ルパート・ニーヴ氏設計による上品でナチュラルな効きの5バンドEQ

RUPERT NEVE DESIGNSPortico 5033

プロフェッショナル・オーディオ業界の巨匠、ルパート・ニーヴ氏が立ち上げた新ブランド=RUPERT NEVE DESIGNS。同社のPorticoは独自の設計哲学にこだわり、ディスクリート回路を用いて1Uハーフ・ラック・サイズで統一されたシリーズだ。マイクプリ、EQ、コンプなどのコンポーネントを好みに応じて選択できることからも分かるように、DTMからプロ・ユースまで多様なレコーディング環境に合わせて省スペースかつ高品質なシステムを実現するというコンセプトの下に開発されている。今回紹介するPortico 5033は、同シリーズの第5弾として登場する5バンドEQだ。

バス・アウト端子により
シリーズ同士の連携も容易


まずはそのルックスだが、過去4機種の流れをくんだ重厚感ある外観となっている。同シリーズは、今のところすべて横置きのホリゾンタル・タイプに加え、縦置きのバーチカル・タイプを用意。前述したようにPorticoの各機種を組み合わせてシステムを構築していきたいと考えているユーザー、特に十分にスペースの無いプライベート・スタジオや小さなプリプロ・スタジオにとっては、縦置きでラック・マウントできるのは、意外と大きなポイントかもしれない。次に、Portico 5033の仕様について触れていこう。入力は1ch仕様のライン入力のみとなっており、マイクを入力したい場合には、別途マイクプリを用意し組み合わせる必要がある。Porticoは全機種にバス・アウト端子(TRSフォーン)を装備しているので、同シリーズのマイクプリPortico 5012であれば、接続も簡単だ。インプット・トリムは±12dB。各バンド・セクションの特性は、LF:シェルビング・タイプ、30〜300Hz、±12dB/LMF:ピーキング・タイプ、50〜400Hz、±12dB/MF:ピーキング・タイプ、330〜2,500Hz、±12dB/HMF:ピーキング・タイプ、1.8kHz〜16kHz、±12dB/HF:シェルビング・タイプ、2.5kHz〜25kHz、±12dBとなっていて各バンドは独立してバイパスが可能だ(LFとHFは共通)。またピーキング・タイプのLMF、MF、HMFに関しては、連続可変でQ幅を調整することができる。

きめ細やかな設定ができ
スタジオでの使い勝手も良好


本機は5バンドEQなので操作の自由度が高い。各バンドのトリムはクリック無しの連続可変となっており複雑なEQカーブも自由に描くことができ、シビアでキメ細かな調整が可能となっている。各バンドの受け持ち帯域も適切に設定されていて使い勝手が良く、直感的に欲しいバンドに手が伸びる感じだ。5バンドは完全に独立して同時に使えるので、操作の煩わしさもない。各バンドのON/OFFスイッチにはインジケーターが内蔵され視認性が良く、一目で状態が把握できる。迅速でスムーズな作業を求められるレコーディングの現場では、使い勝手が良いであろう。また、EQセクション全体のALL BYPASSスイッチが付いているので、EQ前後の素早い比較が可能となっている。ちなみに、各バンドはOFFにした状態で、このALL BYPASSスイッチをON(→EQセクションをバイパス)とOFF(→EQセクションON)で切り替えてチェックしたところ、OFFの場合にサウンドが若干太く、メリハリの効いた方向へ変わる感じがあった。

クセの無いキャラクターは
ファーストEQにも向く


今回は録音済みのボーカルに使用してみたが、狙った複数の帯域を思うままにピンポイントで操れる感じだ。音色に特徴的な色付けは薄いが、極めてナチュラルかつ上品で、位相を乱すこともなく安心して使用できる。積極的な音作りというよりは、レコーディング時の補正や最終ミックス時のトータルEQ(2台用意しなければならないが)などの、クオリティが求められる場面に頼りになる製品だと思う。ルパート・ニーヴ氏の設計ということで、いわゆる“オールドNEVE”と呼ばれている機種との比較が気になる方も多いと思うが、同シリーズはそもそものコンセプトからしてそれらの復刻的なニュアンスとは違い、あくまでDTMを含む現在の録音環境におけるニーズを前提に、最新技術を生かして作られている。そうした意味では正統派のEQ、扱いやすいEQであり、ファースト・カーならぬ“ファーストEQ”としても適切なキャラクターと言えるだろう。Portico 5033はプロ・スタジオの定番EQに取って代わるような画期的な製品ではないかもしれないが、信頼性の高い同シリーズのEQとしての役割は十分果たしている。なお、このPorticoシリーズは、今後も新しいラインナップが続々展開されていくとのことなので、さらなるコンビネーションの広がりにも期待したい。

▲リア・パネル。左より電源スイッチ、バス・アウト(TRSフォーン)×2、アウトプット、インプット(共にXLR)

RUPERT NEVE DESIGNS
Portico 5033
オープン・プライス(市場予想価格/241,500円)

SPECIFICATIONS

■インプット・トリム/±12dB
■特性/LF:シェルビング・タイプ、30〜300Hz、±12dB/LMF:ピーキング・タイプ、50〜400Hz、±12dB/MF:ピーキング・タイプ、330〜2,500Hz、±12dB/HMF:ピーキング・タイプ、1.8kHz〜16kHz、±12dB/HF:シェルビング・タイプ、2.5kHz〜25kHz、±12dB
■外形寸法/237(W)×48(H)×240(D)mm
■重量/3.18kg