CBSソニー六本木スタジオのチーフ・エンジニアをしていた当時の私は、NEVEコンソールの使用が多かったのだが、1982年8月に音響ハウスの1stへSSL SL4000Eがインストールされて以来、このコンソールを使い始めた。EQの効きが良く、自分の意志に音色を近付けることが容易となったからだ。その後、SSLコンソールは発展を続け、XL9000KのSuper Analogue回路にてひずみ感の非常に少ないサウンドを実現した。今回チェックするX-Rackの２つのモジュールは、そのSuper Analogue回路を採用したものだ。
ひずみ感の少ないMic Amp
入力インピーダンスの変更も自在
テストに使用したX-Rackの構成はX-Rack Mic Ampモジュール×２、X-Rack Channel EQモジュール×２、そしてX-Rack Dynamicsモジュール×４という構成である。X-RackのコンセプトやDynamicsモジュールは既に本誌４月号でもレビューされているので、ここでは新登場の２つのモジュールを見ていくことにする。まずはMic Ampからチェックしていこう。各モジュールごとにマイク・インプット用（XLR）とライン用（XLR）の２系統の入力をリア・パネルに、フロント・パネルにHi-Z入力１系統を備え、合計３系統のインプットが用意されている。Hi-Z入力にはグラウンド・リフトも付いていて、ノイズ対策にも優れている。周波数可変のハイパス／ローパス・フィルターも装備。そのほか、OUTPUTセクションとして用意されたREC L/Rのバス・セレクトは、後に発売となるMixer/Monitorモジュールへのルーティングに使用できるそうだ。音質は言うまでもなく良い。マイクをダイレクト入力すると、XL9000Kからスモール・フェーダーを省いた分だけ良く、ひずみ感は全く無し。リボン・マイクからコンデンサー・マイクまで幅広く対応できるよう、入力インピーダンスが調整できる点も良い。スイッチで切り替えるタイプのものはしばしば見かけるが、連続可変のノブまで付いているモデルはあまりなかったように記憶している。今回はNEUMANN M149（出力インピーダンス／50Ω＠1kHz）でアコギを録音したところ、このノブを９〜11時にセットすると音が抜けてきた。
E/Gシリーズを再現したChannel EQ
全バンドでベル・カーブを選択可能
続いてChannel EQモジュールを見ていこう。昔からのSSLのEQサウンドを継承しつつ、現在のXL9000KコンソールのEQを再現／発展させているものだ。HFでは最高周波数が22kHzまであり、なおかつベル・カーブをセレクトすることもできる。またHMF、LMFにおいてはE/Gシリーズ・コンソールのカーブ特性の選択も可能となっている。また、４バンドすべてでベル・カーブを選択すると、ピンポイントで周波数をブースト／カットでき、グラフィックEQ的に扱えるという点でも優れものという印象だ。今回はDIGIDESIGN Pro Toolsの96kHzセッションで、アナログ・アウトにインサートして適正レベルでテストしたのだが、特にドラムに使用した際に好みの音色が作りやすいと感じた。最後にX-Rack全体で特筆すべきは、設定のトータル・リコールができること。持ち運びの際にもすぐにセッティングが再現できるため、外部スタジオでの録音から自宅でのミキシングといった具合に忙しく仕事をする上でも便利だ。 X-Rackは、こうした現在のスタイルにまさしくマッチした機材の一つと言えるだろう。
▲リア・パネル。左端は電源インレットと下にアース端子、右にトータル・リコール・イン＆アウト（D-Sub 9ピン／AWS900などとの接続用）、MIDI IN/OUT（トータル・リコール用）が並ぶ。その右が各モジュールの入出力端子群（すべてXLR）。左から４つがDynamicsで、上からIN、入力レベル切り替えスイッチ（＋４dBu/−10dBV）、KEY入力、OUT。その右２つがChannel EQで、上からIN、入力レベル切り替えスイッチ（＋４dBu/−10dBV）、OUT。右端２つがMic Ampで上からIN（マイク）、LINE入力、OUT
SPECIFICATIONS
●Mic Amp
■入力ゲイン／＋12〜75dB
■ヘッドルーム／＋26dBu
■周波数特性／20Hz〜20kHz（＋0.05/−0.1dB）、〜150kHz（−３dB）
●Channel EQ
■周波数特性／20Hz〜20kHz（±0.5dB）、〜200kHz（−３dB）
●X-Rack
■外形寸法／483（Ｗ）×178（H）×275（D）mm
■重量／6.5kg（モジュール×８装着時）
