倍音をコントロールするVHDを搭載した4ch仕様のSSLマイクプリ

SSLXLogic Alpha VHD Pre

SSLのXLogic Alphaシリーズより1Uサイズ、XLRバランス入出力の4chマイクプリAlpha VHD Preがリリースされました。早速スタジオに持ち込んで、チェックしていきたいと思います。

シンプルなレイアウトながら
新機能のVHDを搭載


本機のフロント・パネルのレイアウトは非常にシンプルで、4ch分のインストゥルメント入力(リア・パネルのインプットと同時に接続した場合、自動的にフロント側が優先されます)、+20〜+75dB可変のインプット、±20dB可変のアウトプット、ギターなど楽器のライン入力時に使用するHi-Z、−20dBのPAD(オーバーロードするとボタンが赤く点灯)、48Vファンタム電源の各スイッチという、誰でもすぐ使用できるような構成になっています。本機の特徴となっているのがVHD(Variable Harmonic Drive)で、これは倍音を2ndハーモニクス(あまりエッジが無い柔らかな二次倍音)から3rdハーモニクス(ギラギラした硬質な三次倍音)まで連続可変の、同社Dualityなどにも搭載されている回路です。このVHDにより、クリーンなだけでなくさまざまなキャラクターの倍音を付加したサウンドを作れるようになりました。

無理なく伸びるハイエンド
音が太くなるHi-Zも好感触


今回は女性のピアノ弾き語り、saikaのレコーディングで使用しました。接続はSSL同士で比較したかったので、マイクの出力を分岐させてAlpha VHD PreとG Seriesコンソールに入力する形を採りました。マイクはファンタム電源の相互干渉を避けたかったので、3本ともNEUMANN U67でそろえました。出てきた音は全体にストレス無く伸びていて、非常につややか。嫌なピーク感や硬さが無く、素直に仕上げたいボーカルには最適です。ピアノに関しては、全体の特性が伸びているせいか通常よりも少し遠めに聴こえ、もう少しアタックが太めに聴こえたらいいかなと思いましたが、EQで補正できる範囲です。ここでG Seriesに切り替えてみると、中域のパワー感以外、両者にほとんど差が感じられませんでした。ボーカルに関してはハイエンドの伸びの奇麗さでAlpha VHD Pre、ピアノは中域の強さでG Seriesが好みでした。また、本機はアコースティック・ギターの録音にも向いています。高域がキンキンすることなくスーッと伸びており、無理にプリアンプで作った音ではなくマイクで狙ったイメージのままで聴こえてくるので、ほとんどEQせずに済みました。次にインストゥルメント端子を使用してみました。エレキギター、エレキベースをダイレクトに入力してのテストです。Hi-Zオフ時はありがちな細身の音ですが、オンにすると一転、音像が太くなり前に出てきます。インピーダンスがそろうことによりレベルも2〜3dB程度上がります。今まで何機種かインピーダンス切り替えのあるマイクプリを使用しましたが、ここまで良い方向に変化したのは初めて。これならばDIを用意できないプライベート・スタジオでのライン録音でも十分に使えるクオリティです。

多彩なサウンドを作れるVHDは
ミックスにも応用可能


いよいよVHDを使用してみます。通常の入力レベルではあまり変化が感じられないので、アウトプットを絞ってインプット・レベルを上げてみます。まずはツマミを2nd側に振り切った状態。ひずみが甘く耳障りになりません。ここからツマミを3rd側に回していくと、サウンドが次第に硬質になっていき、倍音の変化とともにリリースの聴こえ方も変わってきます。2nd側は実音と同じ長さで聴こえますが、3rd側は徐々にリリースが長く感じられてきます。次にPADを入れてミックスで使用してみました。DIGIDESIGN Pro Toolsからドラムとベースを送ってVHDで倍音を調整、Pro Toolsに戻すというやり方です。連続可変なのでおいしいポイントまでかなり追い込めますし、音が奥まった感じにならず好印象。3rd側はかなり過激なのでどうしても2nd寄りになってしまいますが……。また、レコーダーに戻す際にアウトプットの調整ができるのも便利。連続で倍音を変化させられるこのVHDは本当に良くできています。言ってみれば、無限の倍音をコントロールできるエフェクターを持っているのと同じことですから。本機にマイク入力が4ch分あるということは、楽器をマルチマイク、またはマイクとライン両方で録音することを想定しているはず。同一楽器への回線が2本以上になると必ず位相の干渉が起きますが、なぜかAlpha VHD Preには位相反転スイッチがありません。あれば使用範囲が格段に広がるはずなので、それだけは本当に残念です。あと、最近のマイクプリ全般に言えることですが、抜き差しの多い現場で機材に衝撃を与えないために、ミュートは欲しいところです。しかし、サウンドには十分なクオリティがあり、この価格でSSLサウンドが4ch分使用できるのであれば、自宅スタジオはもちろん、間に合わせのプリアンプを置いている商業スタジオの音質レベルも一気に上がるのではないでしょうか。今度はストリングスで試してみたいと思います。

▲リア・パネル。左より電源ケーブルのコネクター、アウトプット(XLR)×4、インプット(XLR)×4

SSL
XLogic Alpha VHD Pre
198,450円

SPECIFICATIONS

■チャンネル数/4
■ゲイン可変幅/+20〜+75dB
■入力インピーダンス(インストゥルメント)/1kΩ(Hi-Z入力時10kΩ)
■外形寸法/482(W)×44.5(H)×230(D)mm
■重量/2.6kg