トラック制作〜CD作成まで対応する気鋭オールインワン・サンプラー

ROLANDMV-8800

2003年の発売以降、ヒップホップやR&Bのトラック・メイカーたちから高い信頼を得ているサンプリング・ワークステーションMV-8000が、高水準なサンプラー/シーケンサーはそのままに、さらなるパワー・アップを遂げMV-8800としてリリースされました。DAWやソフト・サンプラー全盛時代にあえてハード・サンプラーを発売するのですから、それらに負けるとも劣らない良さがあるに違いありません。

MV-8000のサンプラー部を継承しつつ
ドラム・キット数を大幅に増強


早速、開封してセッティングしてみると、大きなボディの割には意外と軽く、同社のシンセであるFantomシリーズなどと同様の渋いカラーリングが好印象。トップ・パネル下部のちょっとしたスペースは手や肘を置くのにちょうどいいですね。電源を入れるとまず最初の驚きが。そう、MV-8800はデスクトップ・サンプラー初のカラーLCDディスプレイを搭載しているんですね! なおかつ320×240ドット仕様なので視認性も抜群(画面①)。そして、収録されているデモ曲を聴いて2つ目の驚きが......本機の目玉の1つでもある、プロデュース・チームOCTOPUSSYとエンジニアD.O.I.氏によるデモ曲は、確実に"デモンストレーション"の域を超えており、本機の可能性を十二分に感じさせます。また本機にはD.O.I.氏によるマルチエフェクト/マスタリング・ツール・キットのオリジナル・パッチも収録されています(roland.jp/link/MV-8800にはその解説もアップ)。▲画面① LCDディスプレイの表示例。左上から時計回りに、打ち込んだリズムなどのパターンを並べて楽曲の構成を作るPATTERN画面、サンプルを波形表示して編集が行えるAUDIO PHRASE EDIT画面、パッドに割り当てたサンプルのフィルターやアンプ・エンベロープ設定ができるPARTIAL EDIT画面、ピアノロールに沿ってMIDIプログラミングができるPIANO ROLL EDIT画面。ディスプレイはカラー表示なので視認性が高く、快適にトラック・メイキングが行えるだろう 次にスペックを見ていきましょう。サンプラー部は16ビット/44.1kHz、最大同時発音数は64。最大サンプリング時間は標準(128MB)で約24分、最大拡張時(512MB)で約100分(共にモノラル時)。サンプルはパネル上のパッドにアサインして鳴らすことが可能ですが、ボーカルなどの長尺フレーズを直接録音できるオーディオ・トラックも8つ備え、本格的な楽曲作りにも対応します。シーケンサーの仕様はMV-8000と同様、分解能は480ティック/4分音符、最大記憶音数は約150,000音と十分なスペックです。エフェクトはディレイ/コーラス/マルチ(25種類)の独立した3系統を備え、マスタリング・ツール・キット1系統も用意。マスタリング・ツール・キットは本機で作成したソングを内蔵のCD-R/RWドライブでオーディオCDに焼く際に重宝します。インポートできるサンプル・フォーマットも多彩で、WAV/AIFFファイルをはじめ、ROLAND S700シリーズ、AKAI PROFESSIONAL MPC2000(XL)、S1000、S3000用データを読み込み可能。またUSB端子と40GBの2.5インチ・ハード・ディスクも標準装備されているので、パソコンとのオーディオ・ファイルのやり取りやデータ・バックアップができ、大容量の楽曲データでも用途に合わせた管理が可能となっています。ここで本機をMV-8000と比較してみると、ドラム・キット数が11から61へと大幅に増えたことが大きなトピックです。TR-808やTR-909などROLAND往年のリズム・マシンの再現から、レゲトンやテクノなど最近のトレンドに対応したものまで多彩なキットがあらかじめ収録されており、"即戦力"として使える音がてんこ盛りです。さらにVGA出力とマウス端子が標準装備されているので、別売の汎用的なVGAディスプレイと接続すればDAWさながらのマウス操作が可能となります(マウス&マウス・パッドも同梱/写真①)。また今回は試す機会がありませんでしたが、インポートした静止画(BMP/JPEG)をシーケンサーやパッドと連動させてVGA端子から出力できるピックス・ジャムなる機能も搭載されているので、音と映像をシンクさせたパフォーマンスも可能でしょう。▲写真① 汎用的なVGAディスプレイ(別売)を接続すれば、大画面を見ながらマウスを使ってDAWさながらのオペレートが行える。マウス&マウス・パッドは標準で同梱

原音に忠実なサンプリング・サウンド
チョップなど編集機能も充実


では、実際にサンプリングしていきましょう。まずはリア・パネルにあるフォノ・インプット(RCAピン)にターンテーブルをじかに接続し、レコードから1小節のドラム・ブレイクをサンプリングしてみます。他の機器を経由することによる色付けやノイズの混入を避ける意味でも、ターンテーブルを接続できるフォノ・インプットは便利。もちろんマイク/ライン接続用インプット(TRSフォーン)も用意されています。サンプリング後のサウンドを聴いてみると、低域〜高域まで元音を忠実に再現しており、どのジャンルでも使いやすそうです。次に、取り込んだフレーズを音量レベルに応じて自動的に切り分けてくれるチョップ機能を使って、バスドラ/スネア/ハイハットなどの単音へ切り出してみます。もちろん分割ポイントが気に入らなければリセットできるし、波形を見ながらVALUEダイアルで微調整も可能なのでトライ&エラーで進め、イイ感じに切り出すことが可能。切り出した単音はパッチとして、パッドへとアサインすることができます。ちなみにオーディオCDからのサンプリング時に、無音部分で波形を自動的に分断してくれるオート・デバイド機能と、オート・ノーマライズ機能を組み合わせてみたところ、分断されたサンプルそれぞれに対してノーマライズ処理がされてとても便利でした! ほかにも多彩なサンプル加工ができ、タイム・ストレッチやフェード・イン/アウト機能などももちろん用意。加工したサンプルは上書きせずに新たに保存もできるので、納得いくまで試せるでしょう。フィルター、エンベロープ、LFOなど細かなシンセサイズも可能です。次に上ネタとなるようなフレーズを取り込んで、BPMシンク機能を使ってみました。この機能をオンにすると、ピッチ固定でタイム・ストレッチができるようになるので、自動的にシーケンサーのテンポに同期してオーディオ・フレーズが再生されます。実際に取り込んだフレーズでこの機能を使ってみると、シーケンサーのテンポにばっちりシンクされています! 筆者はこれまで微妙にテンポの違うフレーズ同士を合わせる場合は、何十分もかけて細かくチョップし、つなぎ直してテンポ修正をしていたのですが、これはホントに一瞬でテンポを変えることができてしまいました。もう今までの苦労を返してくれ!といった感じです。テンポを大幅に下げるとエフェクティブな音になるので、これで面白いフレーズを作ったりするのも楽しそうですよ。

パッドをたたいてサクサク打ち込み
ミックス作業も直感的に可能


今度は先ほど分割したドラム・パーツをピアノロール画面でパッドを使いながら、ノークオンタイズでバシバシ打ち込んでみました(ステップ・レコーディングも可能)。本機には元の演奏データを変更せずに再生時にのみ補正をかけるプレイ・クオンタイズという機能があるので、入力後にいろいろなノリを試すことができて便利です。こうして組み立てたシーケンス・パターンはパッドで切り替えたり、トラックのミュート、ソロのオン/オフもできるので、ライブ・パフォーマンスなどでも使ってみたいと思いました。MIDIトラックもオーディオと同じ画面でシームレスに扱える作りになっており、DAWのようにオーディオ/MIDIフレーズを張り付けていく感覚で作曲することも可能です。さて、作業は終盤に。各パートのEQやパンを調整しつつ、トップ・パネルのスライダーで音量バランスをとってみます。この辺はまさにミキサー感覚。パラメーターの変更操作をMIDIトラックに記録できるので、レベルなどのオートメーションがDAWさながらにできちゃいます。音質調整後、試しにマルチエフェクトをかけてみましたが、単体で買っても結構な値段のしそうなイイ感じのエフェクターが幾つかあり、個人的に"Tape Echo 201""Lo-Fi Processor"が気に入りました。最後にマスタリング・ツール・キットを使ってWAVファイル化したものをCD-Rに焼いてみました。音質、音圧ともにバッチリで、サンプリングからオーディオCD作成までがホントに1台で完結できたのは大きな驚きでした。機能を一通りチェックしてみて、"DAWに寄りかかることのないデスクトップ・サンプラー"といった印象を受けました。前述したように外部ディスプレイを併用すれば操作はDAWそのものといった感じで、さらなる視認性と使い勝手の良さが保証されるでしょう。音に関してはクセが無く使いやすいので、逆に使い手の個性が反映されやすいのではないでしょうか。

▲リア・パネル(写真はオプション・ボード装着時)。上段は左からPS/2マウス入力、VGA出力、USB、フット・スイッチ、S/P DIFデジタル出力(オプティカル/コアキシャル)、ヘッドフォン、マスター出力R/L(TRSフォーン)、マイク/ライン入力R/L(TRSフォーン)、フォノ入力R/L(RCAピン)。下段は左からMIDI OUT×2、 MIDI INで、ここまでが標準装備の端子群。その右以降の端子は別売のオプション・ボードMV8-OP1(41,790円)によって追加されるもので、S/P DIFデジタル入力(オプティカル/コアキシャル)、アナログ・マルチ出力×6(TRSフォーン)、R-BUS(D-Sub 25ピン)

ROLAND
MV-8800
オープン・プライス(市場予想価格/250,000円前後)

SPECIFICATIONS

●サンプラー部
■サンプリング周波数/44.1kHz
■ビット・デプス/16ビット
■同時発音数/64
■パート数/16(インストゥルメント)+9(オーディオ・トラック)+1(オーディオ・フレーズ)
■エフェクト/マルチ・エフェクト(MFX)=1系統(25種類)、コーラス=1系統(2種類)、リバーブ=1系統(4種類)、マスタリング・ツール・キット=1系統(マスタリング時のみ)
●シーケンサー部
■トラック数/ソング(MIDIトラック=128、オーディオ・トラック=8、パターン・トラック=1、テンポ・トラック=1、ミュート・コントロール・トラック=1)、パターン(MIDIトラック=64、オーディオ・トラック=1、ミュート・コントロール・トラック=1)
■分解能/480ティック/4分音符
■最大記憶音数/約150,000
■ソング長/9,999小節
■外形寸法/480(W)×136(H)×482(D)mm
■重量/9kg(オプションを除く)