SONY
PCM-D50
オープン・プライス(市場予想価格/60,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜40kHz(96kHz時、0/−2dB)
▪SN比/93dB以上(1kHz IHF-A、24ビット、ライン入力時)
▪入力インピーダンス/22kΩ(マイク入力)、40kΩ(ライン入力)
▪出力インピーダンス/220Ω(ライン出力)
▪内蔵マイク感度/−35dB
▪外形寸法/72(W)×154.5(H)×32.7(D)mm
▪重量/365g(電池含む)
▪付属品/USBケーブル、ACアダプター、単三アルカリ電池(4本)、CD-ROM(SonicStage Mastering Studio Recorder Edition、Windows 2000用ドライバー)