NEVEサウンドを踏襲しつつ現代的な機能も装備した2chマイクプリ

GREAT RIVERMP-2NV

多少語弊があるかもしれないが、ここ数年の録音機材業界は、かなりのNEVEブームだ。その火付け役とも言えるのが、私を含めた世界中のレコーディング・エンジニアにほかならない。オールドNEVEのサウンドをさまざまな現場で使用したいというその願いが、こうした波を起こしたわけだ。そんな中、また新たにNEVEサウンドを継承しつつ現在のレコーディング環境に対応した機材が登場した。NEVE 1073の基本回路を踏襲して作られた2chマイクプリのMP-2NVだ。

基本的な入出力&インサートのほか
モニター用の出力端子も装備


まずはフロント・パネルの構成から見ていこう。左側からギターなどを直接入力できるHi-Zイン(フォーン)、5dBステップでコントロールできるゲイン・コントロール、−10〜+10dBの間で調整できるアウトプット・レベル、位相を反転するPOLARITYスイッチ、インピーダンスを300/1,200Ωに切り替えるIMPEDANCEスイッチ、+48Vファンタム電源を供給するPHANTOMスイッチ、本機の特徴でもあるLOADINGスイッチ、そして入力アンプと出力アンプのメーターがあり、これが2ch分レイアウトされる。この中での注目点はLOADINGスイッチだが、これはあるエピソードを踏まえた面白い機能だ。かつて、自分の使っているNEVEコンソールの一部のモジュールだけ音色キャラクターが違うことに気付いたエンジニアがいたそうだ。その原因を調べたところ、入出力のトランスのロード抵抗が取り付けられていないことを発見。それによってトランスが高調波で鳴り、倍音に影響して独特なサウンドを生んでいたのだという。その状態のサウンドを再現したのがこのLOADINGスイッチというわけである。こうしたエピソードを1つの機能として再現してしまう辺りがGREAT RIVERの面白いところだ。続いてリア・パネルだが、2ch分の入出力(XLR)、インサート端子(TRSフォーン)に加え、基準レベルが−10dBに設定された出力(フォーン)を装備。これはDAWなどのレイテンシー問題を考え、メインのXLR出力を録音用に、このフォーン出力をモニター用として活用できるDAW時代ならではの端子である。こうしたちょっとした工夫も本機の魅力の1つである。

LOADINGスイッチにより
倍音のザラつき感を増幅可能


それでは実際の音について検証していこう。まずはボーカルを通してのチェック。第一印象は、非常に明るく張りのあるサウンドに感じられた。その印象が本当かどうか確認するため、他社の有名なプリアンプと比較してみたが、本機のサウンドはやはりかなり良い。好みのサウンドだ。音の粒が細かく感じられ、それでいて固いだけではなく、ふくよかさもある。オリジナルの1073と同じかどうかはさておき、とにかく“NEVE”という雰囲気は十分に感じられた。さらにそのNEVEサウンドに+α的な部分もあり、本機の完成度の高さがうかがえる。基本的なサウンドを確認したところで、先ほど紹介したLOADINGスイッチをONにしてみよう。スイッチを入れてみると、サウンドへ微妙にザラつき感が加わったようだ。しかしこのザラつき感は決して耳障りなものではなく、オケと混ざったときに少し前へ出てくる印象。アコギでもこのLOADINGスイッチを試してみたが、ボーカルよりも音に一層変化が感じられた。倍音の多い音になればなるほど、LOADINGスイッチの恩恵を受けやすいのかもしれない。サウンドが気に入ったこともあり、今回は本チャンのドラム録りでも本機を使用してみた。どのパートに使用するか悩んだ末、自分が所有するNEVE 1272系のプリアンプを使うことが多いスネアに通してみることにした。やはり良い感じで音が出てくる。ボーカルのときと同様、粒立ちの良い音で、スナッピーのザラザラ感もほかの音に埋もれず非常に良い。ゲイン・ツマミを上げ気味にしてつぶれ感を出そうとした場合も、変なクリップ無しに自然にひずんでくれた。最後にエレキギターにも使用してみた。ディストーション・サウンドでのチェックだったが、これも張りがあって前に出てくる音だ。粘り感は少し控えめだが、ゴンゴンしたフレーズも明確に出てくるので、音数の多いアレンジなどでは力を発揮するであろう。ちなみに音質とは直接関係ないのだが、入力をオーバーロードさせた場合でも入力と出力のメーターを別々に監視できるため、誤って極端に大きな音が出力されるようなことがなく、適正な音量を目で把握することができた。なかなか親切なメーター構成である。ただ、あえて気になる点を挙げるとするならば、アウトプット・レベルにセンター・クリックがあった方が良かったかもしれない。またPOLARITYやPHANTOMなど4つのボタンのデザインが全く同じため、何度か押し間違えることがあった。まあこの辺の感じ方は個人差もあり、大した問題ではないだろう。現在多くのNEVEサウンドが世に出回っている。オリジナルのNEVEでもラックの仕方や電源によって音のキャラクターが違うくらいなので、オリジナル/踏襲モデルを問わず自分の耳で聴いて気に入った機材を使用するのがベストだろう。“状態の悪い名機”よりも“音の良いコンセプト・モデル”といったところだろうか。

▲リア・パネルの入出力端子は、1chにつき左からインサート(TRSフォーン)、基準レベル−10dBのアウトプット(フォーン)、アウトプット(XLR)、マイク・イン(XLR)を用意。フロント・パネルにはハイインピーダンスのHi-Z入力(フォーン)も装備

GREAT RIVER
MP-2NV
オープン・プライス(市場予想価格/400,000円前後)

SPECIFICATIONS

■ゲイン幅/−5〜+70dB
■等価残留ノイズ/<−125dBm with 150Ω source at 40dB gain
■外形寸法/483(W)×44(H)×254(D)mm
■重量/4.8kg