今回レビューする製品は、資料によるとパワードのスタジオ向けニアフィールド・モニターでありながら“DJのために”設計されたというもの。ここでの“DJのために”という言葉は、つまりリミックスやトラック制作などに使用できるクオリティという意味で、既に興味津々。あえてジャンルを指定して作られたこのモニターが果たしてどんな活躍をしてくれるのかチェックしていきたいと思います。
しっかりとしたステレオ感や
中域での粒立ちの良さが魅力
まずは箱から取り出してみた印象。シンプルな面持ちのあっさりしたデザインですが、どんな音がするんだろうというワクワク感はあります。逆にこれぐらいシンプルな方が余計なイメージに惑わされずに済むというものでしょうか。電源を入れると点灯するブルーのランプが印象的です。形式は２ウェイ・アクティブ方式で、ツィーターは25mmのネオジウム・ソフト・ドーム型、ウーファーは152mmで、素材にはグラスアラミドを採用とのこと。入力端子はXLR、TRSフォーン、RCAピンの３種類を用意しています。パワードの製品なので外部パワー・アンプを使わなくても即座に音が出せるのがうれしいですね。DJとしてトラック制作もされている人は、ふとした瞬間に“これだ！”と思った音をすぐにトラックに反映させたいという事態も多いはず。余計な接続に煩わされることなく、ダイレクトに作業できるのは大きなメリットになると思います。僕個人としても普段からパワード・モニターをメイン機材として作業しているので、違和感無くすんなりと受け入れられました。資料によると“ATM.6は着色や歪みがなく、フラットで滑らかな周波数特性を持ったきわめて明瞭なオーディオ再生を提供します”とのこと。まずはお気に入りのCDなどを再生して音質の特徴を見てみましょうか。音の第一印象は“なるほどー”という感じ。とは言っても、つまらないとかそういうことではありません。トータルとしては各帯域の再生バランスが良く、左右の広がりのステレオ感もしっかりしていると思います。音色の配置も分かりやすいですね。中域に若干張りの強さを感じますが、実際の制作作業に使う上では問題無いでしょう。むしろこの粒立ちの良さはプラスになるのでは。10枚ほどCDを聴き込んでみてからの感想は、それぞれの作品の特徴を無理なく再現できているなという感じです。特に自分がリファレンス用として、よく聴いているアルバムの印象もバッチリ。程よく再生されます。
リズムの瞬発力やニュアンスなどでの
存在感ある音の立ち上がりが特徴
ここまではお手並み拝見といったところなので、続いて制作工程での真価をチェックしてみたいと思います。まず、リミックスなどの作業で重要なリズム制作から。リズム制作は音源を使用する人もいれば生のリズムでいく人、サンプリング音源をループで使う人もいます。今回はE-MU MP7、ROLAND TR-808といった音源を使用してチェックしてみましょう。再生してみるとリズムの瞬発力が良い感じですね。キビキビしているし、グッと来てほしいところをちゃんと再生してくれます。低域の表現にしても、無理に出している感じは無く、あくまでも音源の持っている特徴が素直に出ていると言えましょう。また、E-MU Proteus 2000などを使ってチェックしたベース・サウンドも、シンベ、生ベースのシミュレーションを問わず、低域はもちろん、そのラインをもきちんと表現してくれます。プログラミングによる細かいニュアンスのフレーズなども作り込みやすいのではないでしょうか。サンプリングに関しては、フレーズであれワン・ショットであれ、その“ネタ”を吟味するときにとても判断しやすくなっているなと思います。シンセやエレピ、ギターなどという曲のキモとなる音の帯域に関しても、主張の仕方がイヤラシくなく、ダンゴにならずきちんと再生されているところにも感心。これならば、キモの部分に生楽器の演奏を使うにしても、サンプリング・ソースを使うにしても作業はしやすいはず。さて肝心のボーカルのチェックには、リミックスに向いているとうたっているので、自分の作品のセッション・ファイルを使用。再生してみると違和感は無く、歌は歌として、ちゃんとその存在が立ち上がるように再生されている感じです。リミックスという制作方法は、ときにオリジナルを超えてしまうこともあり、現代の音楽制作では重要な位置を占めています。それに加えて、プリおよびポストプロダクションと実際の制作作業との垣根が無くなってきているのも現状です。どれだけのクオリティを求めるかにもよりますが、音の良さと価格を考えてみるとコスト・パフォーマンスは非常に高く、むしろ同じ価格帯でこれほど使い勝手の良い製品もほかにはそう無いのでは。メインとしてもサブとしても、このモニターはさまざまな場面で活躍できる製品と言えるでしょう。
SPECIFICATIONS
■形式／２ウェイ・アクティブ方式
■アンプ部出力／18W（HF）、50W（LF）
■周波数特性／49Hz〜20kHz（±1.5dB）
■入力インピーダンス／10kΩ（バランス＆アンバランス）
■外形寸法／270（Ｗ）×380（H）×310（D）mm
■重量／10.4kg
