単一指向/無指向の交換カプセルを付属したコンデンサー・マイク

RODENT55
RODEは1990年の設立から現在に至るまで一貫して低価格ながらハイクオリティなマイクを発表し続けている、ユーザーにとって非常にありがたいメーカーである。製造過程ではオーストラリアのシドニーにある自社工場でダイアフラムの設計/製造からパッケージングまでのすべてを行いつつも、大量生産することによってコスト・ダウンを実現しているとのこと。また、ラインナップも豊富で、これまでさまざまなロケーションに対応したユニークな仕様のマイクの数々を提供している。今回チェックするNT55はドラムのトップやアコースティック・ギターを録るのに適したステレオ・ペアのコンデンサー・マイクNT5をベースに開発されたモデル。では、チェックした印象をお伝えしよう。

簡単に取り換え可能な
単一指向/無指向の付属カプセル

NT55のケースは黒く塗装されたアルミ製で、中はスポンジ状になっており、マイク本体とマイク・ホルダー、そして2つのカプセルが収められている。まず特筆すべきは12.7mm径の単一指向性のダイアフラムと無指向性のダイアフラムのカプセルを取り換える仕様になっているところだ。カプセルの交換はNT5でも可能だったが、NT5は無指向性カプセルがオプションだったのに対し、NT55は標準で付属している。また、カプセル装着時で重量は110gと一般的なコンパクト・マイクと重量感は変わらない。デザイン的には、本体に刻印された社名のロゴやシリアル・ナンバーが高級感を醸し出している。

そして、75/150Hz(−12dB/oct)のローカット・フィルターと−10/−20dBのPADを装備。PADとローカット・フィルターのスイッチは簡単にオン/オフできないように可変部分がへこんでおり、ドライバーなどで切り替え可能だ。例えば、ライブ会場のようにマイキングをバンドごとに変える必要のある現場などでも安全にセッティングができるだろう。

なお、カプセルの交換は至って簡単。カプセルは回すと外れるので、目的に合わせて任意のカプセルを装着するだけだ。

アコースティック楽器にマッチする
クリアで繊細なサウンド

早速、音をチェックしてみよう。まずはアコースティック・ギターを用意した。余談だが、なぜ私が最初にアコギでチェックをするかというと、アコギ(金属弦)は非常に幅広い周波数特性を持っていて、繊細なアルペジオやダイナミックなストロークなどプレイ・スタイルを変えるだけで、そのマイク特性のほとんどが分かるからだ。ギタリストならではの感性なのかもしれないが、ウンチクはこれくらいにして、アルペジオと軽い指弾きから。

付属のマイク・ホルダーにNT55を装着してみると、締め付け感が良く安定した感じだ。カプセルは単一指向性のものを装着し、オンマイク気味のセッティングからスタート。音色を確認したところ、スペックにダイナミック・レンジは“121dB”と書いてあった通りに深い音圧感を感じることができる。繊細なプレイだったのでマイクプリのゲインを上げ気味にしていたにもかかわらず、ノイズも少なくクリアである。音色は低域が若干物足りない印象を受けるが、小口径のダイアフラムのマイクとしては上出来だろう。素直な音で、非常にブライトな印象だ。

続いて、マイクを50cmほど離して、強めのストロークを収録してみる。カプセルは同じく単一指向性のものを装着。音色をチェックしてみると先ほど(オンマイク)よりも好印象だ。前述の通り優れたダイナミック・レンジで繊細に録れている。派手なストロークの音もつぶれることなくしっかりと収録されているし、当たり前ではあるがダイアフラムが小口径なので、音の立ち上がりも大口径ダイアフラムのコンデンサー・マイクよりも速い。それに、低域の物足りなさも解消されている。マイキングによって収録されるサウンドの周波数特性は変わるので(当たり前ではあるが)、いろいろな角度で試してみたが、やはり印象は良い。

最後に無指向性のカプセルを装着して、ライブ・レコーディング時のエア・マイクとして使ってみよう。場所は代官山のUNITで、バンドは私が長くプロデュースをしているdipのワンマン・ライブ。録音を目的としたライブではなかったので、PAコンソールから数チャンネルの出力をもらい、ミキサー一体型MTRに収録するという簡易的なシステムだ。比較対象になるか分からないが、私が所有する同社のNT2を一緒にセットしてみた。

単体マイクプリを使わず、同一のPAコンソールのヘッド・アンプを使用し、PAコンソールからMTRのミキサーに直接ワイアリングしているので条件は一緒。しかし、インピーダンスの違いなのか少々NT55の方が入力レベルが小さかったので、トリムで調整する。静かめの曲ではダイナミック・レンジは両方とも変わらない印象だが、中高域の伸びは明らかにNT55の方が良い。爆音系の曲になるとその差は歴然で、音の立ち上がりや飽和感などはNT55に軍配が上がる。NT2は購入してから時間がかなり経っているため、比較対象としては最適ではないとはいえ、NT55がライブといったロケーションでの使用にも十分対応できることが分かった。

総評としてNT55の繊細なサウンドはアコースティック系の楽器に向いていると言えるだろう。今回使用していて、生ドラムのハイハットやトップ、ピアノにも試してみたくなった。生楽器もガンガン録音したい人にお薦めできるマイクだ。

RODE
NT55
オープン・プライス(市場予想価格/29,800円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■入力感度/−38dB(0V=1V/Pa)
■出力インピーダンス/100Ω
■最大音圧レベル/136dB
■ダイナミック・レンジ/121dB
■外形寸法/20(φ)×145(H)mm(カプセル装着時)
■重量/110g(カプセル装着時)