ミキサーも内蔵した96kHz対応の48trデジタル・ワークステーション

TASCAMX-48

2005年にアナウンスされ発売が待たれていたTASCAM X-48がリリースされた。最大の特徴は4Uラック・マウントのハード・ディスク・レコーダーの形状をしながら、中身はデジタル・ミキサーも内蔵したスタンドアローンのワークステーションであること。筆者が真っ先に思いつく用途がライブ・レコーディングで、96kHzで48trを同時録音しながら簡単なモニター・ミックスまで作れてしまうスペックは、かなり魅力的だ。

中身はほとんどコンピューターながら
単体機並みに安定した動作感


本機はVGAモニター、キーボード、マウスを接続すればDAWのように波形編集が行えるワークステーションだ。Windows Embeddedオペレーション・システムを採用し、リストアCDなども添付されていて“音楽専用コンピューター”といった趣。しかし動作はほとんど単体ハードウェアのフィーリングで、かなりの安定感が味わえる。重量は13.7kg、4Uラックマウント・サイズでかなり奥行きがあり大きく見えるが、実寸はAPPLE Mac Proより一回り小さい。本機が標準装備している入出力はデジタルでやり取りするためのTDIFとS/P DIF端子のみで、アナログ入出力のインターフェースはオプションとなる。2つ用意された拡張スロットに24ch単位でアナログ、ADATオプティカル、AES/EBUいずれかのカードが追加できる。各インプットは8chもしくは1ch単位で任意の録音トラックへルーティング可能だ。そのほかWORD SYNC IN/OUT/THRU、MIDI IN/OUT、TIME CODE IN/OUT、VIDEO IN/THRUなど同期関連端子をフル装備し、RS-422によるマシン・コントロールも可能。フット・スイッチを使ったパンチ・イン/アウトにも対応している。

容易にバイパス可能な
48chデジタル・ミキサーを内蔵


本機は80GBのハード・ディスクを内蔵し、約66GBのデータ領域にはオーディオ・データをWAVとして記録する。サンプリング周波数は44.1/48/88.2/96kHz、量子化ビット数は16、24、32ビット浮動小数点が選べる。最大の32ビット/96kHzでも制約は無く、48trの同時録音が可能だ。2つ用意されたFireWire端子を使えば外部ハード・ディスクへの直接録音も可能なので、内蔵の80GBで収まらないセッションでも安心。4つ用意されたUSB端子はファイル移動のためのUSBメモリーやドングルに使用可能である。DVDマルチドライブではプロジェクトのバックアップも可能。NTFSフォーマットが読み込めないMacなどへのデータ移動には、このメディア経由が便利だ。また2つのイーサーネット端子(1つは1000Base-TX対応)も装備しており、ネットワーク上でファイル移動ができるのもいい。内蔵ミキサーは再生側に接続されており、ライブ収録などを意識した仕様。48ch分のインプット信号をそのまま対応するアウトプットへと出力しながら、別系統でモニター・ミックスをS/P DIFアウトから外部のレコーダーに出力できる。デフォルトではこのミキサー・セクションは無効となっており“setting”メニューからバイパスをオフにすることで初めてこのミキサー部が使用できるようになる。安定性を確保するために、本番収録時にはミキサー部をバイパスすることが可能なのだ。ほかに負荷を確認するためのCPUメーターもメニュー・バーに表示されている。また主にモニター用としながらも、チャンネルごとにコンプと4バンド・パラメトリックEQ、6つのAUXセンドを装備。さらには4系統のVSTプラグインまで使えるので、収録後にはエフェクトを活用したミキシングも可能。標準でプラグインは付属しておらず、WAVESのものなど公式サポート対象製品をインストールして使用する。その際はドングルをあらかじめコンピューター上でオーソライズしてから本機に装着する必要があるので、注意が必要だ。多チャンネルの収録時はVSTエフェクトの使用は控えた方がいいだろう。しかし、DAWで何かと問題になるバッファーの設定を一切気にする必要がないのは、大きな利点である。

GUIによる編集に対応
DAWへのデータ移動もスムーズ


新規録音の状態では、電源投入から約1分弱で“startup”ソングが立ち上がる。ここで本体のRECボタンをオンにすれば、即座に録音可能だ。単純に録音&保存するだけなら本体前面のスイッチで操作できるため、外部ディスプレイをつなぐ必要もない。後は録音後にプロジェクトを保存指定するだけだ。排気ファンの音はデスクトップ・コンピューター並みに大きめだが、これはオールインワンということで納得できるだろう。外部ディスプレイをつなげば、グラフィック・ユーザー・インターフェースによる快適な波形編集ができる(画面①②)。編集コマンドは基本的なものに加えピッチ・シフトやタイム・ストレッチまで可能で、通常の編集作業であればさほど困らない。ファンクション・キーには各ミキサー画面や編集画面がアサインされており、17インチ程度のディスプレイであれば、かなり快適に情報を見渡せる。また“Alt+クリックでフェーダーやAUXセンドが0の位置に戻る”“ミキサー画面から6つのAUX量を直接マウスで増減できる”など細かな使い勝手も上々だ。加えて±6ピッチ・コントロール再生など、MTR的な機能もあって面白い。20070901-02-002◀画面① X-48のデジタル・ミキサーをディスプレイに表示したところ。48ch、24ステレオ・バス、6AUX、1ステレオ・マスターという仕様で、各インプット/バスにはコンプレッサーおよび4バンドEQ、6系統のAUX SENDを搭載。また、WAVES製のものなどVSTプラグインをインストールして使用可能20070901-02-003▶画面② GUIを利用したトラック編集ではカット/コピー/ペーストが可能。タイム・コンプレッションやヒストリー・リストによる200段階のアンドゥにも対応している 音声データはWAVファイルとして記録されるので、各トラックの頭がそろえてあれば、そのままDAWで読み込んで再生可能。X-48で編集後も波形を奇麗に一本化できる“consolidate”コマンドも装備している。もちろんファイル名にはトラックに付けた名前が反映される。またプロジェクト単位でのデータ移動は、TASCAM製品間でのやり取りにはOpen TLファイルでのインポート/エクスポートを使用。2GB未満のファイルであればAAFでのエクスポートも可能で、試しに本機で録音した48trのプロジェクトをAAFファイルに書き出しMARK OF THE UNICORN Digital Performerに読み込んでみたが、問題無く再生できた。これならダビングしたりパンチ・インした個所もそのままエクスポートできるので便利だ。

リズム楽器と相性が良く
負荷の軽い内蔵コンプ&EQ


今回のデモ機にはアナログI/Oが追加されており、TASCAMらしい抜けが良く存在感のある音が聴き取れた。内蔵EQは4ポイント・パラメトリックで、ブースト時はシャープにかかる印象。コンプも効きが明快でリズム系にも相性が良くスピード感がある。全トラックを録音しながらすべてのトラックのコンプ&EQをオンにしてみると、CPUメーターの振りが大きくなってしまい描画が重くなるが、音切れするようなことはなかった。負荷が軽い割にかなり使える内蔵エフェクトだと思う。そのほかの機能も挙げておこう。“シアター・プレイ”はマーカーを打った曲ごとにフット・スイッチで順番に再生できる機能。毎回曲が終わると次の曲頭で待機してくれるので、イベントの曲出しに便利だ。また同社のHDR、MX-2424用の“MixView”“TASCAMミキサー・コンパニオン”といった別アプリケーションの同時起動も可能で、イーサーネット接続で外部機器をコントロールできる。同社製品との連携において核となる機能がX-48にはあらかじめ搭載されているのだ。TASCAMは過去にSX-1というMIDIシーケンスまで搭載したワークステーションを発売していた。そのノウハウの多くがこのX-48に受け継がれているが、コンセプトは時代に合わせてかなり柔軟になっている。内蔵ミキサー部分をシンプルな状態にとどめて、あくまでもレコーダー機能の信頼性にウェイトを置いたデザインは大正解だと思う。中身はほとんどコンピューターでありながらバックグラウンドで余計なソフトが動いていないので、とにかく非常に安定した録音ができるのがいい。加えてこれまでプロ用として現場で使われてきたTASCAMブランドの音質/機能に対する安心感も大きい。機動性の高い本機で外部収録した曲を、自宅のDAWに読み込みじっくりミックスすることを考える人も多いだろう。このように既存のシステムとうまく共存できる柔軟なスペックを備えたX-48を、ぜひチェックしていただきたい。20070901-02-004

▲リア・パネル。上段左よりTDIF入出力(D-Sub 25ピン)×6、MIDI IN/OUT、TIME CODE IN/OUT(TRSフォーン)、FOOT SWITCH用端子(フォーン)、REMOTE用端子(RS-422/SONY 9ピン)、下段左よりVIDEO IN/THRU(BNC)、WORD SYNC IN/OUT/THRU(BNC)、S/P DIF IN/OUT(コアキシャル)、その下がMOUSE用端子(ミニDIN)、KEYBOARD用端子(ミニDIN)、OPTION用端子(D-Sub 9ピン)、VGA出力端子(D-Sub 15ピン)、イーサーネット端子(RJ45)×2、USB2.0端子×4、その右がFireWire端子×2、電源インレット

TASCAM
X-48
577,500円

SPECIFICATIONS

■記録メディア/内蔵ハード・ディスク・ドライブ(80GB)、外付けFireWire接続ハード・ディスク・ドライブ
■音声ファイル・フォーマット/WAV
■録音・再生チャンネル数/48
■量子化ビット数/16ビット、24ビット、32ビット・フローティング
■サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96kHz(±0.1%/±4%プルアップ/プルダウン対応)
■ワードクロック・リファレンス/Internal、WORD、Slot 1、Slot 2、S/P DIF、TDIF Port 1
■タイムコード・フレーム/23.976/24/24.975/25/29.97DF/29.97NDF/30DF/30NDF
■消費電力/150W
■外形寸法/483(W)×184(H)×439(D)mm
■重量/13.7kg