ルパート・ニーヴ氏が手掛けた小型マイクプリ&“VARI PHASE”DI

RUPERT NEVE DESIGNSPortico 5016

最近のアウトボードは古き良き時代の質感を持つか、それを踏まえて新しい発想を付加した機材などビンテージ色をちょっと押し出した機材が増えていると思います。RUPERT NEVE DESIGNSのPorticoシリーズも、あのルパート・ニーヴ氏が手掛けたということで注目している方も多いでしょう。今回は“5016”という独立したマイクプリとDIを各1chずつと“VARI PHASE”回路という新機能を搭載したモデルを紹介していきます。

新開発のDI/LINE部には
“VARI PHASE”回路を搭載


ハーフ・ラック・サイズの本機はマイクプリ×1ch、DI/LINE入力×1chの2ch仕様の複合機。DI入力と言えば、どちらかといえばマイクプリのおまけに近いような印象を持っている方も多いでしょう。実際に最近のレコーディングではベースのライン録音以外ではほとんど使わないと言ってもよいと思います。そんなDIですが、本機では堂々と1ch独立した形で搭載。このDI/LINE入力部は新開発で、マイクプリ部は基本的に同シリーズの5012や5032と同じ仕様です。また、共にトランス入出力仕様で、ニーヴ氏らしい作りになっています。なお、マイクプリ/DI共にバス・アウトがあり、CUE送りなどにも便利でしょう。基本的なコントロール系はマイクプリ部に一般的なGAINやTRIMに加え、PHASE、MUTE、ファンタム電源、可変式のHPFを用意。このシリーズのマイクプリではおなじみの“SILK”サーキットも搭載しています。特にMUTEはマイクをつなぎ替えるときに便利で、うれしいところです。DI部はGAINやGND LIFT、DI/LINEの切り替えに加え、新機能として位相差を調節できる“VARI PHASE”回路を搭載。電源をACアダプター化し、コンパクトなサイズを実現しながらも十二分の操作ができるようになっています。

非常にナチュラルな音でありつつ
ほんのりとしたNEVE感


今回はレコーディングとミックスの両方で使用してみます。まず録音で試すのはベース。ベースをDI入力に接続し、スルー・アウトからアンプに接続してラインとマイクの両方を録っていきます。こういった場合、ラインとマイクをそれぞれ別々に聴いていると特に気にならないのに両方をミックスしてみると中抜け気味の音になってしまうことがあります。原因はマイクとラインの位相のマッチングが悪いからで、ミックス時にDAW上で波形のタイミングを合わせて補正することもあります。そこで登場するのが“VARI PHASE”機能です。これは、DI/LINE部(75Hz〜30kHz)の位相を0度〜170度の連続可変で調整できるというもの。実際に音を聴きながらつまみを回すと音が前に出てくる位置があるのが分かります。通常ミキサーだと逆相しかなく、微調整ができません。プロはマイキングやEQなどで気にならないようにするわけですが、一発で実現できるわけです。VARI PHASEはライン入力時も可能なので、エレキギターでオンマイクとオフマイクの2本を立てたときの補正も試してみます。これも好結果で、オフマイク感がありながらも音が引っ込みません。なお、このときのライン入力は外部のマイクプリの後段に接続しています。このようなDIとしてだけでなく、いろいろ組み合わせることで一層使えるシチュエーションが増えそうです。続いて、ミックスでも活用してみましょう。実際にやって採用となったのが、ボーカル。DAWのアウトをパラって本機のマイク入力とライン入力のそれぞれに接続し、レベルを同じにした後でDAWにステレオとして入力します。そしてVARI PHASEを調整すると……音が立体的に広がってくるのです! ボーカルなので変に広がり過ぎてもダメですが、ほんの少しだけツマミを回してセンターにボーカルは居るけど、声が立体的に前に出てくるポイントに調整でき、良い感じです。なお、本機の総合的なサウンド・キャラクターについては、非常にナチュラル。味付けをするという感じではありませんが、あのNEVE感もほんのり味わえます。また、マイクプリ部の“SILK”機能については、オリジナルの状態から中高域が若干落ち着き、中低域がちょっと盛り上がるサウンドという印象。どちらかと言えばギスギス感が無くなるというイメージで、ビンテージっぽいと言われても納得できます。ただし、入力した音によってはあまり分からないときもありました。本機をいろんな状態で使ってみましたが、単一音源の複数のマイクやライン録りなどでものすごく威力を発揮してくれます。良いところをついている“VARI PHASE”です。逆に位相をずらして面白い音を作ることもできるし、発想次第でいろいろ使えるでしょう。この機能が本機ではDI/LINE入力のみですが、マイク入力にもこの機能が搭載されることを希望します。

▲リア・パネル。左からACアダプターのインレット、電原スイッチ、DI/MIC BUSS出力、DI入出力(XLR)、マイク入出力(XLR)。なお、Porticoシリーズではラック・マウント用のキットなども多数用意されている

RUPERT NEVE DESIGNS
Portico 5016
オープン・プライス(市場予想価格/168,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/18Hz〜160kHz(−3dB:マイクプリ)、〜160kHz(−3dB:ライン入力)、10Hz〜200kHz(±0.5dB:DI入力)
■最大出力レベル/+24dBu(20Hz〜40kHz)
■外形寸法/238(W)×44(H)×240(D)mm(つまみ含む)
■重量/約2kg