USB出力機能も装備した人気モノラル真空管マイクプリの後継機

ARTTube MP Project Series With USB

DAWを駆使することで日々音楽を制作している私ですが、ソフト・シンセやプラグインなどを使用したDAW内部完結の制作はどうしても音像が平板になりがちだと思っています。そこでアコギやコンパクト・エフェクター、外部シンセやミキサーなどのアナログ・ツールを積極的に活用しているわけなのですが、気になりながらも、なかなか試す機会が無かったのが単体マイク・プリアンプ。今回チェックするのは、そんな1chの小型真空管マイクプリとして人気を博したTube MPの後継機、Tube MP Project Series With USB。その名の通りUSBオーディオ・インターフェース機能(出力のみ)も備えたこのモデル、早速制作システムに組み込んで試してみました。

ローカットやリミッター・スイッチまで
必要十分な操作子をレイアウト


まず外観から見てみましょう。アルミ・シャーシ製のボディはコンパクトなサイズなので置き場を選ばなさそう。アールを帯びた両サイドにはラバーがあしらわれており、このラバーは本体の脚も兼用。複数台のスタックにも対応しています。フロント・パネルにはゲイン、アウトプットの各ノブと、+20dB、+48Vファンタム電源、位相反転、そして前Tube MPには無かったインピーダンス(4.7kΩ/600Ω切り替え、XLR入力時のみ)、ローカット・フィルター、リミッターの計6つの自照式スイッチが並びます。さらに4ステップのLEDレベル・メーターも装備し、マイクプリとして必要十分な操作子がスマートに配置されている印象。実際にノブを回すと適度な重さがあって心地よく、細かいレベル調整に役立ちそうです。一方、リア・パネルにはインプットとアウトプット端子をそれぞれXLR/フォーンで用意。アウトプットに関してはXLR/フォーン両方から同時出力することも可能で、真空管サウンドを生かしたDIとしても利用することができます。

真空管ならではの密度の高い音
過剰にひずませたサウンドも“使える”


いよいよ音出しです。まずはSHURE SM57を接続して、愛用のアコギを収音してみました。その印象はずばり“密度が高い”です。弦の響きにキメ細かさが加わり、音のディテールが増した感じ。また想像していたハイ落ちやノイズなどは特に感じられず、とてもクリアな音という印象です。次にエレキギターをライン接続してみましたが、ライン録り特有のハイ落ちや心地悪いフラットさが消え、しなやかでナチュラルなサウンドを得ることができました。ゲインを多少上げた軽いひずみ感は、特にカッティングに最適でしょう。続いて現在作業中の曲のボーカル・トラックをDAWから一度出して本機に入力し、その出力をアナログ・ミキサーに立ち上げて元トラックと聴き比べてみました。う〜ん、これまたいい感じ。声にツヤが出て、より音楽的になった印象。張り上げた高音部も柔らかく響きます。さらにソフト・シンセもDAWから出力して通してみたのですが、これも音の質感を柔らかく変えてくれ、曲に新たな表情を加えることができました。同様にリズム・トラックも通してみましたが、+20dBスイッチで過剰にひずませると、かなりカッコ良いです!また個人的に気に入ったのがリミッター・スイッチ。入力部でのクリップを防いでくれるのですが、過大入力気味にしたときのコンプ感がとても心地良いのです。ゲイン・ツマミでかかり加減(アタック感)が変わるので、ギターやリズム・トラックの音色作りに活用できると思います。もちろん通常のリミッターとしての使用も可能です。さて本機の大きな特色が、背面のUSB端子。コンピューターへ本機の音をダイレクトに送ることができるのです(コンピューターからの入力は不可)。Windows/MacのOS標準ドライバー(WDM、Core Audio、SoundManager)に対応しているのでインストール作業などは不要。私もケーブル接続とDAWの設定だけでごく簡単に本機の出力を認識させることができました。さて、これがかなり使えます。先ほど試したようなソフト・シンセなどの出力を簡単にコンピューターに戻すことができるので、真空管を経由したサウンドを手軽にDAWに組み込むことができます。A/Dも十分実用的なクオリティかと思います。ただし多少のレイテンシーはあるので、生演奏を取り込む際にはミキサーなどを併用してモニター音が遅れないように工夫する必要があるかもしれません。なお、本機のUSBインターフェース機能だけを省略したTube MP Project Series(20,790円)もラインナップされています。予想以上に私の制作システムに変化を加えてくれた本機。ずっと聴き続けたくなるような、心地よい真空管サウンドが印象的でした。コンパクトな筐体ゆえ、さまざまな接続を気軽に試せるのも大きな魅力かと思います。加えて導入しやすいその価格。生録主体の方はもちろん、打ち込みにアナログ感を加えたいという方にもお薦めです。

▲リア・パネル。左上からUSB、アウトプット(フォーン、XLR)、インプット(XLR、フォーン)が並ぶ

ART
Tube MP Project Series With USB
27,090円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜40kHz(+0、−1dB)
■全高調波歪率/<0.05%(typical)
■入力インピーダンス/1MΩ(フォーン)、4.7kΩ/600Ω(XLR)
■真空管タイプ/12AX7A
■対応OS(USB接続時)/Windows 98SE以降、Mac OS 9.1以降、Mac OS X
■A/D部/16ビット、44.1kHz/48kHz
■外形寸法/150(W)×165(D)×44.5(H)mm
■重量/1.14kg