DAWシステム直結を想定した小規模スタジオ向けキュー・ボックス

CONISISCOM1805

CONISISは、NEVE V3コンソールのヘッド・アンプ、コンプ、リミッター・モジュールをラック化した製品などで知られるブランドです。こうしたいわゆるノックダウンものだけでなく、カスタム・メイド、特注品など、この世に二つと無いオリジナル機器制作を得意としています。同社が繰り出す新たな製品が、このスタジオ・キュー・システムCOM1805であります。

D-Sub 25ピン端子で
アナログ8chをシンプルに入力


スタジオ・キュー・システムと聞くと難しく大掛かりなものをイメージしますが、要はレコーディング時のヘッドフォンによるモニタリング環境を充実させるシステムです。普通、マイクでの録音時には、スピーカーからの音がマイクに回り込まないように、ヘッドフォンでモニターします。多人数で同時に録音する場合、ヘッドフォンへの出力を分配する必要がありますが、単に分けただけでは当然出力される音声は同じもの。そのモニターしている音のミックス・バランスが聴いている人間すべてに演奏しやすい状態かと言えば、疑問が残ります。それなら、ヘッドフォン内のバランスを、プレイヤー自身が調節できれば良いわけで、モニター用のミキサーが手元にあればそれが可能になります。まさにその通り、キュー・システムの大本の発想はそこにあるのです。大規模なスタジオ向けのキュー・システムは、ラック・マウントの"マスター機"と小型ミキサーの"キュー・ボックス"で構成されていて、ミキサーやDAWからの出力をマスター機に入力、ここから複数のキュー・ボックスに信号を分配するようになっています。例えば、ボーカルを単独でch1に返せば、どのキュー・ボックスでもch1のフェーダーを上げると、ステレオの2ミックスに対しボーカルの音量が大きくなる......というシンプルな操作が基本です。ところが、COM1805にはマスター機がありません! 小規模スタジオでの使用を前提にした本機は、直接キュー・ボックスにDAWなどからの信号を入力できるのが特徴です。しかも入力コネクターはD-Sub 25ピンのアナログ(バランス8ch)で、DIGIDESIGN 192 I/Oなどと同じピン配列。つまり、DAWシステムやデジタル・ミキサーからケーブル1本で直結するだけで、キュー・システムを構築できるのです。宅録メンにはうれしい、時代の流れを汲んだ製品であります。

2系統×2で4人までモニタリング可能
色付けの無いフラットな音質


本体を手にした感触は軽く、見た目にも美しい楽器的なデザインも好印象です。入力はメインのL/Rのほか、AUX6系統。AUXフェーダー上部にはA/Bのアサイン・スイッチがあります。これは2系統あるヘッドフォン出力(A/B)に対するアサイン・スイッチです。例えば片方はAUX1に入れたクリック付き、もう片方はクリック無しというように、1台でも使い方次第で通常のキュー・ボックス2台分の役割を果たしてくれます。これはお得です。その2系統のヘッドフォン出力には、それぞれ同じ出力内容の端子が2つずつ用意されています。つまり、2人までならそれぞれに最適なバランスを提供できるし、頑張れば4人までモニタリングできるという仕様になっています。モニター用のものである以上、本機には音色的に"目立った特徴があってはならない"わけです。音に色を付けず、ケーブルを引き回しても劣化させず、そのままの状態をいかに保つかが評価の対象になるのですが、よくスタジオで用いられているモニター用ヘッドフォンで聴いてみると限りなくフラット。これはすごいことです。そして、シンプルな操作性は、機材に詳しいエンジニアではなく、プレイヤー側に立って考えられています。本機にはパンも無く、左右に定位させるソースはエンジニア側でメインに送ってあげる必要があります。付けようと思えば付けられるはずなので、"パンって何ですか?"という経験の浅いプレイヤーにも分かりやすいようにシンプルにまとめたと考えれば、うなずけるところです。また、オプションが豊富な点もポイントで、本機の入力前にD-Sub 25ピンの8ch信号を3系統に分岐し、本機3台の同時使用を可能にするバッファー・アンプ、キャスター付きの専用スタンド、マイク・スタンドに取り付けられるアダプターがあり、さまざまな状況下で使用可能。プロの小規模スタジオから、環境改善を図りながらもコストを抑えたいアマチュアにまで対応できるでしょう。誰しもが常に恵まれた環境で音楽ができる訳ではありませんから、音もプレイも"どんな状況でも、バッチシいいもんを出しますよ"が基本だと筆者は思います。それでも、やりにくいよりやりやすい方が、良い結果を得られるもの。ヘッドフォンを頼りに録音するならば、その環境を可能な限り充実させることは大切です。本機は、そんな環境改善に一役買ってくれそうな製品だと思います。

▲フロント・パネル。左から電源インレット、電源スイッチ、入力端子(D-Sub 25ピン/バランス)

CONISIS
COM1805
102,900円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/5Hz〜100kHz(−0.5dB以内)
■ヘッドフォン定格出力/3.8W(24Ω負荷)、1.8W(60Ω負荷)
■入力端子/D-Sub 25ピン
■外形寸法/270(W)×55(H)×167(D)mm
■重量/2.0kg