ハイテク素材の振動板を採用した高感度&低域豊かなリボン・マイク

CROWLEY AND TRIPPNaked Eye

日本での生産開始は約70年前というリボン・マイク。大変古いテクノロジーなのですが、その温かみのある音質が、ともすれば硬い音になってしまいがちなデジタル録音の弱点を補うものとして近年見直されてきています。今回紹介するNaked Eyeは振動板に話題のハイテク素材であるカーボン・ナノチューブを採用したリボン・マイクで、その構造および材質上の弱点を克服し、長所をさらに伸ばしたとのこと。早速チェックしましょう。

しなやかで弾力性に富む振動板は
カーボン・ナノチューブを使用


まず外見は、コンパクトな割にズシリと重く、マグネットやヨーク材をはじめとした素材に、コストを惜しんでいない感じが伝わってきます。円筒型にしたのは、ボディ表面を伝わる音波の回折現象までも考慮した結果でしょう。さて、音質のチェックに入る前にリボン・マイクは初めてという読者のために、一般的な長所と短所を書きます。まず、リボン・マイクではコンデンサー・マイクに用いられる振動板より1/2〜1/3程度の薄さの、軽質量アルミはくを振動板に使うため、高域成分への追従性が極めて高いのが特徴。音質は硬くなく、むしろ聴感上は柔らかで温かみのある音色となります。一般的にはボーカル録音に適していると言われており、ドラムのオーバーヘッドにもよく使われているようです。さらに、タンバリンや三味線などのアタック音をひずみ感少なめに収音することも可能です。Naked Eyeも含めてリボン・マイクは通常、かなり強力な双指向性を持っているのも特徴。背面の感度も正面と同じなので、音源との距離を調整するだけで、ルーム・アンビエンスと、直接音のバランスを良い感じで録ることができ、エレキギターのダビングなどで重宝します。サイドからのサウンドがほとんど入らないので、直接音は独特なオンめの感じで収録されます。また弱点としては感度が低く、ハム・ノイズや雑音を拾いやすい点、振動板が軽いため、風やファンタム電源によるショックなどで損傷しやすいところなどが挙げられます。さらに少しでも出力を大きくするためもあり、強力で大型のマグネットは必要不可欠。その結果、取り扱いにくくなるなど、優れた音質の反面、欠点も多いのです。さて、リボン・マイクの構造上の弱点の多くは薄く壊れやすい振動板にあるといっても過言ではありません。そこでNaked Eyeの開発者は、カーボン・ナノチューブというハイテク素材に目を付けました。これは炭素原子が筒状に結合した構造を持ち、非常に薄くしなやかで弾力性に富んでいるのが特徴。この素材の採用により、より強い振動板を獲得したNaked Eyeはリボン・マイクとして新たな可能性を得たのです。

豊かな低域のバランスが
リボン特有の高域とマッチ


Naked Eyeは振動板を向ける方向によって異なるサウンド・キャラクターによる録音ができるのも特徴の1つ。早速、実際に聴き比べてみましょう。まず、ロゴ・マークのあるマイク前面では、4kHzぐらいから高域が滑らかにロールオフしていくビンテージ系のサウンドが、後面では10kHzぐらいまでがフラットでモダンなサウンドが得られます。前面は子音を多く含む英詞のボーカル集音に最適で、後面は楽器の集音向きと言えるでしょう。音質面で感心したのは、どちらの面でも低域が豊かで(量が多いという意味ではなく)、特徴ある高域とのバランスを保っている点。40年前の東芝製リボン・マイクと比較してみたところ、トータルでは本機が勝っている印象です。また、弾力性に富んでいるので破損しにくい振動板にあやかって、一般的なダイナミック・マイクと同等の感度に仕上がっているのも扱いやすいし、アクティブ型にせずにわざわざコストのかかる高昇圧型トランスをオリジナル開発しているところにも、良いこだわりを感じます。またこのトランスには2重シールドを施してあり、その結果ハム・ノイズがとても少なく、感心です。とは言ってもNaked Eyeはあくまでリボン・マイクなので、取り扱いには十分な注意が必要です。誤ってファンタム電源を供給してしまうと振動板にダメージを与える可能性があります。いかにカーボン・ナノチューブと言えども油断は禁物なのです。最近はマイク・プリアンプ側に全チャンネル一括型のファンタム・スイッチしかない場合も多いので、本機のようなクラスのマイクであれば、それを防止する回路を組み込んでもよいのではと個人的には考えてしまいます。モダンなデザインの中に伝統的なこだわりを詰め込み、コスト・パフォーマンスに優れた製品。往年の名機がやたらと高価になってしまった事実を考えると、本機の存在価値が見えてきます。ただ、これだけのこだわりがあるなら、実際に購入する個体の周波数特性の実測値を付けても良いのではないでしょうか。
CROWLEY AND TRIPP
Naked Eye
オープン・プライス(市場予想価格/130,000円前後)

SPECIFICATIONS

■指向性/双指向
■周波数特性/30Hz〜15kHz
■インピーダンス/200Ω
■感度/51dB@1kHz
■最大SPL/126dB
■外形寸法/38(φ)×150(H)mm
■重量/432g