ループ・マシンと呼ばれるエフェクターはリアルタイムで演奏フレーズをオーディオ録音し、ループ再生できるもの。さらにダビングまで可能な製品もあり、即興性の高いライブで使われているのを目にします。デジタル・ディレイのホールド機能やテープ・ディレイのサウンド・オン・サウンドと原理的には同じですが、大きな違いはループ再生できるフレーズの長さで、それらの多くがせいぜい３秒くらいなのに比べ（機種にもよりますが）、最近のループ・マシンは10秒〜５分以上という、長時間のループが可能なのものもあります。今回紹介するELECTRO-HARMONIX 2880もそんなループ・マシンです。
マルチトラック仕様なのに加え
長時間の録音に対応
ELECTRO-HARMONIXは1983年にループ・マシンの元祖となる16 Second Delayを発表しているのですが（現在復刻版あり）、2880は同一トラック上に音声信号をダビングできるだけでなく、トラック数が４とマルチトラック仕様になっているのが新しいところです。スペックをざっと見ると、録音は16ビット／44.1kHz非圧縮とCDクオリティ、録音メディアとしてコンパクト・フラッシュ（最大2GB対応）を使用します。付属の128MBのコンパクト・フラッシュで最大４分までのループを録音可能で、トータル・レコーディング・タイムは1,440秒。また、本体にUSB端子が付いていて、コンピューターへのデータ転送が可能です。さらに、MIDI IN/OUTも装備して、MIDIのマスター／スレーブとして機能します。また、６つのスイッチを備えた専用フット・コントローラー（23,100円）もあり、ライブ時に手のふさがる楽器演奏者には必須アイテムだと思います。入力はハイインピーダンスのフォーン入力が２系統で、ステレオ・モードにすると２つの録音トラックがペアになり、ステレオ録音／再生が可能になります。出力はL/R（フォーン）、ヘッドフォン。なお、ステレオ・ミニ仕様のAUX入力もあり、この信号はルーパーをバイパスして直接出力されます。
パンチ・インやテンポ変更など
簡単な操作で実現
では、実際にエレキギター、エレクトリック・バイオリンといった楽器を接続し、実力を試してみましょう。まず、演奏を録音してループを作り、さらにダビングをしてみると......音が良いのに感心しました。これまでのループ・マシンは2880に比べるとサンプリング・レートが低かったり、データが圧縮されるものが多く、原音とループの音質が異なることがあったのです。テープ・ディレイでは音がこもるのが味だったのですが、ループ・マシンの場合はリアルタイムの演奏とループの音質に差が無い方が音楽を組み立てやすくなるので、好印象です。なお、基本的にループの長さはRECORDスイッチを押したタイミングで自由に設定できます。リバース（逆回転）やオクターブ（オクターブ下で再生）といったループ・マシンでおなじみ機能も良好で、スイッチを押した瞬間に即切り替わるのが良いです。それに、パンチ・イン機能も面白い。これはダビングをしている際にPUNCH-INスイッチを押すと、それまでの音を消去してパンチ・イン／アウトする機能で、ループの一部分を録り直すことによって、フレーズを変化させることができます。また、録音トラックの長さは、最初に録音したトラックと同じ長さになります。なお、いったん録音したトラックは電源を切っても保持されますが、NEW LOOPスイッチを押して録音を始めた瞬間にすべてのトラック・データが消去されるので、注意が必要です。ほかのループ・マシンと異なる機能としては、TEMPOスライダーによるコントロールがあります。これは、最初のループを録音した後、半音単位で最大１オクターブまで再生スピードを上下させることができるもので、速くした状態でダビングし、スピードを遅くするとダビングした音は低く再生されます。元のスピードと同じになるとLEDが点灯するので、元に戻すのは簡単です。さらに、2880にはMIX DOWNトラックがあります。これは既に録音した４つのトラックをミックスするもので、通常のミックスのほか、リバースやオクターブ、TEMPOスライダーの操作が可能なモードもあります。これを使うと、録音したトラックをさらに極端に変形させることができ、痛快です。2880はリアルタイムでの操作性が優れているだけでなく、音の良いループ・マシンです。４つのトラックとミックス・ダウン機能を使いこなせば、型にはまらない表現が可能になるでしょう。
▲リア・パネル。DCイン、MIDI OUT/IN、フット・スイッチ入力、ヘッドフォン端子、アウトプット×２（フォーン）、AUX入力（ステレオ・ミニ）、インプット×２（フォーン）が並ぶ
SPECIFICATIONS
■同時再生トラック数／４
■同時録音トラック数／２
■量子化ビット数／16ビット
■サンプリング・レート／44.1kHz
■入力インピーダンス／LEFT/RIGHT：470kΩ、AUX：6.8kΩ
■出力インピーダンス／400Ω
■外形寸法／235（W）×65（H）×160（D）mm
■重量／1.2kg
