モニターに便利なインライン・ミキサー機能を装備する8chマイクプリ

ATI8MX2

ATI(AUDIO TOYS INC.)は、ボブ・ディラン、スティーヴィー・ワンダー、U2などの有名アーティストのツアーにも採用され、高く評価されているコンソールParagonのメーカー。あのAPIの親会社としても知られています。今回、同社から発売された8MX2は、そのParagonのマイクプリ部を8ch分実装したモデル。しかも、モニター・ミックス機能も備え、さしずめ“1Uサイズの8chインライン・ミキサー”とも呼べる仕様となっています。

存在感のあるアメリカン・サウンド
ピーク・リミッターも8基搭載


まずマイクプリ部から見ていきましょう。各チャンネルには2連つまみが2つありますが、緑色の内側がマイクプリのゲインです。41ステップ・ゲイン方式で、最大ゲインは65dB。ゲイン60dB時でも歪率は0.008%という、優れたスペックを誇っています。今回、試聴対象にはスタジオ・コンソールSSL SL4000GとMACKIE.の小型ミキサーCR-1604を用意し、総価格差100倍を超える、しかし昨今の現場ではよく見かける状況を設定してテストしてみました。本機の印象は“物言いのはっきりした、良きアメリカン・サウンド”。低域、中域に張りのある音です。最近ではあまり見かけなくなった、NEOTEK、MCI、HARRISONなどのアメリカン・コンソールを思い浮かべました。こんな表現をすると、“古き良き時代の……”なんて言葉を連想されてしまいそうですが、その懐古的なニュアンスではありません。PA機として良い評価を得ている回路ならではの、存在感のある音と言えるでしょう。また、本機はマイクプリだけでなく、全インプット・チャンネルにピーク・リミッターも搭載。これはデジタル・レコーディング、特にライブ収録時に、“不意打ちピーク成分”によるレコーダー側でのクリップを防止できます。チャンネルごとにスレッショルド(+24〜4dB)の調整ノブが用意されているのみで、最大−20dBまで、問答無用にピークを抑えるのです。この問答無用さは、積極的に音作りに利用してしまおうというイタズラ心を起こすくらいです(私は気に入っています)。さて、先に“低歪率を誇る”と書きましたが、意図的にひずませた音もテストしてみました。個人的な印象では、SSLよりも好み。音楽ジャンルによっては、積極的にひずませて使ってみようかと思ったくらいです。回路設計で低ひずみを追求すると、いざひずんでしまった場合は汚い音に聴こえる……というのが通説なのですが、この辺りがATIの技術力なのでしょうか? 回路にかけるDC電源電圧が48Vと比較的高く設計されているにしても、ディスクリート設計でもないのによくできたマイク・プリアンプだと思いました。マイクプリに関連した機能としては、フロントにファンタム電源スイッチ、位相反転スイッチを、リア側にはグラウンド・リフト・スイッチも装備。最大入力は24dBmあるので、ゲインを最小にすればライン・レベルでも受けられますとうたわれていますが、もう少しゲインを絞り込んで受けられるチャンネルがあってもよいのではないかと思いました(ライブ録音の現場を想定して)。ちなみにマイクプリのパラアウトには、D-Sub 25ピン・コネクター(TASCAM DA-88やDIGIDESIGN 192 I/Oと同配列)が採用されています。もちろん前述の“問答無用パックン・リミッター”が効いた状態で出力されます。

マイクの入力とレコーダーの再生音を
切り替え可能なインライン・ミキサー


さて、本機はモニター・ミキサー機能も備え、各チャンネルにはパンとレベル・コントロール(黒い2連ポットの外側と内側)、ソロ・モニター用のCUEスイッチなどがあります。リア側にはMTRの各トラックの再生信号を受けるライン・レベルの入力(D-Sub 25ピン)を用意。レコーダーからの戻りをモニターできるので、ライブ録音時にはとても安心です。また、冒頭で“インライン”と書いたのは、ライン入力だけでなく各チャンネルのマイクプリを選ぶこともできるから。すなわち、ミキサー部をモニター・ミキサーとしても、複数のマイク入力をまとめたサブミキサーとしても活用できるわけです。各チャンネルのミキサー部へのアサインにはMIXスイッチを、ライン/マイク入力のアサイン切り替えにはRetスイッチを使います。さらに、マスター・セクションにはミキサー部の2trリターン入力、モニター・ソースの切り替え、チャンネル・リミッターのゲイン・リダクション・メーター、マスター・レベル・メーター、ヘッドフォン端子などがまとめられています。そのほか、ミキサー部は複数台の連結が可能なので、単体型のハード・ディスク・レコーダーなどと組み合わせれば安定性の高いマルチトラック・レコーディング&モニタリング・システムが組み上げられるでしょう。重量も4.5kgと軽いので、海外ツアーへの持ち出しなどにも良さそうです。唯一気になったのは、ヘッドフォン端子のインピーダンスが600Ω程度と高いこと。説明書にも明記されていますが、日本で普及している8Ωくらいのヘッドフォンでは、十分な音量が出せなかったり、本機のアンプ部を壊してしまう可能性もあります。そんなところもアメリカンですね。逆に、気になったのはその点と高価なことくらいで、良い機材です。

▲リア・パネル。左から電源インレット、上下にモニター・アウト(L/R)、ミックス・アウト(L/R)、2trリターン(L/R)が並ぶ(すべてTRSフォーン)。その右は複数台のカスケードに用いるスレーブ・アウトとマスター・イン(D-Sub 9ピン)、MTRとの接続用8chアナログ入出力(D-Sub 25ピン)、マイク・イン×8それぞれの上にはグラウンド・リフト・スイッチも装備

ATI
8MX2
522,900円

SPECIFICATIONS

■最大ゲイン/65dB
■入力インピーダンス/4kΩ(マイク)
■クリップ・レベル/+24dBm
■周波数特性/10Hz〜50kHz(+0/−1dB)
■歪率/0.008%(+4dBm出力@20Hz〜20kHz)
■等価残留ノイズ/−132dBm
■リミッター・レシオ/∞:1
■外形寸法/483(W)×44(H)×297(D)mm
■重量/4.5kg
■重量/4.5kg