2つの独立エンジンを搭載した素直な音のステレオ・コンプレッサー

T.C. ELECTRONICC400XL

T.C. ELECTRONICと聞けば、すぐにFinalizerを思い浮かべるほど、昔は専用のマスター・フェーダーまで持って国内外のスタジオを行き来しながら愛用したものだ。そんな同社からの新製品、デュアル・ステレオ・コンプレッサーのC400XLを試聴した。2つの独立したエンジンをステレオで直列にまたはデュアル・モノラルでプロセッシング可能な、コンプレッサー/ディエッサー/ゲート/エキスパンダーである。また、本機の特徴として"ニュー・スタイル・コンプレッション"という処理があるらしいので、早速チェックしていこう。

独立した2つのエンジンで
4種のルーティング・モードを搭載


外観から見てみよう。1Uで奥行き10cmほどのコンパクトなサイズ。通常のリミッター/コンプと異なる点はL/Rではなく左をengine 1、右をengine 2と呼んでいるところであろう。フロント・パネルの左端にあるroutingスイッチではdual monoとstereo/serialが選択可能だ。dual monoでは2つのエンジンが独立して作動する。2台のモノラル機を使用するのと同じだ。一方stereo/serialにするとengine 1とengine 2が連動するようになり、これには3種類の使用方法がある。まず、"シリアル・モノ"はLchのみの入出力を使って2つのモノラル・エンジンをシリアル(直列)に内部ルーティングする方法。"シリアル・ステレオ"はL/Rの入出力に2つのステレオ・エンジンをシリアルに接続する方法だ。"ステレオ"は1つのエンジンをバイパスさせて単純に1つのエンジンのみを使用する方法。これはいい! engine 1でAタイプのサウンド、engine 2でBタイプのサウンドを作り、それぞれをバイパスさせてA/B比較しながら決定できるわけだ。routingスイッチの右にはengine 1のプリセット・セレクターつまみ、インプット・メーター、ダンピング・メーター、スレッショルドLEDとあって、小さめのつまみでthreshold、ratio、makeup/release、mix/amountと並ぶ。つまみの上にはCOMP/LIMとGATE/EXPの切り替えスイッチがあり、横にpeak LEDがある。同様の並びで右にengine 2が並ぶ。フロント・パネルの中央にはdigital in LEDを配置。なお、makeup/releaseつまみのパラメーターで黒くプリントされた数値はCOMP/LIM時のゲイン、青色の数値がGATE/EXP時のリリース・タイムを表している。つまみの感触は程よく軽く、楕円形で握りやすい。プリセット・セレクターは360°回転するロータリー式で思った場所へすぐにセットできる。プリセットは16種類で、上から時計回りにcomposite、female vocal、male vocal、vocal choir、speech、bass guitar、elec. guitar、acoustic guitar、horns/inst.、piano/keyb、percussive、toms dm、bass dm、snare dm、de-ess 4kHz/DE-HISS(ヒス・カット)、de-ess 6kHz/DE-HUM(ハム・カット)が並んでいる。それぞれの用途に応じたパラメーターが設定されているが、これはあくまでも目安で名称とは違うプリセットでもチャレンジしてみることをお勧めする。

原音のイメージを維持しながら
レベルをコントロール可能


それでは、本機のポイントである"ニュー・スタイル・コンプレッション"を勉強していこう。これはmixつまみで原音とコンプレッションされた音の比率を調整するという仕組みだ。利点は、高めのダイナミクスにおける原音の感覚と、低いダイナミクスにおけるディテールを、両方ともより忠実に維持することが可能になることだ。早速、CDからステレオで音を入力して聴いてみた。確かに、mixつまみを中間に持っていくと深めのコンプもすっと聴きやすくなる。つまみを回すと若干遅れてモーフィングするように音が変化するが、スレッショルドをただ下げただけとは違い原音のイメージを大事にしながらレベルを調整できる感じだ。mixつまみを100%にしてコンプのパンチ感を決め、つまみを戻しながらダイナミクスを表現するという使い方をするといいだろう。次にプリセットを試してみよう。先日ミックスが終了したグループSo'Flyの音源をDAWで再生して試してみることにした。ドラムのミックスにインサートするとpercussiveでは抜けと切れが良い感じになる。逆にオーバー・コンプな感じになって面白いのがspeechだ。次はベースを突っ込んでみた。これはやはりbass guitarが良かった。低域の感じがGood。女性ボーカルでは、engine 1をde-ess 6kHzで歯擦音を軽減し、engine 2でfemale vocalモードにするとつやを残したまま前に出すことができた。ここでもmixつまみが微妙なコントロールを可能にしている。このC400XLは、入力した途端にキャラクターが変わるようなコンプレッサーではなく、素直なイメージがある。もちろん深くかければ音のキャラクターも変えられるが"ニュー・スタイル・コンプレッション"がその間を自由に行き来できるようにしている。ミキシングに使用する場合、最後にC400XLをインサートするのではなく、最初から浅めのスレッショルドでかけておいて音作りやバランスを取る方法がお勧め。イメージが変わらないまま最後にパンチを出すのにプリセットを操作したり、スレッショルドをコントロールするといいかもしれない。楽器の収録もイージー・オペレートでミス無く行えるだろう。また、プリセットなどのつまみを激しく回しても一切ノイズも無く、routingスイッチを切り替えても大丈夫だった。これはPAでも安心して使えるだろう。マスタリング時に使用する場合は癖も無く、レベルもキープしやすいので大変重宝すると思われる。

▲リア・パネル。左から入力(XLR)×2、出力(XLR)×2、デジタル入出力(AES/EBU)、ソフトウェア・アップデートのためのMDI IN/OUT、電源インレット

T.C. ELECTRONIC
C400XL
63,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(+0/−0.1dB)
■最大出力レベル/21dBu
■外形寸法/483(W)×44(H)×105.6(D)mm
■重量/1.5kg