優れた中低域の再生能力と補正機能が魅力のモニター・スピーカー

M-AUDIOEX66

モニター・スピーカーはエンジニアが作業をする上で重要な機材の一つであり、作業をスムーズに進行できるかどうかに大きく影響するものと日ごろから筆者は思っています。モニター環境が正確で迷うことさえなければ、ほかに使用する機材の選択やセッティングでも的確な判断が可能なのではないでしょうか。今回紹介するモニター・スピーカー、M-AUDIO EX66は幾つかの小型モニター・スピーカーを発売してきた同社が今までの研究開発の集大成と誇るリファレンス・モニター・スピーカーです。

24ビット/192kHzまで対応する
デジタル入力も装備


EX66は6インチのウーファー2つで1インチのツィーターを上下から挟むという、いわゆるバーチカル・ツイン構造です。これによって音の垂直指向特性や周波数の乱れを最小限に止めます。外観はスリムで無駄を感じさせず、宅録環境でも設置場所に困らなさそうです。入力はアナログ/デジタルの両方に対応し、デジタルは最高24ビット/192kHzまで対応しています。入力端子はアナログ用にXLRとTRSフォーン、デジタル用にAES/EBUとS/P DIFコアキシャルを備えているので、ほとんどの機材に対応可能でしょう。さらにDSPを利用した補正が可能で、2.56kHz以上の高域を±2dB増減できるHigh Freqスイッチ、1〜2kHzを中心とした帯域を2dB増加させるMid Range Boostスイッチ、ハイパス・フィルターの周波数を37/80/100Hzから選択できるLow Cutoffスイッチに加え、設置場所による低域の増加を補正するAcoustic Spaceスイッチを搭載し、必要なチューニングを本体で調整可能です。なおLow Cutoffスイッチはオン/オフではなく、37Hzがデフォルトの状態になっています。ほかにも使用電圧の切り替えがマイナス・ドライバ一1本で簡単にできるなど、あらゆる環境で潜在力を発揮できるように配慮されているのが分かります。それでは肝心の音質をチェックしていきましょう。筆者は普段、同軸構造のモニターを愛用しており、2ウェイ・タイプなどではまれに定位の具合などに違和感を覚えたりするモデルもありますが、本機はパッと聴いた印象ではそのようなことはありませんでした。バーチカル・ツイン構造の恩恵もさることながら、エンクロージャーやもろもろの音響設計が優れているのでしょう。そして特筆すべき点は、6インチ・ウーファーとは思えない低音域の再生能力です。スペック上の最低周波数からしっかりと鳴っていることを感じとることができ、音量を上げていくとラージ・スピーカーでモニターしているような印象さえありました。また、音量の大小での再生周波数変化が極力抑えられており、モニターとしての完成度の高さがうかがえます。軸上から外れた位置でモニターした場合も極端にはバランスが崩れないため、バンド・スタイルでの収録など複数人で聴く場合に音色の違いによる意見の相違も生じないでしょう。音質は最近のモニターらしく少し明るめに感じましたが派手ということはなく、好みもあると思いますが“音楽を楽しく聴かせてくれる明るさ”という印象で日常の音楽鑑賞でも試してみたくなります。

本来の質感とレンジを保ちつつ
自然に低音域の量感を調整可能


次に、アナログとデジタルの音質の違いをチェックしてみました。DIGIDESIGN Pro Toolsの出力を直接接続して比較してみると、デジタルの方が音の輪郭がはっきりするようで個人的にはこちらの方が好みでした。さらに、チェックした部屋は低音域が若干膨らむ傾向にあったのでスピーカー本体での補正も試みてみました。最初にLow Cutoffスイッチで補正を試みましたが、80Hzや100Hzと比較的高い周波数のためか音像が変わる印象がありました。そこでAcoustic Spaceスイッチを試してみると自然に低音域の量感を補正することができました。こちらの方が作業環境によっては本来の質感とレンジの広さを保ちつつ自然な調整ができるのではないでしょうか。またこれらの補正スイッチは、DSPを使用した演算処理ということでいろいろと設定を変えて違いを確かめてみましたが、いずれの場合もユニット間の音のつながりを崩すことはなく、“使える補正回路”という印象でした。最後に、ライブ素材のミキシングに使用してみました。バスドラやベースなどの低音域が実際よりもやや丸い印象を受けることがありましたが、ぼやける感じではないので作業上やりにくいことはなく、それよりもしっかりと再生される低域のお陰で的確な処理ができたと思います。中域から高域にかけても音に密度があり、ボーカルや空間系エフェクト処理もイメージ通りに進められました。今回製品をチェックした環境は12畳ほどの商業スタジオでしたが、より広いスタジオでの使用も可能そうなパワーを感じました。また小さめの音量でもバランスが損なわれないので自宅などの音量に制限のある環境にも適していると思います。ただし、大音量時には思った以上に低音が漏れるようで、筆者の環境でも隣から出し過ぎ注意令が出ました(笑)。それほどしっかり低い帯域から再生されているという証拠でしょう。総合的に完成度は高く、開発者の意気込みが感じられるモニター・スピーカーでした。
M-AUDIO
EX66
79,800円/1台

SPECIFICATIONS

■周波数特性/37Hz〜20kHz
■外形寸法/210(W)×483(H)×241(D) mm
■重量/11.4kg (1本)