ライブ・ステージでボーカリストのためにどのマイクが一番フィットするかを考えるとき、それを決定するには２つの要素があります。それはボーカリスト側（楽器も含む発音源側）からの視点とマイク側（入力側）からの視点です。これらの要素から理想的な組み合わせを考えるわけですが、ボーカル側とマイク側にはさらに細かい条件がついてきます。例えばボーカリスト側には声質、声量、そしてバンド編成、音楽のジャンルなど、またマイク側には音質を決める音響特性やタイプ、指向性などがあります。その結果、簡単には理想的な組み合わせを見つけ出すことはできません。まして、新しいマイクがそのマイク側の選択肢として新たに入るかどうかの判断は、現実的には大変難しいことだと思います。やはり、そのためにはマイクの特性を知ることが大切です。この考え方を踏まえながら、新製品、AKG C5について詳しく説明ができればと思います。
スタジオ品質の音を
ライブで表現できるマイク
C５はAKGがスタジオ・レコーディングで蓄積したコンデンサー・マイクのクオリティをライブ・パフォーマンスでも再現するために設計されたハンドヘルド型コンデンサー・マイクです。単一指向性としては、比較的鋭い指向性を持っているのでフィードバックが発生しにくく、高いレベルの入力設定も可能で、最大音圧レベルも140dB（全高調波歪率1%）／145dB（同3％）と大音量に対応できる仕様となっています。また、フローティング・ショック・マウント構造で内蔵されたカプセルのおかげでハンドリング・ノイズも少なく、ハウジングには24k金メッキを使用、ダイアフラムの湿気対策もしっかりしています。実際手に取ってみると、まずは外観の良さが目を引きます。頑強な亜鉛合金ボディに、へこみに強く、最近流行のヘッド・トップがフラットなワイアー・メッシュ・スクリーンを装備。またハンドリングはゆったりとしたボディと適度な重さによって快適です。さて、一番気になる音質に関してですが、C５は周波数特性が65Hz〜20kHzと広くかなり敏感なコンデンサー・マイクではないでしょうか！ 実際、マニュアルに記載されている周波数特性のグラフを見ると比較的フラットですが、低域は思ったよりおとなしい感じがします。通常コンデンサー・マイク使用時に処理することの多い押し付けがましい低域はあまり感じず、上品な低音が表現することができます。またAKG特有の中域の明瞭さはもちろんですが、高音はコンデンサーらしく繊細でかつ力強い音質です。品質優先のステージ・マイクが出来上がったと感じました。もちろん男性ボーカルにも女性ボーカルにも適していますが、特に女性ボーカルには本機の素晴らしさが強調されると思います。そしてオン・マイクでの強めなボーカルにひずみもなく、明瞭度も保たれております。
いかなる状況にも
EQによる対応が可能
コンデンサー・マイクをライブ・ステージで使用する場合、最初に考えてしまうのがモニターでのハウリングです。マージンが取れるか？ 回り込みは少ないか?などが重要なポイントになります。C５の場合は指向性が鋭いためステージでのバンドの音とかぶりが少なく、モニターも十分満足のいく対応ができます。最も印象深いのが、EQでの処理操作に、的確で速やかなレスポンスがあるところでしょう！ いかなる状況にも、イコライジングによる対応が可能なマイクロフォンです。このC５を一言で表すなら“スタジオ品質の音をステージで表現し、ライブに上質なボーカルを演出する”と言ったところでしょう。ここまではC５についてレビューしましたが、同型の姉妹機、ダイナミック型のD５も簡単に紹介しておきましょう。D５はC５と外観の形状はほとんど同じで、ヘッドに“CONDENSER”の明記が無いぐらいです。指向性は超単一性なのでモニターにおける明瞭さがアップしていると思います。また、ほかのダイナミック・マイクに比べ、タイトな低域が印象的でした。C５はライブのために必要なマイク特性がすべて用意されている素晴らしいボーカル・マイクだと思います。しっかりした中域、AKG特有のコンデンサー・マイクらしいクリアで繊細な音質。高級感あふれる上品なボーカル・サウンドを表現するならC５だと思います！
▲超単一性のダイナミック・マイクD5（21,000円）。周波数帯域は70Hz〜20kHzでインピーダンスは600Ω、最大音圧レベル147/156dB@1%/3% THD。重量は340g
SPECIFICATIONS
■指向性／単一
■周波数特性／65Hz〜20kHz
■インピーダンス／200Ω
■最大音圧レベル／140/145dB@1%/3% THD
■外形寸法／51（φ）x185.2 （H）mm
■重量／345ｇ
