帯域バランスに優れた女性用ハンドヘルド型コンデンサー・マイク - サンレコ〜音楽制作と音響のすべてを届けるメディア

AKGElle C

重永直人（MOSAiC）

個人的な話ですが、最近、PA時の女性ボーカルのマイク・セレクトで悩むことが多々あります。声量やピークの違いによって合うマイクを選ぶ必要が出てくるからです。その点、今回のAKG Elle Cはストレス無く使えました。本体は細身で重量260g、色は高級感あふれるシルバーと鮮やかなホワイト（写真）の２種類がラインナップ。"女性ボーカル用"をうたった単一指向性のハンドヘルド用コンデンサー・マイクです。

素直で伸びやかなサウンド
5〜9kHzを強調するアダプターも付属

まずElle Cは女性用ということで、デザインが洗練されており、細身かつ軽いので取り回しが楽になっています。付属品としてはマイク・ホルダー、ウィンド・スクリーン、かわいらしい筒型のソフト・ケースが用意されているほか、本機のポイントになるであろう、"プレゼンス・ブースト・アダプター"であるPB1000が付いてきます。これはプラスチック製のアダプターで、本機のグリル・ボールを外してカプセルに装着して使います。これを付けると、5〜9kHzが5dBブーストされて収音できるという仕組みです。そのPB1000の効果も含めて、実際に本機をチェックしていきましょう。今回はコンソールにMIDAS Verona 400、メイン・スピーカーにELECTRO-VOICE XI1152＋XSubというPA環境で使用しました。PB1000は最初から付けた状態での試用です。言うまでもなく女性ボーカルに使ってもらったのですが、サウンド的な第一印象は、声に対して素直で、かつ伸びがあること。特に驚いたのはローミッド／ハイミッドで、変な引っ掛かりも無く、逆に詰まることもありません。次にバンド演奏と合わせてみます。Elle Cの出音がクリアなだけに、ほかの楽器に負けてしまうかな？と最初は思いましたが、とんでもない。声のラインがくっきり見え、楽にボーカルを前に出してミックスしていけます。レベルを上げていくと、PB1000を装着しているためか6.3〜10kHzが強調されてきましたが、ほかの帯域に関しては自然に上がってくるという印象でした。逆にPB1000を外してみたところ、聴感上はほぼフラットな出音に。ボーカリストの歌い方によってPB1000を付ける／外すという選択肢があるのは便利だと感じました。EQをいじって位相がズレてしまうよりも全然良い方法だと思います。その後、ウィンド・スクリーンを付けてみたところ、全体が少し落ち着いた音になりましたが、ハイエンドの伸びが無くなるということはありませんでした。特にオンマイクで歌うボーカリストには、ウィンド・スクリーンが近接効果を低減してくれるので最適でしょう。

出っ張った部分の無い帯域バランス
男声に使っても好印象

さて、女性向けと言われているElle Cですが、男性ボーカルでも試してみました。自分もよくPAするボーカリストに試用してもらったのですが、これまで彼はダイナミック・マイクを使ってきただけに、コンデンサー・マイク特有のしなやかさ、音の伸びなど音の差は歴然としていました。彼は抑揚を付けて歌うタイプなので、歌詞の語尾がダイナミックの場合は不安定になり、以前は少し苦労していたのですが、Elle Cは声を自然に拾ってくれるので、その点もかなり解消されました。ただ、少々低域が膨らむ感じがしたので、ここでウィンド・スクリーンとPB1000を再び装着してみたところ、低域の吹かれが落ち着き、PB1000によって高域の伸びも確保できました。男声／女声にかかわらず、マイク自体の感度が良いため、フェーダーを突く動きが音としてダイレクトに伝わってきて、オペレートをしていてとても心地が良いです。声を張ったときに耳をツーンと突く場面が少なかったのも好印象でした。特定の帯域にピークが無く、フェーダーを動かすと全帯域が付いてきてくれる......個人的にこれが本機の一番のポイントだと感じました。ちなみに、チェック終了後にボーカリストに感想を聞くと、"以前のマイクより歌いやすかった"との答えが返ってきました。いろいろなメーカーからハンドヘルド型コンデンサー・マイクがリリースされていますが、低域が出過ぎたり、高域がキツくなってそこがハウリング・ポイントになってしまったりと、正直言うと、あまり良い印象は持っていませんでした。しかし、このElle Cは違っていました。全体的な帯域バランスの良さ、フェーダーをグッと上げても変わらない音質と安心感。いずれを取っても今までのハンドヘルド型コンデンサー・マイクより向上していると感じました。個人的には、この製品が新しい"AKGサウンド"の基礎になると思っています。