アナログでブーストする喜びを再認識させる2ch仕様の4バンドEQ

NEVE8803

NEVEという名前を聞いただけで安心感を覚える。私の古巣、東芝EMIの3stではオールドNEVEと呼ばれるカスタムの8078が、現在も行き届いたメインテナンスによりしっかりと稼働している。ほかにもコンプの33609、EQ&マイクプリの1073、1081などにも助けられこれまで良い録音ができたと自負している。そんなNEVEからの新製品となる2ch仕様の4バンドEQ、8803を試聴した。私がEQに求めるのは、原音をいっそう引き立たせる効果があり音楽を壊さないこと。当たり前だが、音が良く位相がしっかりしていることである。

8108のEQをベースに
88RSのオペアンプを採用


本機はライン入力のEQでマイクプリは装備されていない。何とこの8803は8108コンソールのEQ部分をベースに(その昔、東芝EMIの2st、六本木のセディック・スタジオにあった名機、随分とお世話になった)、ロンドンのエアー・スタジオに導入された同社の最新コンソール=88RSのオペアンプを入出力段に使用しているそうだ。1Uで奥行きは240mmとコンパクト・サイズながら2ch仕様。フロント・パネルはあのNEVEカラーで、右にあるNEVEマークの電源スイッチが赤く光っておしゃれだ。構成は左からクリップLED、シグナルLED、バイパス・スイッチ、インプット・ゲイン、ハイパス/ローパス・フィルター、4バンドEQが同じ配列で2ch分並んでいる。インプット・ゲインは±20dB。フィルター・セクションはおのおののつまみを押すことでオン/オフでき、オンで赤色LEDが点灯する。ハイパスは30Hz〜300Hz、ローパスは1.5kHz〜18kHz、どちらも12dB/octである。ハイパスが少し下の20Hz〜、ローパスももう少し上の〜20kHzあたりにしてほしい気もする。EQセクションのHFとLFはゲインのつまみを押し込んでベル/シェルビングの切り替えが、周波数ボリュームでHI Qの切り替えが可能で、それぞれ黄色のLEDで表示される。また、LO MID(120Hz〜2kHz)とHI MID(800Hz〜9kHz)には可変Qボリュームが付く。ともに0.3〜7.0の幅でQをコントロール。このQは左に回すと広く、右に回すと狭くなるというAMEK System 9098 Equalizerと同じ、SSL Logic FX G383とは逆の仕様で、EQのゲインはすべて±18dBとなっている。背面には専用電源のインレット、アース・スイッチ、コンピューターとの接続用USBコネクターなどが並んでいる。オーディオ・インプットはXLR/TRSフォーンのコンボ、アウトプットはXLR/TRSフォーンがパラで出力されるタイプが2ch分。専用電源は73(W)×44(H)×165(D)mmの大きさで、何と36V仕様となっている。

出音のレンジは広く
EQの効きもスムーズ


今回の試聴はほかの機器とも聴き比べたいため、System 9098 Equalizer、Logic FX G383、AVALON DESIGN VT-737SP、API 550、TL AUDIO N1など私が普段よく使用する機材を並べて行った。DIGIDESIGN Pro Toolsの出力をそれぞれの機器に入力し、ゲインをそろえたアウトプットをセレクターに入れ、切り替えながら聴いてみた。いや実に楽しい! それぞれのキャラクターが見えてくる。8803はレンジが広く、EQの効きがスムーズである。女性ボーカルで試してみると、イメージはSystem 9098 Equalizerに近い。クリアでいて太く、声が一歩前に出てくるような感じさえする。歌ものを手掛けることが多い私にはうれしいことで、お世辞でなく、名機に勝るとも劣らない良い表現をしている。次にベースでの試聴では本機が一番いい感じになった、感覚的に一番近いのがN1。これも中身はNEVE系で、低域の豊かさもありつつ、なおかつエッジが出る。使い方として面白いのは、HFをベルでHi Qにして2.2kHz辺りを上げると、音程感も伝わりグルーブ感も増してくる。思い切ったブーストも可能で、メーターの振れ方より前に出てくる印象。音のうま味成分を逃がさないNEVEマジックなのだろう。“ラジカセでも聴こえるベース・ライン”をテーマにしている私としては、とてもうれしい。キックでも試したが、低域を上げてもダンピングが早くもたつかない。この立ち上がりの早さは、ほかにはないもので好印象である。そして、USBコネクター。これはNEVE Recallというソフト(Windows/Mac対応)で設定をトータル・リコールするためのもの。起動すると現在接続されている機器、本機の場合は8803のフロント・パネルが表示され、GOをクリックするとセーブするかロードするか尋ねられる。試しにセーブしてつまみを動かした後ロードし直すと、実機のつまみ位置と一致していない個所が一目で分かるように表示され、合致するとつまみが消えるという仕組み。このファイルをDAWのセッション・データのフォルダーに入れておけば、作業のリコール性が大幅に上がるだろう。以上、アナログEQの良さ、プラグインとはひと味違う効きを久しぶりに体感した。ローをブリッと上げる喜びを再認識。2ミックスにトータルで色付けするのにも使えるし、DAWのプラグインEQで四苦八苦しているのであれば、一度外に出して本機を通してみてはいかがだろうか。やはり音楽を知っているメーカーはすごいと感じた。

▲リア・パネル。左よりch2のアウトプット(TRSフォーン、XLR)、インプット(TRSフォーン/XLR・コンボ)で、右のch1も同構成。その右がコンピューターとの接続に使用するUSB端子、アース・スイッチ、電源用インレット

NEVE
8803
オープン・プライス(市場予想価格/370,000円前後)

SPECIFICATIONS

■インプット・ゲイン/±20dB
■ハイパス・フィルター/30Hz〜300Hz 12dB/oct
■ローパス・フィルター/1.5kHz〜18kHz 12dB/oct
■外形寸法/482(W)×44(H)×240(D)mm
■重量/2.5kg