伝統のAPIサウンドを継承するADコンバーター搭載のマイクプリ

APIA2D

1970年代からアメリカのバンド・サウンドを支えてきたAPI。今日では本来のコンソールのイメージより単体モジュールとしての存在感が大きいかもしれない。今もなお人気のあるAPIの無骨で男らしいサウンド・カラーはやはりアメリカン・ロックの音である。それをさらに印象付ける伝統的ブラック・パネルやブルーのロゴ、独特な形状のツマミなど、1968年設立以来現在に至るまで一貫したそのフェイスは、時代を超えたアートとも言うべき風情を漂わせている。さて、先ごろ発売された同社のA2DはADコンバーターを搭載したプリアンプ。パネル色は何とシルバーだ。あの伝統カラーを変更し、今までのイメージとは異なる洗練されたデザインからはAPIが“新しい時代に入った”という決意を感じ取ることができる。早速チェックしていこう。

API特有のガッツのあるサウンドと
現代的なハイファイさが同居


A2Dのプリアンプ部には既に定評のあるAPI 312を2基搭載。フロント・パネルにはインプット・ゲインやファンタム電源/PADスイッチなどが並ぶ。20セグメントのLEDを採用したレベル・メーターは非常に見やすい。さらにフロント・パネルにはHi-Z入力(フォーン)を用意。リア・パネルには、アナログ入出力(XLR)およびデジタル出力であるAES/EBU(XLR)とS/P DIF(コアキシャル)、ワード・クロック入力(BNC)などが並ぶ。また、Master Out/Slave In(D-Sub9ピン)により、複数のA2Dをリンクさせることも可能だ。では、音をチェックしていこう。そもそもAPI 312は決してハイファイではないが存在感のある中高域が特徴で、私はよくエレキギターなどに使用していた。A2Dからはどんな音が出てくるのだろうか? まずは音源モジュールのピアノ音色をアナログ入力に接続。第一印象は中低域の支えがしっかりとしていて、繊細というより荒々しい中高域が際立つ元気のいいサウンドというものだ。続けてエレキベースをHi-Z入力に接続してみる。4〜5kHzくらいの“ジャキ”っとしたところが強調されるため、ギターによくマッチする。また、ベースは特にピック弾きがよく合う印象だ。ほかのプリアンプとも聴き比べてみたところ、やはりそのAPIならではのサウンド・カラーは健在と感じた。さらに、アナログ入力にCDプレーヤーをつないで再生してみたところ、総合的に高域のヌケが非常によく、オリジナルのAPI 312より洗練されている印象だ。伝統的な中域のガッツのあるサウンドもしっかり継承していて、なおかつ今の時代にマッチするハイファイな仕上がりになっているのが素晴らしい。ハイファイさはボーカルにも威力を発揮し、NEUMANN M49で録ったボーカルの場合、立ち上がりの良さを伝えてくれた。A/Dに関してはAES/EBU出力をDIGIDESIGN 192 I/Oに接続してチェック。やはりハイファイなサウンドが十分に伝えきれていると感じた。

2:1スイッチやA to D入力といった
“進化”した便利な機能も充実


さて、このA2Dにフロント・パネルには“2:1”スイッチというものが付いている。これは出力レベルを10dB下げることができるもので、意外に効果のある機能である。普段レベルの大きいライン楽器などはPADで入力を抑えることが多いのだが、本機のPADは−20dB。その分入力ゲインを上げると、機材的には多少無理がかかってしまうことがある。しかし、このスイッチをオンにして、出力レベルを下げればPADを使わなくて済む場合があるのだ。こうしてアンプにとって“いい状態”で本機を使用できるのはうれしいところ。ちなみに本機にはAPI 2520というオペアンプが採用されているのだが、これは昔から同社のコンソールに搭載されている、いわばAPIの心臓部である。名機512Cや550Aなどに使われている事実からも、このオペアンプがAPIサウンドを作り出していると言っても過言ではない。音源によって多少の差はあるかもしれないが“PAD”と“2:1”スイッチを使って効果的にゲイン・コントロールして機材への負担を減らし、この2520のパフォーマンスを最大限に引き出すことが本機を有効に使うためのカギとなるだろう。A2Dにはさらに特記すべき機能がある。それはリア・パネルにあるA to Dという2系統のアナログ入力(1/4フォーン)だ。例えばch1にマイク、ch2のHi-Z入力にエレキギター、そしてA to D入力にデジタル・ピアノなどの音源を入力すればアナログ2ch(マイク&エレキギター)/デジタル2ch(ピアノL/R)の完全に独立した4ch分の信号を同時に出力可能。A to Dに入力した音はゲインやスイッチ類の影響を受けないが、ここにソースを接続することによりデジタル出力部をアナログ部から完全に切り離すことができる。急速なデジタル化やDAWの台頭など、ここ数年のレコーディング機器の変遷には目覚ましいものがあるが、デジタル機器だけでなくアナログ機器もまた新たな“進化”が求められる時代になった。それは単にデジタル機能に特化するのではなく、アナログ的なアイディアを組み合わせること。APIがここに送り出したA2Dはそれを感じさせてくれた機材である。APIサウンド+ハイファイさ……A2Dのシルバー・カラーはDAW全盛の時代に“新たな輝き”を放っていくに違いない。

▲リア・パネル。左からS/P DIFデジタル出力(コアキシャル)、AES/EBU出力(XLR)、ワード・クロック入力(BNC)、Master Out/Slave In(D-Sub9ピン)が並ぶ。さらにアナログ入出力(XLR)、A to D入力(フォーン)を2系統用意。なお、フロント・パネルにはHi-Z入力がある

API
A2D
346,500円

SPECIFICATIONS

■チャンネル数/2
■ゲイン可変率/10〜65dB(マイク)、14〜50dB(アンバランス)
■入力インピーダンス/1.5kΩ(マイク)、470kΩ(アンバランス)
■出力インピーダンス/75Ω
■最大出力レベル/+28dBm
■周波数特性/10〜20kHz(+0dB/-0.5dB)
■全高調波歪率/0.03%(+4dBu出力@2kHz)、0.09%(+22dBu出力@2kHz)
■出力サンプル・レート/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz
■外形寸法/483(W)×44(H)×200(D)mm
■重量/5.0kg