自由自在なルーティングで多用途に対応するチャンネル・ストリップ

BUZZAUDIOARC 1.1

BUZZAUDIOはニュージーランドの比較的新しいブランドです。今回チェックするそのARC 1.1は、プリアンプ+EQ+コンプレッサー&リミッターが2Uに納められた、モノラルのチャンネル・ストリップ。私個人としては初めて使う南半球製の録音機材で、正直どんな物なのか?……という不安もあったのですが、フロント・パネルのデザインを見た途端、その先入観は間違っているのであろうと直感しました。

各ブロックに入出力端子を装備し
それぞれを独立して使用可能


まずは全体の回路構成を見てみましょう。プリアンプ部はXLR端子のMIC INとLINE INを独立して備えるほか、フロント・パネルに1MΩのINSTRUMENT INPUTを装備。MIC INには220Ω〜5.5kΩで連続可変するインピーダンス・マッチングのツマミもあります。EQは計5バンド構成。25〜450Hz(−12dB/oct)のハイパス・フィルター、シェルビングのLow、Hiに加え、2バンドあるパラメトリックのMIDはそれぞれ30Hz〜7kHz、160Hz〜34kHzと非常に広い範囲をカバーします。また各バンドごとにオン/オフおよびコンプ部のピーク検出回路へ信号を送るサイド・チェイン機能があります。コンプはオプト・タイプで、その後段にはFETタイプのリミッターを装備。最後のMAIN OUTPUTセクションにはゲインと位相反転スイッチ、そして出力トランスの有無を選択する“CLEAN/TRANNY”があります。ちなみに、各ブロックの入出力端子も用意されているので、それぞれを独立して使うこともできるという至れり尽くせりの構成になっています。

超高域まで操れる効きの良いEQ
クリアで近代的なオプト・コンプ


では実際に音を聴いてみましょう。まずはマイク入力した音をコンデンサー・マイクのNEUMANN U87Iとリボン・マイクのCOLES 4038で聴いてみましたが、基本的に輪郭がはっきりした、前に出るスピードの速い音。さらに連続可変のインピーダンス・マッチング・ツマミを回すことにより、GML的なハイスピードから、NEVE的太さまで好みに変化させることができるのです。これは特筆すべきポイント。このツマミの位置決めのセンス次第で素晴らしい武器となると思います。次はEQセクション。効きも良く、狙ったポイントを思い通りに変化させることができます。特に気に入ったのがMID BAND 2。私はミックスの際、PULTEC EQP-1A3でボーカルの超高域を調整するのですが、MID BAND 2で22kHzをブーストした感じは、それとはまた違った色気を出すことができるのです。例えるならSSL SL4000G+のEQで、Midバンドにある“×3”のボタンを押して超高域を処理したときと非常に似ています。同じSSLコンソールでも私の愛用するSL9000Jではこの感じは出せないので、これはとてもうれしいです。また、先述したサイド・チェインEQとして使うと、例えばボーカルではサ行を強調してサイド・チェインをかければディエッサーとして、キックの低域をカットして送れば低域は削らずタイトにコンプレッションできる、などといった使い方も可能となります。続いてオプト・コンプ部。アタックはSlow(70ms)、Fast(1ms)、Autoの3ポジション。リリースは100〜1,600msの5ポジション+Autoで、レシオは2:1〜20:1です。その後にFET動作のリミッターが備わり、コンプで逃がしたピークを抑えることができます。レベル・オーバー=ひずみとなるデジタル録音では、ありがたい組み合わせです。肝心の音質は非常にスムーズで、TELETRONIX LA-2Aのようなビンテージの系統ではなく、MANLEYに代表される近代的なオプト・コンプの音質。コンプレッションされた音はクリアにまとまり、塊となる感じです。個人的な好みとしては、もう少し早い設定のリリースが欲しいところですが、リミッターをうまく組み合わせれば目的の音は作れるので、その点はよしとしましょう。最後にMAIN OUTPUTセクションでのトランスの有無ですが、CLEANではトランスをバイパスして名前通りのクリアな音質で出力されます。一方、TRANNYでは出力ゲインの前段にトランスが挿入されるので、入力側のゲインを上げ気味にしてトランスをロードし、倍音の多いドライブ感ある音質を得ながら、最終的なレベルを適正で出力することができます。チェック前は海外のWebサイトなどで(日本円にして)50万円程度という情報も見ていたので、かなり厳しくチェックしていました。それ相応の第一線級の機材であるという結論に至ったのですが、この原稿を書くタイミングで実際の価格を知りました。ということで、ARC 1.1は価格以上の実力を持った素晴らしい機材であると結論を出させていただきます。

▲リア・パネル。左にグラウンド・リフト・スイッチと電源インレットが並ぶ。右の端子部は上段左からLINE LOOP OUT(XLR)、LINE IN(XLR)、MIC PRE DIRECT OUT(XLR)、MIC PRE IN(XLR)。下段左からSIDE CHAIN INSERT(TRSフォーン)、COMPRESSOR LINK(TRSフォーン)、MAIN OUT(XLR)、COMP OUT(XLR)、COMP IN(XLR)、EQ OUT(XLR)、EQ IN(XLR)

BUZZAUDIO
ARC 1.1
オープン・プライス(市場予想価格/346,500円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/MIC PRE IN→MIC PRE DIRECT OUT:3Hz〜400kHz(−3dB)、MIC PRE IN→MAIN OUT:4Hz〜400kHz(−3dB)、LINE IN(バランス)→MAIN OUT:3Hz〜250kHz(−3dB)、INSTRUMENT INPUT→MAIN OUT:9Hz〜300kHz(−3dB)
■最大マイク入力レベル/+14dBu
■最大バランス・ライン入力レベル/+23dBu
■最大出力レベル/+23.5dBu
■外形寸法/483(W)×88(H)×300(D)mm
■重量/約6kg