パッシブ/アクティブの両方式を併せ持つビンテージ・テイストのEQ

CHANDLER LIMITEDGermanium Tone Control

CHANDLER LIMITEDは、イギリスEMIのアビイ・ロード・スタジオのコンソール、TGシリーズを復刻したことで有名なアメリカのメーカーです。同社のデザイナー、ウェイド・ゴーク氏は、NEVEのリプロダクト・モデルを手掛けているBRENT AVERILLのブレント・アヴェリル氏の下で働いていたという経歴の持ち主。自身でもNEVE 1073や2254を再現し、それらをLTDシリーズとして発売しています。そして、彼のビンテージ・サウンド追求の真骨頂と言えるのが新しいGermaniumシリーズ。今回テストするGermanium Tone Controlは、先に発売されているGermanium Pre Amp/DIのサウンドを継承したEQとしてリリースされた製品です。“Tone Control”と銘打たれていることからも、ただのEQではないというこだわりが感じられます。

ゲルマニウム・トランジスターを採用
倍音の調整が可能なライン・アンプ部


では、本機の概要から説明しましょう。コントロール部は大きく3つのセクションに分かれています。まず一番左がライン・アンプ部。大きな特徴とも言えるGAIN(GERMANIUM DRIVE)、そしてFEEDBACKという2つのツマミでサウンドをコントロールしていきます。GAINを上げるとゲルマニウム・トランジスターのカラーが増していき、FEEDBACKを上げると倍音が増幅するといった感じで、同じ音量であってもこの2つのゲイン・バランスで全く違う音質や音圧を得ることができるというものです。特性としてはGAINを上げて行くとハイエンドがスムーズに強調されていき、FEEDBACKを上げて行くとローエンドが多少強調されるのと同時にハイエンドが多少ロールオフされていきます。次にEQセクション。THICK(低域)部はパッシブ・タイプのEQ、PRESENCE(中域)、TREBLE(高域)部はアクティブ・タイプのEQとなっていて、これもまた本機の大きな特徴となっています。THICK部はTHICK CUT(20〜320Hz)とTHICK BOOST(35〜220Hz)に分かれていて、BOOSTはベル・タイプとシェルビング・タイプの選択が可能。さらにCUTとBOOSTが独立したINDEPENDENTモードと、PULTECのEQのようにBOOSTとCUTがお互いに干渉し合い、通常のEQでは得られないサウンドが作り出すことのできるINTERACTIVEモードという、2つの使い方ができます。一方、PRESENCEは300Hz〜8.3kHz(±15dB)、TREBLEは3.9〜20kHz(±18dB)で、TREBLEはベル・タイプとシェルビング・タイプの選択が可能。アクティブEQだけでも中低域からハイエンドまで広くカバーしています。全体を完全にバイパスするスイッチはありませんが、パッシブ部(THICK)とアクティブ部(PRESENCE&TREBLE)で個々にバイパスすることが可能となっています。また、電源は専用電源ユニットPSU-1(オープン・プライス/市場予想価格26,040円前後)から供給します。PSU-1はほぼハーフ・ラック・サイズで、100V仕様。2台の同社製品に電源供給が行えます。

FETとも真空管とも異なる質感
シルキーな高域が特に好印象


実際に使用した印象としては、まずハイエンドの伸びのシルキーなところが大変気に入りました。空間のエア感を持ち上げるのに特化してもいいし、逆にヒス・ノイズなどをカットするのにもとても良いです。決してピーキーにならず、滑らかで、音にさらなる存在感を与えてくれる感じがします。例えば、アコースティック・ギターではブライトさが増し、張りのあるナチュラル・トーンを生み出してくれました。低域の質感も嫌味の無い感じです。真空管機材のようなファットでずぶといサウンドというよりは、すっきりしていながら音に安定感を持たせてくれました。THICKのINTERACTIVEモードにおいては、PULTEC EQP-1A3のQカーブよりもエッジが効いていて、とてもサウンド・メイクしやすい印象。ベースなどの低音楽器ではよりグルーブ感が増しました。また、PRESENCEを上げていくと、音像が何歩か前に出てくる感じに。ボーカルを通してみると、変な位相差も無く上質な真空管マイクを使ったかのようになりました。全体としてはEQの周波数ポイントも適切で、ソースを選ばないと思います。今回は1台=1chでのテストだったので、ステレオ・ソースのものを試すことができなかったのですが、アコースティック・ピアノやストリングスなどでも効果は絶大だと思われます。マニュアルにはユニティ・ゲインのセッティングが幾つか掲載されていたのですが、基本はGAIN=5、FEEDBACK=5を起点に自由な発想で音の質感を探っていくと楽しいでしょう。そのとき注意しなければいけない点は、アウトプット・レベルの管理。GAINとFEEDBACKで音作りしてからEQでブーストすると、出力が大きくなり過ぎるいう事態が起きてしまうこと。アナログ・コンソールのインサートではそれが味にもなりますが、DAWに直結して使用するときはADコンバーター前段などでのオーバーロードによって意図せぬひずみが生じたりします。その際には本機の後段にレベルをアッテネートできるものをインサートして対処するとよいかもしれません。現在発売されている多くの音響機器では、増幅回路にトランジスター(主にFET)を用いてツヤのあるパリッとしたサウンドを生み出しています。また、真空管を使用し、時代とは逆行しているが音に太さや倍音を与えてくれるという製品も数多く存在します。そんな中、このGermanium Tone Controlはそのどちらとも言えない、今までに味わったことのない全く新しいサウンドを与えてくれる“トーン・コントローラー”ではないでしょうか。周波数を追うのではなく、耳で音を追っていく製品だと思います。

▲リア・パネル。左から出力端子(XLR)、電源入力(XLR4ピン)、入力端子(XLR)

CHANDLER LIMITED
Germanium Tone Control
オープン・プライス(市場予想価格/210,000円前後)

SPECIFICATIONS

■外形寸法/483(W)×44(H)×296(D)mm
■重量/約4.8kg(本体)