サミング・ミキサー8816の機能を拡張する専用フェーダー・パック - サンレコ〜音楽制作と音響のすべてを届けるメディア

NEVE8804

稲葉なるひ（BE-BORN STUDIO）

このところプリアンプ類を中心とするアウトボード新製品がめじろ押しのNEVEであるが、既に発売されている8816というサミング・ミキサーに、専用のフェーダー機能を追加するフェーダー・パック、8804という製品がリリースされたのでチェックしてみよう。

チャンネル・フェーダーに加え
ダイレクト・アウトも追加

親機となる8816（オープン・プライス／市場予想価格498,000円前後）については既に本誌７月号で詳しくレビューされているが、8804に触れる前にあらためて簡潔に概要をまとめてみたい。8816は16イン／2アウトのアナログ・ライン・ミキサーである。ヘッド・アンプこそ無いが、トークバック、ヘッドフォン・モニター、２系統のモニター切り替え、マスターでのインサート、ステレオ音像を調整するワイズ機能なども装備されており、単なるサミング・ミキサーではなく、モニター・システムの意味合いも含む充実した仕様となっている。この多機能ミキサーにフェーダーを追加するのが8804だ。8804を導入するにあたっては、まず8816の内部基板上にあるジャンパー設定を変更する必要がある。ジャンパー設定後はレベル・コントロールはすべて8804のフェーダーへ移行し、8816のLEVELつまみは各チャンネルのAUXセンド（プリフェーダー）に変身する。同時にマスターのMIXレベルも8804側へ移行してしまう。このことから分かるように、8804は8816と常時併用することを前提としているのだ。そのほか、特筆すべき追加機能としては8804側から各チャンネルのダイレクト・アウトが抽出できる。なお8804を通るオーディオ信号はすべてアナログで、8816との接続にはD-Sub 50ピンのアナログ・ケーブルを使用する。また、外部のコンピューターに専用ソフトをインストールし、8804とUSB接続することで、フェーダー側でのSOLO/CUT操作のほか、フェーダー位置のストア／リコール、ダイレクト・アウトのプリ／ポストフェーダー選択などの設定が可能になる。ただし、DAWと連動しているわけではないので、勘違いしないようにしていただきたい。

NEVEらしい腰のあるサウンド
録音時にもさまざまな使い方が可能に

音質は、さすがNEVEとあって腰のあるサウンド。DAWの内部ミックスでは分離が良すぎて飛び出してしまうような音、例えばキックとベースのアタックなども自然になじんでくれる。NEVE伝統のＳ/Ｎの良さにも驚かされた。8816＋8804の状態と8816単体とで比較もしたが、印象に大きな違いは無かった。では、8816に8804を加えると、何ができるようになるのか？例えば単体プリアンプを直接DAWへ入力すると、微妙なゲイン調整ができないことがある。特に、ドラムやボーカルなど突発的なピークが出るソースに対処するのは難しい。そこで、8816＋8804をプリアンプの後にかまし、ポストフェーダーでダイレクト・アウトからDAWへ出力しておけば、入力レベルをスムーズに調整できるようになる。また、ボーカル録音ではプリアンプとコンプの間にフェーダーを挟み、コンプへ入力する歌の音量を調節すれば、コンプのかかり具合を一定にならすことができ、抜けも良くなる。もちろん、サミング・ミキサーとして使用する場合にも便利になるだろう。ミックス時はDAWの各トラック上でレベルのオートメーションを書くので、後からトラック全体の音量を上下するのが煩雑になってくる。そんなときにボーカル、ベース、ギターなど主要な楽器をうまく16chにまとめてDAWから8816＋8804へパラレル出力しておけば、簡単にバランスの再調整ができる。しかもNEVE独特のサウンドで２ミックスが作れるのが魅力だ。さらにマスタリング前段階でボーカル、ベース、リバーブなどをステム・ミックスとしておき、8816＋8804でまとめるのも有効だろう。機能や音質について全く不満は無いが、8804のD-Sub端子が底面にあるため、机上での使用には問題があった。チルト・バーが付いているものの、曲がりにくい極太マルチケーブルが邪魔になってしまうのだ。D-Subケーブル２本ともなるとかなり太く重いので、デスクやラックへのマウントを前提としたいところだ。現在のDAW環境では、アナログ・フェーダーは絶対に必要なものではなくなってしまった。しかし、先に挙げた以外にも自分なりの利用法がたくさんあるのではないかと思う。8804も、あれば必ず使用するものであることは間違いない。