厳選したパーツで構成される独自形状の2ウェイ・パッシブ・モニター

EVERYTHING BUT THE BOXTerraII Pro

急速なテクノロジーの進化により形を変えた音響機器は数あるが、スピーカーだけは基本に忠実に作られ続けている......そんな中、ブルガリアの新進メーカーEVERYTHING BUT THE BOX(以下、EBTB)が開発したのがTerraII Proだ。仕様はMOREL製100mmウーファーとSEAS製27mmシルク・ソフト・ドーム・ツィーターを搭載した2ウェイ・パッシブ・モデル。しかし、そんな仕様などどうでもいいくらいインパクトのある作品である。

厳選された87のパーツで構成され
細部にわたる芸術的な仕上げ


EBTBを創設したDobromir Doverb、Kamen Doverb兄弟はブルガリアで生まれ育ち、大学では水中音響学を専攻。1991年にプロ用機器の輸入商社を起こし、2003年にEBTBを設立した。長年にわたり進化が止まっているかのような"スピーカー"という難題に真っ向から行く姿勢はTerraII Proの形状から見て取れる。かつてヨーロッパとアジアの両文化を吸収したブルガリア一帯の東欧地域は"文明の十字路"と呼ばれ、多くの世界遺産や遺跡がある。TerraII Proの背面に施されたアーティスティックな金細工からはその伝統を受け継いだ技術がうかがえる。独特の形をしたエンクロージャー部分は真鍮またはアルミニウム製(モデルによる)で、古くから伝わる鋳造技術が用いられているそうだ。今回レビュー用として届けられたモデルは、エンクロージャー部分が真鍮製、フロント・パネルは本革仕上げで色は共にブラック。細部にわたる芸術的かつ細やかな仕上げは本当に素晴らしい。フロントとリアのエンクロージャー部分のカラーはオプションで選択可能だ。そして、小型ながら見た目の重量感もたっぷり。全部で87にも及ぶパーツの内、ドライバーなど一部を除いた大半が自社製造で自然素材を使う努力をしているそうだ。

ロック系のスネアなども含め
優れた定位感/臨場感の再現性


では、早速チェックしてみよう。アンプはACCUPHASE E-408、スピーカー・ケーブルはORTOFONまたはAETを使用。TerraII Proは設置面の影響を極力抑えるためのスパイクが装備されている(スパイク受けも付属)。基本は少し後ろに傾いた仕様であるが、後方にある2つのスパイクを伸ばす(ネジ構造)ことで垂直面に対し約7〜25度の範囲で傾きを調整可能だ。見た目や社名から受ける先入観が取り払われないうちの試聴だが、出てきた音は意外で実にまとまりが良く、中高域にかけて元気のよいサウンド。指向性も優れた印象だ。"箱"ではない故の工夫としてフロント・パネルにつけられた微妙なカーブや形などは、すべてこの前へ出てくる指向性の良さに現れていると思う。私は通常、部屋の反射による影響を極力受けないように近距離でのモニタリングをしているが、今回の試聴もいつもと同様に約1m正三角形の構図で行った。ロック、R&B、クラシックと聴いていくが、中高域にクセがあるものの全体的に定位感/臨場感ともによく再現できているのには驚かされる。特にロック系のスネアがバシッと決まってくるようなコンプの効いた音源には非常にマッチし心地よいサウンドを響かせてくれる。もう1台のアンプLUXMAN L-503Sでも試聴してみる。しかし、こちらでは3〜4kHzぐらいに頭打ちの感じが出てしまいバイオリン・ソロのようなアーティキュレーションの再現を多大に求められる音源に対しては多少苦戦を強いられた。周波数特性グラフを見ると、聴感上と同じような測定結果で100Hzから下は真っすぐ落ちていき、5〜6/10〜12kHz辺りに膨らみがある。中高域が目立つ印象だが、TerraII Proの背面にはパッシブの高域EQが付いており、MAXで+5dB、MINで高域をトータル・カットオフできる。ウーファーが直径100mmと小さいため低域の物足りなさは否めないが、私のスタジオのようにスピーカーがほかの機材に埋まってしまう環境や部屋のインテリアとして考えた場合でもこの指向特性や中高域のヌケのよさを持ってすればセッティングもさほど苦労しないだろう。今の空間に今の音楽......情報にまみれる現代において真に説得力のある音を出すにはやはり、アートも必要条件なのだろうか。それならば、TerraII Proは今現在から未来へ向かう分岐点に立つ機種であり、どちらに行くのであれ答えを導き出すヒントとなってくれるはずである。
EVERYTHING BUT THE BOX
TerraII Pro
294,000円/ペア

SPECIFICATIONS

■スピーカー構成/MOREL製100mmRMSウーファー(LF)、SEAS製27mmシルク・ソフト・ドーム・ツィーター(HF)
■周波数特性/69Hz〜25kHz ±3dB
■インピーダンス/8Ω
■能率/86dB
■許容入力/100W
■外形寸法/180(W)×380(H)×280(D)mm
■重量/約6.8kg(1本)