簡単操作のコンプとオーディオI/O内蔵の20chアナログ・ミキサー

YAMAHAMG206C-USB

最近"こんな機材があったらいいな"と昔から考えてきたものが増えている気がします。デジタル・ミキサーが次々と発売されている昨今、YAMAHAよりPA用途を念頭に置いて開発された、アナログ・ミキサーの新シリーズが発売されました。今回はその中の20chモデル、MG206C-USBをチェックします。現場に持ち込んでの使用感や便利さをお伝えしていきましょう!!

充実の入出力端子群で
自由なセッティングが可能


今回リリースされたミキサーのシリーズは、本機に加えてMG166C-USB(71,190円)、MG166CX-USB(76,640円)の計3モデルがラインナップ。いずれもUSBオーディオ・インターフェースを内蔵している点が特徴です。またMG166CX-USBにはライブやレコーディング・スタジオで愛用されているヤマハの高品位デジタル・エフェクター、SPXシリーズのエフェクト・プリセットが16種類装備されています。今回レビューするMG206C-USBは20ch仕様(モノ12ch+ステレオ4ch)で、エフェクターの無いバージョン。製品が自宅に届いたとき、宅配便のお兄さんが片手で抱えて持ってきたので"おっ?!"と思い、受け取った瞬間"軽い!"と衝撃を受けました。これは特筆すべき点でしょう。早速段ボールを開けて、カタログや取扱説明書を読破したところ、20chモデルでありながら何と重量は6kg!筆者の持っている同タイプのミキサーの半分以下の重量なのです。軽量なものは耐久性で劣る点がデメリットなのですが、本機ではそんなことはありません。ボディの設計には最新の品質工学を用いており、優れた耐久性を確保しているとのこと。本体にラック・マウント用のアングルが付いているのも特徴です。それでは早速ツラ構えを眺めていきましょう。トップ・パネルにあるマイク入力用のXLR端子は信頼性の高いNEUTRIK製。モノ・チャンネルに12基装備されているのに加え、ステレオ・チャンネルにも1基ずつ搭載されているので、マイク入力は計16ch分が用意されている計算になります。ファンタム電原は全チャンネル一括でトップ・パネルにあるスイッチでオン/オフする仕様です。ライン入力にはTRSフォーンを全チャンネル分用意し、ch17/18およびch19/20にはRCAピンも搭載しています。さらにch1〜12にはインサート端子(TRSフォーン)も装備、リア・パネルには2TR IN(RCAピン)およびステレオ2系統のAUXリターン(フォーン)も用意されています。出力に関してもこのサイズのミキサーとしてはなかなかな数がそろっており、トップ・パネルにはメイン・ステレオ出力を2系統(XLR、TRSフォーン)、ステレオ・モニター出力を1系統(TRSフォーン)、ヘッドフォン出力に加え、リア・パネルにはグループ・ミックスを行う際に便利なグループ出力もステレオ2系統(TRSフォーン)を搭載。各チャンネルは個別に2系統のグループ出力へアサインできるので、自由度の高いセッティングが可能です。そのほかREC OUT(RCAピン)もステレオ1系統分が用意されています。

視認性抜群の自照式スイッチと
12セグメントのレベル・メーター


続いてチャンネル・ストリップを見ていきましょう。ミキサーの要となる入力部はゲインとローカット・スイッチ(80Hz、−12dB/oct)のみのシンプルなデザインとなっています。"使うかも?"的な機能はとことん排除するという、その考え方が好印象です。その入力部の下に位置し、ch1〜8に装備された目を引く黄色いつまみ! これこそは、本機の大きな魅力である1-knob Compressor。これは先に発売されたYAMAHAのパワード・ミキサー、EMXシリーズにも搭載されていたコンプです。これは、複雑なパラメーター設定は一切必要とせず、つまみ1つでコンプのかかり具合を調節可能という画期的なもの。回路にFETを使用しているので、ウォームかつストレートなサウンドが特徴とのことです。その下に位置するEQは3バンドで、ハイは10kHz、ローは100Hz固定のシェルビング・タイプ、ミッドは周波数を250Hz〜5kHzまで可変できるピーキング・タイプとなっています(ただしステレオ・チャンネルは2.5kHzに固定)。EQの下には4基のAUXが搭載されています。通常、このクラスではプリ/ポストはAUXのチャンネルごとに固定であることが多いのですが、このモデルではそんなことはありません。AUX1はプリ固定、AUX4はポスト固定ですが、AUX2と3はプリ/ポストを切り替えられるのです。YAMAHAの現場至上主義がここで垣間見られます!それでは電源を入れてチェックしましょう。まずSHURE SM58をマイク入力に接続してレベルをとってみます。屋外の使用も想定しているのか、マスター部にある12セグメントのレベル・メーターはとても明るく、見やすくていい感じです! 続いて、チャンネルをオンにしてみましょう。オン/オフ・スイッチに視認性の高い自照式ボタンを採用しているのが好印象。この自照式ボタンは昔ながらの仕様で、オンにしたときに光るようになっています。最近の自照式スイッチはミュート時に光るものが多いのですが、こういうところにYAMAHAの"昔の良い部分を守る"姿勢が見えて、個人的に好きです! 小さなことかもしれませんが、こういう積み重ねが良い機材につながるんだと思います。簡単なチェックも済ませ"これならイケる!"と思ったので、実際に現場に持ち込んでみました。

透明感がありながら
しんのある上質なサウンド


今回の現場はカフェ・スタイルのライブ・スペースで、バンド編成はボーカル、バイオリン、アップライト・ピアノ、アコースティック・ギター、パーカッションという編成です。もちろん本機ならチャンネル数に問題はありません。視認性の良いメーターのおかげでサウンド・チェックでのレベルは取りやすく、EQ処理にはYAMAHAの良さである正確さが表れています。さすが、現場で愛用される機材を長年にわたり作っているだけあり、程よいQ幅できっちりと音楽的に変化してくれます!! さらに60mmフェーダーのスライド感はスムーズで、かといってスカスカでもない感触があり、ちょうどいい操作感。出力された音も透明感がありながら、しんがしっかりととらえられている上質なサウンドが印象的で、今回のような音質重視のアコースティック・セッティングでも問題はまるでありません。S/Nや付加価値などを考えると"こうでなければ"とさえ思いました。バランスをとり終え、リハーサルが始まったので個々のダイナミック・レンジを整えるため、気になっていた1-knob Compressorをボーカル・チャンネルで恐る恐る回してみました。すると、9時位置までは大きな変化は見られなかったのですが、11時くらいからコンプ特有の圧縮感が出始めます。と言ってもエンジニア以外は全く分からない程度のもので13時くらいでミュージシャンやオーディエンスが気付くかなぁというレベルです。今回のライブで使用した結果からすると基本的にはどの音でも10〜12時辺りにセッティングしての使用がつぶれ過ぎず単音のリアルさを生かせて良い感じだと思います。また"コンプをかけてつぶすとレベルが落ちるのでは"と考える人もいると思いますが、かけ具合を上げると同時にレベルも少しずつ上がるように設定されているので、そこはさすがです。リハーサルが無事終了した後に、メンバーが"録音したい"と言ってきました。そこで役に立ったのが、USBでコンピューターと接続可能な内蔵オーディオ・インターフェース。ASIO/Core Audio対応で、マスターのステレオ出力をUSBを介してパソコンに入力できる仕様となっています。なお、コンピューターからの出力もステレオで入力される仕様となっており、マスターのステレオ出力もしくはモニターおよびヘッドフォン出力にアサインすることが可能です。さらに、本機にはWindows/Macで使用可能なDAWソフト、STEINBERG Cubase AI 4がバンドルされているので、ノート・パソコンさえあれば、このパッケージだけで手軽なライブ録音が可能となります。さて、本機をUSBで私のノート・パソコンと接続し、いよいよ本番です。ライブ・ミックスされたサウンドは、問題なくCubase AI 4に録音されました(時間が無かったのでオーディエンス・マイクはパソコンの内蔵マイクで!)。その素材を家に帰ってゆっくりマスタリングし、後日"思い出CD(笑)"としてメンバーに渡しました。メンバー全員が"こんなの録れる機材持って来てましたっけ?! "と言ったくらいに簡易的なシステムなので、これは使えると確信した次第です。こんなに多機能で音質も良く軽いし、コンピューターへの録音も単体のオーディオ・インターフェース無しでできるのには驚かされます。このミキサーに付いてきたカタログの中に、私の心に響いた開発者からのメッセージがありました。それは"安い物は作るが、安物は作らない"というものです。その開発者の意気込みや努力は現場で音を入力した途端に"これか!"と伝わってきました!小さなイベントですらデジタル・ミキサーを見かける昨今ですが、こんなミキサーが出てくる時代なら、まだデジタルに乗り換えるのを待ってもいいんじゃないかなぁと思えた今日このごろです。

◀トップ・パネル上部の入出力端子。マイク入力×16(XLR)、ライン入力×20(TRSフォーン、ch17/18およびch19/20にはRCAピンも搭載)、インサート×12(TRSフォーン)、ステレオ出力×2系統(XLR、TRSフォーン)、ステレオ・モニター出力×1系統(TRSフォーン)、ヘッドフォン出力。その下のチャンネル・ストリップにはモノ12ch+ステレオ4chのゲインつまみ、ローカット・スイッチ、1〜8chに1-knob Compressorも装備



▲リア・パネル。左よりUSB端子、AUXセンド×4(TRSフォーン)、グループ出力×4(TRSフォーン)、REC OUT×ステレオ1系統(RCAピン)、2TR IN×ステレオ1系統(RCAピン)、ステレオAUXリターン×2系統(フォーン)

YAMAHA
MG206C-USB
102,690円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■入力インピーダンス/マイク:3kΩ(バランス)、ライン:10kΩ(バランス)
■出力インピーダンス/XLR端子:75Ω、TRSフォーン端子:150Ω、RCAピン端子:600Ω
■最大ノンクリッピングレベル/+4dBu(マイク:ゲイン=−16dB時)、+30dBu(ライン:ゲイン=+10dB時)
■クロストーク/−70dB@1kHz
■全高調波歪率/+14dBu@20Hz〜20kHz(ゲイン最小時)
■外形寸法/478(W)×102(H)×496(D)mm
■重量/6kg